39.原理と秘密
「……イグニスベルクの秘密だ。聞くか」
アルカルさんの言葉に、ゼノは少し動揺した様子を見せた。
「は……? 秘密……? なんだそれ?」
「ただし、他の者に言ってはならない。そういう話だ」
アルカルさんの言葉に、ゼノは何かを言おうと口を開いた。けれども、一度小さく深呼吸をして、まっすぐな目でアルカルさんを見る。
「……それを、どうして俺に聞かせんだ」
「いつか、おまえは俺の後継にと思っていた。全てを知った上で、それでもここの者達をまとめ、引っ張っていくという後継に」
その言葉に、ゼノの目は大きく見開いた。けれどもすぐに、覚悟を決めた目に変わる。
「わかった。そこまで言われたなら、聞いてやるよ」
「そうか」
そう言った後、アルカルさんは俺達の方を見た。
「……こいつも、一緒に聞かせて良いか?」
実際、今までの時間軸で一緒に聞いたことはなかった。そもそも、後継の話すらアルカルさんから出たことはなかった。
けれども、未来を知っているからわかる。ゼノは俺達と仲間になった時と、いや、それ以上に良い目をしていた。
俺は、ニコリと笑って言う。
「勿論です。そもそもここの秘密に関して、俺達が決める権利なんて無いですから。ねっ、皆?」
「……そうね。私達に決める権利なんてないわ」
「……うん。一緒に聞くぐらいなら……」
二人は心底嫌そうな顔で、けれども肯定はしてくれた。確かに、過去の時間軸でも、二人とゼノが打ち解けるのには時間がかかったし、今回の時間軸でもゼノに何度も攻撃されたのも事実だ。
そう考えると、無理してゼノと歩み寄る必要は無いのかもしれない。けれども、俺がゼノと打ち解けたい理由はもう一つあった。
ゼノは、強い。それこそ、リトラやソフィアとは比べ物にならないほど。だからこそ、ゼノが仲間になり、二人を守ってくれるようになれば、心強い。
ただでさえ、リトラの性格が変わって未来が変わりやすいのだ。だから、どんな想定外の危険が起こるかもわからない。だからこそ、力も瞬発力もあるゼノが仲間になって欲しいと俺は思う。
そんな俺を見て、アルカルさんは言う。
「……貴様は、どこか達観しているな。たまに、俺と歳の変わらぬ者と話している気分になる」
「えっ……?」
俺はアルカルさんの言葉に、俺は首を傾げる。確かに、繰り返した時間を積み重ねてみれば、アルカルさんと同じぐらいの時間は生きていたかもしれない。
けれども、それでアルカルさんと同じかと言われれば、そうではない気がした。だって、これだけ何度も繰り返しているのに、まだ完全に正しい道を見つけられていないのだから。
そういう意味では、アルカルさんよりも未熟な存在に思えた。
「……別に、俺は……」
「そのような所が、だ。だからこそ、神も貴様を選んだのであろうが。……まあ良い。話を戻そう」
そう言って、アルカルさんは先ほど話題に出た精錬のための装置の方を見た。
「貴様らは魔石と言っていたな。……貴様らの言う通り、これは魔力で動いている」
「は……? それは、どういう……」
「ここの暮らしは、魔力で成り立っている」
その言葉に、一番驚いた顔をしたのはゼノだった。
当たり前だ。ゼノはずっと、魔力を嫌って、魔力を使わない道を望んで生きてきたのだから。
思考を停止しているであろうゼノの代わりに、俺は過去の時間軸で聞いた情報と同じ情報を引き出そうと口を開く。
「これを知っている人は他にいるんですか?」
「……俺だけだ」
「この仕組みに違和感を持つ人はいなかったんですか?」
「この装置は500年程前からある。がわは少しずつ修理をしているが、みなそういうものだと思って使っている。……ソフィアと言ったか。貴様ほど知識を持つ者は、魔力持ちにすらいない」
アルカルさんの言葉に、ソフィアも真面目な顔で頷く。
「多分、そうだと思う。ほんとはね、魔法も含めて、この世界で起こる事にはちゃんと理由があるの。火だって、魔法だけじゃなくて、魔力なしでも色々な方法でおこすことができる。だけど、魔法があるから皆その原理に興味ない。そして、そういう原理を使って魔力無しが何かをしようとすると、悪魔の力を借りたって言われるの」
「でも、これは……? 魔力持ちからすれば、これを見たら悪魔の力を借りたってなっちゃうんじゃ……」
「それは、魔力持ちが困るからだろうな」
俺の質問に、アルカルさんは答える。
「この国で、金属を、特に鉄のインゴットを作ることができるのはここだけだ。それは、500年前からずっと。だからこそ、違和感を持ったとしても見てみぬフリをする。魔力持ちが生まれつき魔力が使えるように、もともとここは、そういう場所なのだということで収まっている」
「でも、この装置を作ったのは……」
「……それが女神だと聞いている」
アルカルさんの言葉に、俺は驚いた顔をしてみせた。
「いったい、女神様が何故……」
「俺もわからん。ここは元々、魔力無しが鉱石を取るために働かされていた場所だったと聞いている。当時の労働環境は、酷いものだったと。そこに女神が現れ、当時は不可能だった鉄を製錬するための装置を作った。そして最も力のあるものに言ったという。これで、魔力持ちとここの民の待遇を交渉せよと」
「確かに、鉄は硬くて強いけど、銅とかと違って溶ける温度が高いから、鉄の精錬は難しいのは事実で……。あれ、ちょっと待って? 500年前からずっとここで鉄を掘ってるの? そんなに掘ってたら、鉄鉱石はもう枯渇してるんじゃ……」
ソフィアの疑問に、アルカルさんは窓の方をチラリと見た。
「ここは、鉄鉱石が無限に取れる。それこそ、昨日無かったはずの場所に突然鉄鉱石が生まれている事もある」
「待って、そんなの土魔法か、魔道具でも使わない限り……」
そう言いかけて、ソフィアはハッとした顔をした。
「もしかして、それも……!」
「女神のおかげと俺は聞いている。正式には魔道具のおかげと言うべきかもしれないがな」
そう言って、アルカルさんは何も言えずにいるゼノを見定めるように見つめた。
「俺達はずっと、魔力に救われて生きている」




