37.助言者と気配
アルカルさんが俺達に話してくれたのは、過去の時間軸で聞いたことと同じ事だった。
罪人の街であるということ。多くが免罪であるということ。罪を着せられた理由は、魔力無しなのに強くなりすぎたからということ。
ちなみに、頭が良い等の理由で目をつけられた、戦闘面では劣る人向けの収容所も、別にあるらしい。
そしてどれだけ強くても限度があり、大半の人がこの森を抜け出すことはできないことも、改めて教えてくれた。
勿論、アルカルさんやゼノのように、抜け出す能力がある者もいる。けれども、罪人がギルドで仕事を得られるわけもなく、また同じ境遇の者が集まるので、アルカルさん曰くここでの暮らしが気に入っているらしい。
と、アルカルさんがピタリと止まった。
「ここからは、良いと言うまでしゃべるな。寝ているとはいえ、他の者がいる」
アルカルさんの奥に見えたのは、恐らく魔物避けに作られたのであろう、人の背丈ほどの柵だった。そこの一つが壊れ、大きな岩で塞がれていた。
アルカルさんは、その岩をゆっくりとどかす。
入れ。
そうアルカルさんは俺達に目線で伝える。俺達も何も言わず頷き、イグニスベルクの中に入った。
イグニスベルクの中は、夜だというのに暑かった。人の熱気ではない。だって大半の人が寝静まっているのだから。けれども、何かに温められたかのように、暑い場所だった。
そんな場所を、俺達は静かに歩く。
と、アルカルさんは、一つの建物の前で立ち止まり、俺達に入るように促した。
建物の中は、鉱石を製錬するための所だった。夜で灯り付いていないというのに、炉からオレンジ色の光が漏れ出している。それは炎による光で、建物の中は外と比べ物にならないほどに暑かった。
「ここなら言葉を発しても構わない。ただし大きな声だけは出すな」
そう言って、アルカルさんは俺達を見る。
「水はあるか」
「うっ、うん。水をずっと冷たくできる魔道具があるの。アルカルさんも、いる……?」
恐る恐る言ったソフィアの言葉に、アルカルさんはふっと笑う。
「魔道具とは、本当に便利なものだ。後で貰おう」
「……! もちろ……! あっ、声は小さくだった。勿論大丈夫でーす」
ソフィアの言葉に、アルカルさんはじっとソフィアを見る。
「貴様なら、見てすぐわかるかもな」
「……?」
「後でわかる。それより、ここは長居すればするほど死に直結するような眩暈を起こす。定期的に水と塩を取れ。塩はそこにある」
アルカルさんの視線の先には、皿に盛られた塩が置いてあった。それを見て、ソフィアが口を開く。
「ちゃんとこんな環境で働く対策はしてくれてるんだね」
「奴らが率先して行ったわけではない。過去、何人も命を落とした。それを知り、助言をくれた者がいた、らしい」
「助言をくれた人?」
「……後で話そう」
そう言って、アルカルさんは錬成のための装置に近付いた。そして、ソフィアの方を見る。
「貴様、これが何かわかるか?」
「えっ……? えっと、鉱石を金属にするための……」
「近くで見てみろ」
アルカルさんの言葉に、ソフィアは恐る恐る近付く。
「あれ? これ、火が付いてるのに薪がない……? 薪入れる場所はあるけど……。えっ、これ、もしかして……!」
ソフィアは、炉の周りを回って観察する。そして、一つの所で止まった。
「ちょっと待って……! これって魔石じゃ……!? えっ、でも、私の知ってるのと違う……。エネルギーは……、地面から吸い上げてる……?」
「……アルカルさん、これって……」
俺も、アルカルさんが話を持っていきやすいように口を開いた。その時だった。
「……待って!」
突然、リトラが口を開いた。
「あっ、あの……! も、もし皆に知られたくないこと話すなら、ソフィアが周りに話してる言葉が聞こえない魔道具を持ってたはずで……! えっと、その……。そうよね! ソフィア!」
「へっ? あっ、確かに! これ使えば良かったね!」
そう言って、ソフィアはウルティオさんが使っていたものと同じ魔道具を取り出そうとする。この展開は過去の時間軸にはなかった展開で、俺の心臓は大きく鳴る。
この会話を、彼が聞いている事を俺は知っている。けれども魔道具を使えば、完全に聞こえなくなるだろう。そうなった場合の未来は、わからない。けれどもこの流れを止める術を、俺は見つけられなかった。
と、アルカルさんがリトラをじっと見つめる。
「貴様は、奴が嫌いか?」
アルカルさんの言葉に、リトラは大きく目を見開いた。そして悲しげに、目を伏せる。
「……嫌いよ。大嫌い」
「……その理由は?」
「あなた達が魔力餅を恨むのと似たような理由、って言えばわかるかしら? ……これ以上、話す気もないわ」
「……そうか」
アルカルさんの言葉に、リトラはアルカルさんを困ったような顔で見つめた。
「気付かれていたのですね」
「……ああ」
「どうして、そのままにしたの……?」
リトラの言葉に、アルカルさんは誰もいないはずの場所に視線を向けた。
「見定めたかった」
その言葉に、ガタリと物音がした。
「……なんだよ、じじい。バレてたのかよ」
そこに現れたのは、ゼノだった。




