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4.悪魔の力と秘密

「女神の伝説の話の前に、一つ質問。君が使った魔法って、何?」


 ソフィアの言葉に、俺は少し警戒した顔を見せる。


「魔法って……?」

「君がリトラを助けた時に使った魔法だよ。黒い霧を発生させて、その霧が無くなったらリトラは檻の中からいなくなってた。そんな魔法、見たことも聞いたこともない。ねえ、その魔法、生まれた時から使えたの?」


 ソフィアからの質問に、普通に答えても良かった。だって彼女は、信頼できる人物だと知っているから。

 けれども発言を変えたことで僅かに変わってしまった情報や印象が、今後に大きく影響することが俺は怖かった。


 過去のやり取りは、一言一句覚えている。意図した感情を表情に出すのも得意だ。だから寧ろ、確実に正解の台詞を演じる事の方が、俺にとっては楽だった。


「見てたんだ。なに、脅しか何か? こんなとこにおびき出して、何が目的?」


 俺がそう言えば、リトラは慌てた顔を見せた。


「待って! ごめん、違う! 君を脅したいわけじゃない! ただ純粋に、君の使った魔法に興味があっただけなんだ!」


 そう言うソフィアに、俺はまだ怪しむような顔を見せる。すると、ソフィアは再び口を開いた。


「うーん。そうだね。せっかくなら、私の秘密を先に見せるべきか。ねえ、二人は魔法を使えなかった人間が魔法を使ったら、悪魔と契約したって信じる?」

「ええっと……。いや、別に……」


 ソフィアの質問に、俺は少し戸惑ったような様子を見せて否定する。最初の時間でそう聞かれた時は、自分の使える特殊な魔法の件もあり、一瞬なんて言えばいいか戸惑った。


「そっか。リトラは?」

「私も信じてないわ」


 リトラもまた、目を逸らしながら言った。


「あはは。それは少し嬉しいな」


 リトラは、少しホッとしたように笑った。それを見て、俺は次の台詞を言おうと口を開く。


「……もしかして、ソフィアは元々魔法が使えなかったのに、突然魔法を使えるようになった、とか?」

「うーん。そうだって言えばそうかもしれないけど、正確には違うかな。ちょっと見て欲しいものがあるんだけど」


 そう言って、ソフィアは弓を取り出す。弓は、魔力の無い者が持つ武器だった。

 ソフィアはその弓を、少し離れた所にいるウサギ型の魔物に向けて、正確に言えばウサギ型の魔物から少し照準を外して矢を撃った。


「えっ、なんで……」


 俺は驚いたような表情を作る。ソフィアの矢は、技術だけじゃあり得ないほどの曲がった軌道を描き、魔物の急所に命中した。

 そんな俺を見て、ソフィアは得意げに笑う。


「これ、私の発明品。弓に魔物とかから魔力を抽出して圧縮した石、私は魔石って呼んでるんだけど、それをはめ込んで作ったの。風の魔力を利用して、獲物を自動認識して追尾する矢が撃てるんだ」

「凄い……! これがあれば魔法が使えなくても誰でも……」

「それが、誰でも使う方向にはならないんだなー。悪魔の力って言われちゃうから」


 ソフィアは、少し悲しげに目を伏せた。この先の未来を知っているからこそ、俺はその本当の意味を知っている。けれどもそれを初めて聞いた当時の俺は、ただせっかく発明したものが世に認められない事を嘆いているのだと思っていた。


 俺が何も言えずにいる……、正確には敢えて何も言わずにいると、ソフィアは笑顔に戻ってポンと手を叩いた。


「はい、これが、私の秘密! あー、この発明の存在を広められたら、私どんな目に合うかなー。不安だなー。私は君の秘密を知らないのになー」


 ソフィアはわざとらしくそう言いながら、チラチラと俺を見る。そんなソフィアに対し、俺は少し警戒を解いた表情で、仕方ないなと笑ってみせた。


「わかった、わかった。俺の秘密も教えるから」

「ほんとに!?」


 ソフィアは目を輝かせて俺の手を握る。そんなソフィアのテンションの上がりように若干引いたように笑いながら、俺は口を開いた。


「って言っても、俺は自分でどうにかしたわけじゃない。ソフィアはこの街で8年前にあった子供の誘拐事件、知ってる?」

「……聞いたこと、あるよ」

「俺は、その被害者。んでもって、変な実験されて、気付いたらこんな魔法を使えるようになってた。こんな経緯と魔法の見た目が黒いから、俺は勝手に闇魔法って呼んでるけど」

