26.凄い人と同じ事
「大丈夫ですよ。女神様に秘密にという話は、あくまで混乱を生まないためのものなので。ソフィアと一緒に魔道具を開発していたウルティオさんなら伝えても大丈夫だと思います」
ウルティオさんの言葉に、俺はそう返した。
実際、前の時間軸でソフィアと一緒に会った時は村の外だったから、直接ソフィアが色々と話していた。ウルティオさんの言う通り勢いで話しているから、確かにフォローは必要だったけれども。
その後、問題が起こったことはなかった。だから俺と二人のタイミングで初めて問われた時も、迷うことなく承諾することができた。
俺の言葉に、ウルティオさんもニコリと笑う。
「助かるよ。ありがとう」
ウルティオさんの言葉を聞いて、俺は説明を始める。内容は、ディゼルナさんに話したこととと変わらない。
そして一通り話し終えた後、ウルティオさんはそうかと呟いて、黙り込んだ。
何を考えていたのか俺にはわからない。ただ俺は、することが無いので湖を眺めるしかなかった。
そうして少しの時間が経ったあと、ウルティオさんは再び口を開いた。
「……一つだけ確かに言えることは、エウレ様の目指していた世界は、実現しなかった、ということだろうね」
ウルティオさんは、少し悲しげな目をしながら言った。ソフィアが神殿で嘆いていたことと、同じ事を嘆いていた。
ウルティオさんは、ソフィアと同じ想いを描いている人だ。きっと、無念な気持ちもあったのだろう。
ウルティオさんは、少し遠くを見ながら口を開く。
「……それにしても、エウレ様は本当に凄い人だ。我々が何年かけても未熟さが残る魔道具を、一人で完結させてしまったのだから」
「そうですね。でも、お二人も凄いですよ。その防音の魔道具だって、魔法ではできない事ですし」
実際、悪魔の噂があるのが勿体ないほどに様々な魔道具を二人は見せてくれる。別に俺は貴族のような暮らしをしたいわけではないが、良い暮らしができるならしたいし、家族にもそんな暮らしをさせてあげたかった。
俺の言葉に、ウルティオさんは困ったように笑う。
「凄いのは実はソフィアでね。私はただの凡人だよ」
「そうなんですか?」
「ああ、そうさ。なんたって、ソフィアは1歳にも見たない時に文字を覚え始めて、3歳の頃には文章を一人で読み、5歳の頃には古語すら読み始めた。8歳になる頃には、私が魔道具の研究に煮詰まっているとアドバイスをくれるようになってね。しかもその通りにすると成功するんだ。すごいだろう?」
「それは確かに凄いですね!」
普段の破天荒なソフィアからは想像出来ないが、ソフィアが天才なのは間違いないだろう。ソフィアは俺の事を希望だと言うけれども、実際に希望なのはソフィアのような存在だと俺は思う。
俺が感動していると、ウルティオさんは困ったように言った。
「でも、ソフィアでさえエウレ様には……、ああ、いや、あくまでクロノ君の話を聞く限りではあるけれども、エウレ様には到底及ばない気がするけどね」
「そうでしょうか」
「ああ、そうだ。しかし、どうして女神様は、この真実をこんな回りくどいやり方で隠したのか。誰かに残すという形でも良かっただろうに。そうすれば、もう少し早くにこの事実が明らかになっただろうに」
そう少し怒ったような顔で話すウルティオさんは少しソフィアに似ていて、まるで親子のようにも見えた。きっと心から魔力で全てが決まらない世界を望み、それに向けて動こうとしているのだろう。
そう思うと、どうしても自分の願いがちっぽけに思えてしまう。自分の存在がソフィアの願いを叶える希望だと言われなければ、俺の願いは諦めるべきだと自分に言い聞かせて譲っていたかもしれない。
最初ここで話した時、俺は少し不安になった。そして俺は、その時と同じ言葉をウルティオさんに問いかける。
「ウルティオさん。ウルティオさんは、良いのでしょうか。その、もし本当に神珠が集まっても、ソフィアじゃなくて俺の願いを叶えるのは」
本当は知っている。ウルティオさんもソフィアと同じように、俺の事を希望だと言ってくれることを。けれども、もし聞かなかった場合の未来のズレが怖いという事を口実に、俺は聞いてしまうのだ。
不安そうに言ってみせた俺を見て、ウルティオさんは優しく俺に笑いかける。
「……クロノ君の願いは、亡くなった妹さんを生き返らせたい、ということだったね」
「はい」
「私も、ソフィアの意見に賛成だよ。私たちは、君の辛い過去のおかげで、と言えば言い方は酷いかもしれないけれど、女神様に頼らなくても願いは叶えられる。もしかしたら、神珠を探す旅そのものも、願いを叶えるヒントになるかもしれない。そもそも、リンピアナで神珠を無事手に入れられたのだって、クロノ君がいたからこそだ。私達だけでは無理だった。そう考えると、女神様からだけじゃない、私達からの御礼も含めて、クロノ君の願いを叶えて欲しいと思うよ」
ウルティオさんの言葉に、俺の心は温かくなる。ちゃんと誰かの役に立っている。それは何度聞いても嬉しくなってしまうのだ。
今回の時間軸からは余計に、リトラから必要とされることも無くなった。だからこそ、ウルティオさんの言葉は心にしみてしまう。自分でも、子供じみていると思うけれど。
「……クロノ君。私からも、一つだけ質問をいいかな?」
と、ウルティオさんは少しだけ不安そうに俺を見た。
「勿論です」
「クロノ君は、悲しい過去がきっかけで、黒い魔法、誰も使えないような強力な魔法を持った。経緯は勿論辛かっただろうが、クロノ君は魔力のなかった者が魔力を持った初めての人間だ。クロノ君は願いが叶った後、その力をどう使って行きたいと思う?」
そう言うウルティオさんの顔はあまりにも真剣で、少しだけ怖いと思ってしまうほどで、俺は苦笑いした。




