27.特別と危うさ
「クロノ君は願いが叶った後、その力をどう使って行きたいと思う?」
その言葉に、俺は少し悩む風を見せた。本当は、自分が何をどう言ったか覚えているけれども、すぐに答えるのもおかしな気がした。
俺は、少し時間を置いた後、口を開く。
「……そんなこと、考えたこともなかったです。でも、そうですね。ソフィアから聞いているかもしれませんが、俺と、もう一人一緒にいる女の子、リトラとの出会いは、リトラが誘拐されて貴族に売られそうになった所を俺が助けたことがきっかけなんです。でも、助けることができたのはこの魔法があったからで、俺が魔法を使えなかったらきっと俺は見ていることしかできなくて……。そう思うと、皆が魔力を持てるまでは、誰かを守るために使えたらいいですね。とはいっても、悪魔の噂があるので上手く立ち回らないと行けませんけど……」
「素晴らしい」
俺の言葉に、ウルティオさんは目を輝かせながら俺の手を取った。
「クロノ君の言う通り、魔力が無い、弱いというだけで、魔力がある者から理不尽な扱いを受ける。そして我々は、それを受け入れるしかなかった。きっとクロノ君はその苦しみも知っているから、強い力を持っても助けようという発想になるのだろうね」
「そう、ですかね……。でも、ディゼルナさんみたいな人も……」
「彼女だって、女神の情報をソフィア一人で聞きに行ったときは教えなかっただろう? 彼女も根本の所は、魔力の量に囚われている。まあ、彼女はまだマシな方だろう。王都に近付けば近付くほど、力を誇示して弱いものを従わせるしか能がない人達で溢れているしね。ああ、そのような奴らに、クロノ君という奇跡を知らしめたらどんな反応をするのだろうか」
「あの、えっと、ウルティオさん……?」
ウルティオさんが早口でそう言い迫ってくるものだから、俺は必死にウルティオさんを押し返した。
流石ソフィアの面倒を見てきた張本人だと俺は思う。魔力の無い人も平等に生きれる世界への熱意は、ソフィアと同じ、いや、それ以上にあるようにも見えた。
「あっ、すまない。少し熱くなりすぎてしまったよ。でも、そうだね。昔の人は、もしかしたら君のような存在を恐れて、悪魔の噂を作ったのかもしれないね」
ウルティオさんは、少し悲しそうな顔でそう言った。その理由はわからない。けれども、エウレさんの想いが実現しなかったことを考えると、それに対する怒りや悲しみがあるのだろう。
ウルティオさんは、少し間を置いた後、俺をまっすぐ見つめ、そして口を開いた。
「クロノ君。ソフィアも言っていただろうが、君は人類の希望だ。君のような存在が増えれば、魔道具すらいらず、力に屈服することもなく、誰でも平等に生きることができるだろう。勿論、君のような人を増やすには、より安全な方法を……。いや、違うな。まずは女神様か……。いや、とりあえずだ。君は私たちの希望なんだ。それだけは、忘れないでくれ」
ウルティオさんの熱意に圧倒されながらも、俺は苦笑いすることしかできなかった。
「あはは。あまり実感がわかないです」
実際その通りで、結局研究者の知識も無い俺に出来る事なんて限られている。俺自身の手で出来ることと言えば、手に入れた強力な魔法と時間が巻き戻ることを上手く使って、なんとか女神様の伝えたい事を解き明かすぐらいだろう。
けれども、そんな俺に、ウルティオさんは優しい目をしながら俺を見て、そして言う。
「クロノ君は謙虚だね。少しぐらい自分が特別な存在だって、思ってもいいだろうに。……でもそうだね。勿論クロノ君には辛い過去だったと思うけれども、魔力を持って生き残った者が、クロノ君で良かったと私は思うよ」
その言葉を聞いた瞬間、俺は少しだけ泣きそうになる。
ずっと、生き残るのはメミニの方が良かったのだろうという感情が、頭の中に染み付いて離れなかった。そんなの被害妄想だと思いながらも、ふとした時に母親に言われた言葉が、父親の悲しそうな目が、フラッシュバックする。
そしてこの時間軸では、旅を始める前にリトラの質問に詰まった二人の姿が、それを証明してしまった気もした。
けれども、ウルティオさんは心から俺を必要としてくれた。俺も生きていて良かったのだと、言ってもらえた気がした。
それだけで、幸せな気持ちになった。
「そういう風に言ってもらえて、俺、嬉しいです。俺に協力できることがあれば、なんでも言ってください! ウルティオさんからの願いであれば、どんなことだって協力しますから!」
俺がそう言えば、ウルティオさんは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう。クロノ君と知り合えて、私はなんて幸運なんだ」
ウルティオさんからの温かい言葉が、俺の心を満たしていく。そして思ってしまうのだ。何度もこの経験をできるなら、初めからやり直せるのも悪くないと。
たまに思うことがある。どうして仲間が死ぬ少し前に戻してくれないのかと。勿論、根本的に間違えていた場合は、最初からやり直せた方が良かっただろう。けれども、少しのミスの時は、初めからなにもかもやり直すことを面倒に思うこともある。
けれども、同時に思うのだ。もし苦しい所だけを繰り返していたとすれば、俺はとうの昔に狂っていたかもしれない、と。
記憶力だけは良かったから、幸せな記憶だって何度も思い出すことだけはできる。けれども、それだけでは満たされない。幸せな記憶を思い出しても、どうしてか空しい気持ちになるだけだった。嫌な記憶の方は、意図しなくてもリアルな感情が戻ってきて、吐き気がするほど苦しくなるというのに。
俺の幸せは、リトラを救うあの日から始まったと思う。あの日から、俺の生きる意味が見つかったような、そんな気がしていた。
そして、その日まで巻き戻るからこそ、空しい記憶だけじゃない、満たされるような幸せな時間を何度も味わえた。そんな時間が、俺を正気でいさせてくれた。
「そうだ」
と、ウルティオさんは思い出したように持っていた鞄から何かの機械を取り出した。
「もしクロノ君が良かったらなのだけれど、ここに、君の魔力を流してもらうことはできるかな? どのようなエネルギーで構成されているのか、調べたいと思っていてね」
「いいですよ」
そう言って、俺は自分の魔力を、その機械に流す。その機械に付けられているケースに黒い何かが満たされたのを確認した後、俺は湖の方を見た。
と、湖のほとりで休んでいたリトラが、男の人に言い寄られている姿が見えた。リトラを狙っているのか、性格が変わって行動が変わっても、このあたりのタイミングでリトラに言い寄るのだ。
「すいません。ちょっと……」
「ん? ああ、行っておいで」
ウルティオさんも察してくれたのか、笑顔でそう言ってくれた。少し恥ずかしいが、やはり気になるのは気になるのだ。……恐らく、今回の性格のリトラも彼を自力で追い払うのだろうけれども。
それでも、万が一だってある。それに、今回のリトラは性格が変わって間もないのだからいつもよりも不確定なのだ。
そう心の中で言い訳をしながら、俺はリトラの元へ向かった。