「そう、なんだ。……私としては、魔法が使えない人間が魔法を使えるなんて、夢があるようにも思えちゃうけどな」


 ソフィアはそう言って、俺をじっと見つめた。この時のソフィアが何を思っていたのか、未だに俺は理解できていない。

 けれども俺は、同じセリフを言わなければならない。そう思って、口を開く。


「どうだろね。俺にとっては突然誘拐されて、閉じ込められて、しかも一緒に誘拐された妹は俺より先に実験されて、死んで……。今でも、妹の泣き叫ぶ声が夢に出てくるよ。妹が死んだ実験で手に入れた力なんて……。いや、せめて俺じゃなくて妹が……」

「クロノ……?」


 リトラの声に、俺はハッとする。リトラは俺を掴み、心配そうな目で俺を見ていた。

 いけない。前回に言った台詞と大きくズレてしまった。この話になると、過去の自分を演じることを忘れて感情的になってしまう。俺は冷静になろうと小さく深呼吸した。


「まっ、どっちにしろさ。悪魔の噂がどうにかならない限り表立って自由に使えないし、意味のない力だよね」

「そう……、だね……。うん、ほんとそう……」


 ソフィアはそう言って、少し気まずそうに目を伏せた。そんなソフィアの様子に、俺は少し安堵する。

 大丈夫。これは過去に何度も見たソフィアの言動だ。少し感情的になってしまったが、ズレはなかっただろう。


「はい、これが俺の秘密の全て。満足した?」


 俺は、過去の俺と同じように、少し明るく笑顔でソフィアに言った。


「えっ、あっ、うん。なんかごめんね? 見た事ない魔法に、研究者魂が出ちゃって、言いたくないこと言わせちゃったかな」

「大丈夫。気にしてないよ。それじゃあ、いい加減教えてよ。ソフィアの知ってる女神の話。まさか、ほんとは知らないなんて言わないよね?」

「あっ、そうだ、そうだった! って言っても、私も沢山情報を持ってないっていうか……。寧ろ噂のリンピアナに調査に行きたくて……。でも、一人じゃ厳しいし、女神の伝説を信じてくれて、しかも私の発明品を変な目で見ない君たちとパーティ組めたら嬉しいなー、っていうのが本音だったり……。あははー……」


 ソフィアは、少し気まずそうに笑いながら俺を見た。勿論、俺もこう言われることは知っている。寧ろ今の俺は、こう誘われることを待っていた。


「いいよ。俺だってあの噂を聞いたら行きたくなってただろし、寧ろ好都合。それに、リンピアナの噂は信憑性あるんだ」

「それは勿論! その噂こそ、どうしてか各地にある噂なんだよね!」

「そっか。それなら尚更俺も行ってみたい」


 その言葉に、ソフィアは満足そうに笑う。そして、ソフィアはリトラを見た。


「リトラは? リトラも来てくれる?」

「も、勿論よ! まっ、まあ、行くとこないし、わ、私だって、興味あるし……」

「ほんと!? 嬉しい! 年の近い人と旅できるなんて、夢みたい!」


 そう言って、ソフィアはリトラに抱きついた。


「ま、待って! いきなりくっつくのはやめて!」

「えー? でも、私達一緒に旅に出るんだから、もう友達だよね!?」

「友達……。そ、それでもいきなりは近いわよ!」


 今回の性格のリトラは女神の伝説に興味があるから、ソフィアは前の時間の時より嬉しそうだ。そんな事を思いながら二人を微笑ましく眺めていると、ソフィアと目が合った。


「そういえば、二人はどうして女神の伝説に興味あるの? 何か叶えて欲しい願いでもあるの?」


 ソフィアはそう、俺達に尋ねた。

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