28.頼れる人と下心
リトラの元に駆け寄ると、丁度男性がリトラに伸ばした手を、リトラがはたいて振り払ったところだった。そして、護身用の短剣を取り出し、男に向ける。
「私に触んじゃないわよ!」
「待っ、待ってくれ! 俺はただ君と友達になれたらなって思っただけで……」
「触れようとしてくる時点で下心バレバレなのよ! 友達って言うなら適正な距離感保ってから言いなさいよ!」
そう言ったリトラに対し、男性の表情は突然不機嫌そうな顔に変わる。
「チッ、見た目だけの女かよ。可愛げがねえな」
そう言い捨てて、男性は去っていった。
一つ目の性格では、こんな風にリトラが男性を追い返すことができなかった。友達になりたいと言う男性の言葉とは裏腹に、距離は異常に近く、下心丸出しで言っているのがすぐわかった。
だから、俺はすぐにリトラと男性の間に割って入った。
『リトラと友達になりたいと言うなら、適正な距離感を保ったらどうですか? リトラも嫌がっているでしょう。下心がバレバレなんですよ』
その後ろで、リトラは震えながら俺にしがみついていた。
けれども2つ目の性格以降、リトラは俺が言った言葉を自分で言うようになった。リトラも本心では同じことを思っていたのかもしれない。
リトラはため息をついた後、俺に気付いたのか俺の方を見る。
「……なによ」
そう言って、リトラは俺を睨んだ。
「あっ、いや、なんか迫られてたみたいだから、大丈夫かなって」
「別に、これぐらいあんたがいなくても、一人で対処できるわよ。……もう、ただ守られるだけの私じゃないんだから」
「……そうだね」
リトラが最後にポツリと言った言葉に、俺はそれしか言えなかった。
そもそも、今の性格のリトラを守った記憶なんてほとんどなかった。守れたのなんて、最初、リトラが捕まっていた時ぐらいだろう。
それでも、今までの性格は俺が来ると、少しホッとしたような顔をしてくれていた。そして、来てくれてありがとうとお礼を言ってくれるのだ。けれども今回は、それが無くなっていた。
もしかしたら今回のリトラは俺に守られたくないのかもしれない。それならば、また巻き戻った時に俺はどうするべきだろうか。
きっと、ここに来てしまうのだろう。そう俺は思う。万が一、そんな理由を付けながらも、俺もまた下心があってリトラに近付くのだ。
ちゃんとわかってる。リトラは、俺が思うよりずっと強い。俺の後ろに不安げにひっついてきていたのは、最初のリトラの性格だけだ。一つ前の俺の事を好きと言ってくれたリトラだって、一人で色んなことを乗り越えていた。
きっと俺自身が、守らなければいけない最初のリトラのイメージに囚われているだけなのだろう。そして、リトラに一番に必要とされる存在でありたいと願っているだけなのだろう。
「二人とも、そろそろ帰ろー! 遊び疲れちゃった!」
と、ソフィアの能天気な声が、俺とリトラの元に届く。その声につられて、俺とリトラは何も言わず、ディゼルナさんの家に戻った。
次の日、俺達はネロデルフィンや村の人たちと別れを告げた後、ディゼルナさんの家を出た。村の入り口までは、ディゼルナさんが見送りに来てくれていた。
「ティオおじさんは、村から少し出た所で待ってるんだって! クロノは昨日会ってたみたいだけど、リトラも紹介するよ!」
ソフィアは、嬉しそうにそう言った。きっと、ウルティオさんに会えるのを楽しみにしているのだろう。昨日は会うとしゃべりたくなるからと、会わないようにしていたという。
そんなソフィアを見て、どうしてかディゼルナさんは顔をしかめた。
「……彼とは、知り合いだったのじゃな」
「うん、そうだよ! ディゼおばあちゃんには話したっけ? 私の親は全然私の事育ててくれなかったから、代わりに育ててくれた人! だから、私の恩人さんなんだよ!」
ソフィアは、ディゼルナさんの険しい表情に気付かないまま、嬉しそう言った。
「……そうか。どんな人じゃ?」
「とっても優しい人だよ! もう記憶ないけど、赤ちゃんの頃からパパとママの代わりに私の面倒を見てくれて、物心ついたときにはずっと一緒にいたの! 私に色んなこと教えてくれたんだよ!」
その言葉を聞いても険しい顔が晴れないディゼルナさんを見て、俺も口を開く。
「俺も、昨日ウルティオさんと話しました。ソフィアの言う通り、優しい人でしたよ。女神の伝説に関してはとても熱意のある方で、たまに暴走して圧倒されることもありますけど。ほんと、ソフィアと実の親子と言われても違和感ないです」
「ねえ、それ良い意味で言ってる!? まあ、ティオおじさんが私のパパって言われるのは嬉しいけど……」
少し拗ねた顔をするソフィアに笑いながらも、俺はディゼルナさんの顔をチラリと見る。勿論、過去の時間軸と同じように、その険しい顔が晴れることは無い。
「……そうか。まあ、その、なんじゃ。ワシもその頼れる大人の仲間入りをさせてもらえると、嬉しいがの」
「そんなの、とっくの昔に頼りにしてるよ! ねっ、ねっ、寧ろ私のおばあちゃんにならない!? おばあちゃんの顔知らないから、空いてるよ!」
「ははっ、騒がしすぎて毎日が疲れそうじゃ」
「ちょっと、それ、どういうこと!?」
そんなやり取りをして、話しは終わった。ディゼルナさんが険しい顔をした理由は、今でもわからない。もしかしたら、ソフィアと同じで何度もここに来ていたというから、ディゼルナさんはあまり良い印象を持っていなかったのかもしれない。
ウルティオさんもまた、ディゼルナさんに対して良い印象を抱いていなかった。けれども、二人は俺の尊敬する人であり、大好きな人だ。だから、もし魔力による差がなくなったら、その時はお互い分かり合えるのではないかと期待してしまう。
「では、そろそろ行こうかと思います」
「気を付けてな。何かあったら、いつでもおいで。お主らなら、大歓迎じゃ!」
「ありがとうございます!」
そう言って、俺達はリンピアナから出発した。




