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3.御伽噺と噂

 街の中心部に入る前、俺はリトラの髪を手櫛で簡単に整える。これで、リトラが変な目で見られて不快な思いをする事はないだろう。

 今回のリトラは俺に髪なんて触らせてもらえないのではないかと心配していたが、意外にもすんなりと触らせてくれた。


 前髪を綺麗に分ければ、リトラの大きな目がくっきりと現れた。吸い込まれるようなリトラの瞳は、何度見ても釘付けになってしまう。


「……何見てんのよ」


 少し怒ったようなリトラの言葉に、俺は慌てて目を逸らした。


 実際、リトラは誰が見ても可愛いと言う程、顔が整っていた。これから会うであろうあの人に更に見た目を整えて貰えば、誰もが振り向く美少女になる。

 そしてリトラは、行くとこ行くとこで誰かに言い寄られる。特に最初の性格では、困った顔をしながらもハッキリ断れずに色んな男に絡まれ、俺が間に入っていた。まあ二つ目の性格以降は、自分で撃退していたけれども。

 今回の性格も、リトラからしたら初対面であるはずの俺に対してあれだけハッキリ言えるのだ。きっと心配いらないだろう。安心しなければいけないのに、少しだけ寂しいと思ってしまうのは秘密だ。




 街に着き、俺はリトラを連れてギルドの施設に入る。最初は、既に回復魔法が使えるとバレているリトラをどこかのパーティに入れ、同時に保護して貰おうと思っていた。

 けれどもそこで、俺は一つの情報を耳にする。時間的にも、今回も問題なく聞けるはずだと思い、俺は耳を澄ませた。


「知ってるか? 4つの神珠を集めると、なんでも一つだけ願いを叶えてくれる女神が現れるって話」

「あー、聞いたことあるな。それがどうした?」

「なんか俺の子供がさあ、リンピアナって村にその神珠の一つがあるってどっかから聞いてきて……」

「それ、本当ですか!?」


 俺は、まるで初めて聞いたかのように、彼らが話していたテーブルに身を乗り出した。瞬間、施設全体に笑いが起こる。


「おまえ、もしかして女神の話、本気で信じてる奴か? やめとけ、やめとけ! そんなもん本気で信じてんの、俺の5歳のガキぐらいだ!」

「そうだぞ! そんな御伽噺に夢見るぐらいなら、地に足付けて働け!」


 馬鹿にされ、笑われるのも想定内。けれどもこのやり取りをしなければいけない理由が、俺にはあった。


「本当に御伽噺かな? 私は信じてるけど」


 そう言って、茶髪で、三つ編みでおさげの少女が立ち上がる。凛としたその声に、場は一気に静まり返るのは毎回同じ。


「知ってる? 女神の伝説って、遠く離れた場所でも同じように語り継がれているんだ。どうしてか、王都に近付けば近付くほど聞かなくなるけど」


 そう言いながら、その子は俺に近付いてくる。彼女の名前はソフィア。俺が旅に出るきっかけになる人物だ。


「ねえ、良ければ私と一緒に、女神の伝説について話さない? ここにいる誰よりも、女神の伝説を信じて情報を集めているつもり」

「是非、お願い。あっ、でも、ちょっとだけ待って」


 そう言って、俺はリトラに駆け寄る。


「えっと、リトラはどうする? ここで手続きをすれば、ギルドが認めたパーティに所属できて、安全も確保できると思うけど……」


 そう言って、俺はリトラの反応を待った。

 1回目の性格では、置いて行かないでという目で俺を見るから、俺から一緒に来ないかと誘った。2回目と3回目は、何故か俺のことが心配だからという理由で付いてきた。4回目の性格は、俺と離れたくないという理由で付いてきた。今回はどうだろうか。


「付いて行くわ! べ、別にあんたのためじゃないんだからね! 私が興味あるから付いて行くだけだから!」


 まさかのリトラ自身が興味があるパターンだったかと、俺は思わず笑った。

 きっとこれから、リトラを危険な目に合わせてしまう旅になるだろう。けれども、また一緒にリトラと旅をできるという事実が、俺は嬉しかった。

 そんなことを考える俺の隣で、ソフィアが目をキラキラとさせながら、リトラの手を握った。


「あなたも女神の伝説に興味があるの!? 仲間が出来て嬉しい! 私の名前はソフィア! 君の名前を教えて!」

「リ、リトラよ! あんた、私と初対面でしょ!? あんま馴れ馴れしくしないで!」

「あはは、ごめん。ごめん。二人も女神の伝説仲間ができて、嬉しくなっちゃって」


 そんな二人の様子を、俺は微笑ましい気持ちで眺めた。どの性格のリトラも、ソフィアとは仲が良かった。今回の性格はどうだろうと思っていたが、心配なさそうだ。


「それじゃあ、リトラと、えっと、君の名前は……」

「俺はクロノ。よろしく」

「よろしく! じゃあ、リトラ、クロノ! 一緒に行こう!」


 そうして、俺とリトラはソフィアに手を引かれるまま、ギルドの施設の外に出た。




 女神の伝説に関して、子供向けの御伽噺だと言われていることは、俺も最初から知っていた。けれども俺は本気で信じていた。

 10歳の頃、誘拐され実験体にされた所を助け出してくれた男との会話を俺は思い出す。


『坊主、女神の伝説の話は知ってるか?』

『……うん。有名な御伽噺でしょ? 俺知ってるよ』

『それが、御伽噺じゃないんだな。俺は女神様に会ったことがある』

『女神様に!? 何のお願いを叶えてもらったの!?』

『それは秘密だ。俺ともう一度会えたらわかるかもな』


 そう言って、男は遠くを見つめた。男の目は、どこか寂し気だったのを、今でも覚えている。

 少しの間の後、男は再び口を開いた。


『女神様なら、妹を生き返らせることだってできるだろうな』

『ほんとに!? ほんとにそんなことができるの!?』

『ああ、できるさ。おまえが心から強くならないと会えないだろうがな』


 そう言って、男は立ち上がる。


『ただ、さっき俺が使い方を教えた魔法、それは本当に必要な時に、あまりバレないように使え。闇雲に人に見せちゃなんねえ』

『なんで?』

『魔法を使えない人間が悪魔と契約して魔法を使えるようになったって物語は聞いたことあるか? どんな経緯であれ、おまえは悪魔と契約した人間だと言われかねねえ。だから、信頼できる人にだけ真実を話せ。まっ、実際どうするかはおまえ次第だが』


 そう言って、男は俺の前から去って行った。

 女神様に会えば妹を生き返らせられるかもしれない。その言葉が希望となって、俺は前を向けた。




 あれから8年。御伽噺以上の情報は見つけられないまま時が過ぎた。だからこそ、俺は初めての新しい情報に飛び付いた。そして情報を持っていると言ったソフィアの言葉に、胸が高鳴った。

 だからこそ、もうすぐソフィアに言われる言葉に、最初俺は心臓が止まるかと思った。今回もまた、ソフィアは人気のない場所で立ち止まり、くるりと俺を見る。


「女神の伝説の話の前に、一つ質問。君が使った魔法って、何?」

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