31.運命と不平等
「……そんな事言うなら、勝手に一人で死のうとしないでよ、バカ」
リトラの言葉に、俺は慌てる。
「いや、流石に俺も死ぬつもりじゃないから! 普通にあの程度なら大丈夫ってわかってやったことだし……」
「……っ。そんな事、わかってるわよ!」
そう言って、リトラは俺を突き放すように体を離した。そして、俺の事をキッと睨む。
「……私、あんたに感謝なんかしないから! 絶対、絶対しないから! だから私なんかのために、余計な事をしようとは思わないことね!」
そんなリトラの言葉に苦笑いしながらも、きっとこれもリトラなりの優しさなのだろうと思ってしまう俺は、ただうぬぼれているだけなのだろうか。どうしても、言葉の端々にリトラの優しさを感じてしまうのだ。
別に、死ぬつもりなんて少しも無い。どうせなら、全員で幸せな未来を迎えたい。俺だって、その幸せの中にいたい。
ああ、でもと、俺は思う。もし今の攻撃が即死性のある攻撃だったとして、それがわかっていたとしたら、俺はどうするのだろうか。きっと、迷うこと無くリトラを庇う選択をするのだろう。
どうせ巻き戻るからなんて関係ない。リトラの死ぬ姿なんて二度と見たくない。そもそも絶対巻き戻る保証なんてどこにもない。それならば、俺が死んだ方が絶対にいい。
……残念ながら、リトラが死ぬような攻撃を、庇うことができた事なんて一度もないのだけれど。
どれだけ俺が前に出ても、死ぬのはいつもリトラなのだ。
運命は意地悪だ。苦しむなら俺でいいのに、大好きな人ばかり苦しませる。
死ぬような状況なんて、痛かったはずだ。苦しかったはずだ。なんで俺じゃなくてリトラに、そんな思いをさせるのだろう。
せっかくこんな魔法を使えるなら、誰も死なせない、巻き戻しすらさせない程最強の魔法だったら良かったのに。
俺はどうしても、そんな事を願ってしまうのだ。
あれから数日、俺達は地図にある中で一番北東の街を出発した。
北東に向かう道だけは確かにあった。けれども殆ど人は歩いていないのか、雑草が誰にも踏まれること無く育っている。しかも山の方に向かっているからか、ずっと上り坂だった。
勿論、俺は次に行く場所を知っている。けれども、俺は知らないフリをして口を開く。
「もう街も村も無いけど、この珠はどこに向かおうとしてるんだろね」
そんな疑問を言うと、今度はソフィアが口を開くのだ。
「……多分、イグニスベルクって場所だと思う。地図には載ってない場所なんだ」
「地図に載ってない場所? そんな所があるの?」
「うん。魔力なしの犯罪者が送られて、労働させられる場所。だから逃げられないように、魔力なしじゃ絶対に歩けないこんな所にあるの。……罪人って言っても、免罪も多いみたいなんだけどね」
そう少し暗い顔で言うソフィアは、ただ魔力なしの扱いを憂いているだけではない。そして俺は、その理由を知っている。
けれども俺は、その理由を知らないように振る舞わなければならない。
「そっか。けれどもそういう場所だったら、俺たちみたいな存在も逆に受け入れられたりするのかな」
「それは……」
「あっ、開けてきた」
俺がそう言った瞬間、手に持っていた青い珠から出ていた光は、役目を終えたと消えた。
森を抜けると、草木のない露出した地面と岩ど囲まれた場所が現れた。涼しい森の中とは反対に、少し暖かい風が流れている。その中を、屈強な男達がせわしなく動いていた。
俺達がその場所を眺めていると、一人の男が俺達に気付き、怪訝な顔をして近付いてきた。
「おい、ガキども。国のもんじゃねえだろ。こんな所に何しに来た」
そう言った男の肩幅は俺たちの2倍あるのではないかという程広い。別にその男が特別大きいというわけではなく、そのレベルの筋肉質な男達が当たり前のように歩いていた。
「あの、俺達は……」
「は……? なんでてめえらがここに……」
と、聞き覚えのある声に、俺はそちらの方を見る。男も、意外そうな顔をしてそこ声の主を見た。
「なんだ? ゼノのダチか?」
「はあ!? こんなやつら、ダチでもなんでもねえよ!!」
そう言いながらもすぐに攻撃して来ないのは、完全に敵だと俺達を認識していないからだろう。
ゼノは、俺達の事をキッと睨む。
「てめえら、こんなとこに何しに来やがった。女神の神珠ってやつは……」
「無事、手に入れたよ」
「……まさかそれが」
そう言いながら、ゼノは俺が神珠を持つ右手に視線を移した。そんなゼノを見て、ソフィアが慌てて俺の前に出て、ゼノを睨みつける。
「あげないよ! 私達が手に入れたものだから!」
「はっ、そんな大切なものを無防備に持ってんじゃねえよ、クソが。せいぜい盗られねえように気を抜かねえことだな」
ゼノはそう言いながらも、今後俺達から奪うことはしない。ある意味未来を知っているから、安心して持っていられた。
そんな俺を見て舌打ちした後、ゼノは再び口を開く。
「で? まさか二つ目の神珠がここにあるって言い出すわけじゃねえだろうな?」
「ここにあるよ。神珠が教えてくれた」
「クロノ!」
なんで言うのと言わんばかりの目でソフィアが俺を見る。けれども、それ以上に怒りを滲ませるゼノの姿が、俺の目に映る。
「んなもん、こんなとこにあるわけねえ!」
ゼノは叫ぶ。
「ここは神からすら見離されたクソみたいな運命を持った奴らのたまり場だ! そんなところに神珠なんかあるはずねえ!」




