25.束の間の休憩と新たな出会い
あれからの話し合いで、俺達は明後日までリンピアナに滞在してから出発することにした。ソフィアは早く出発したがっていたが、ディゼルナさんに、ネロデルフィンと村の人達の懸け橋になって欲しいと頼まれ、承諾することにした。
恐らくディゼルナさんは、それを口実に俺達を休ませようとしてくれていたのだろう。何度も同じ経験をしている俺でも疲れを感じていたから、どの時間軸でも言ってくれるディゼルナさんからの提案は、正直ありがたかった。
そして、今日は丸一日リンピアナにいる日。ソフィアとリトラは、子供たちと一緒にネロデルフィンの背中に乗って湖の中に入って楽しんでいた。いや、リトラは恐らくソフィアに振り回されているだけだけれども。
そして俺はというと、ソフィア達から少し離れた静かな場所で、その様子を眺めていた。
元々、あまり賑やかな所は好きではなかった。昔から、騒ぐのが好きな同年代の輪に入っていても疲れるだけで、家の手伝いがあるからと距離を取っていた。
別に、賑やかな人が嫌いなわけではないし、ソフィアの事は人として好きな方だ。だから最初の方の時間軸では付き合っていた。けれども純粋に疲れてしまうから断るようにしたら、案外影響は無かった。だからきっと、大丈夫だろうと思ってここにいる。
「お隣、いいかな」
と、俺の後ろから男性の声が聞こえた。
「えっと、はい……」
俺は、少し戸惑ったように返事をする。何度も会ったことはあるけれども、この世界の時間軸では初めての人だった。
「君は、クロノ君であっているかな?」
「あっ、はい……。あの、あなたは……」
「あーっ!!!???」
と、良く響く大きな声が、遠くから聞こえてきた。ネロデルフィンに乗っていたはずのソフィアは、ネロデルフィンから湖に飛び込んで陸に上がったと思ったら、全速力でこちらに駆け寄って来る。
「ティオおじさん!? なんでここに!?」
「あはは。ソフィアから連絡を貰った時、私も偶然この近くにいてね。せっかくだから寄ってみたよ」
そう、穏やかな声で話す男性は、ウルティオさん。ソフィアがずっと言っていた、ソフィアの両親の代わりにお世話になっていた人だった。
そしてソフィアは定期的に、ソフィアが作ったという文字の打てる魔道具で連絡を取っていたらしい。
ちなみに、ソフィアは俺達にもその魔道具を作ってくれようとしたが、俺とリトラは文字が読めないので、残念ながら使いこなす事ができない代物だ。
ウルティオさんは、優しい目をしてソフィアを見つめ、そして口を開く。
「無事、女神様の神珠を手に入れたんだね」
「そうなの! あのね、あのね! 聞いて欲しい事が沢山あって……」
「ソフィア!」
ソフィアの言葉に、俺はいつもの時間軸と同じように慌てて止める。あくまで誰も俺達に冒険の話を聞かないのは、女神様から秘密だと言わたと信じてくれているからだ。
それなのに、ウルティオさんに話している所を聞かれるとマズいだろう。実際、ソフィアの声は通るから余計、怪訝な目で見ている人が何人かいた。
ソフィアも流石に気付いたのか、挙動不審に目をキョロキョロ動かしながらも言う。
「あー、女神様に秘密にされてるんだったー」
あくまで棒読みの、何かを隠していることがバレバレの台詞を言いながら、ソフィアは再び湖の方に逃げて行った。
この言葉を言えば良いと提案したディゼルナさんは、本当に流石だと俺は思う。だって、誰が聞いても言葉と行動に辻褄があってしまうのだから。
聞いている側は、女神様に秘密にされている事そのものが嘘だという発想にはならない。言葉通りの、そこで見た内容を隠していると捉えるだろう。これなら、嘘を演じるのが苦手なソフィアでも演じられる嘘だ。
「あはは、そういうことか」
ウルティオさんも、何かを察したのか、それだけ言って逃げて行くソフィアの背中を目線で追った。そして、持っていた鞄の中から何かを取り出し、何かを調整した後ボタンを押した。その瞬間、一瞬だけ耳に違和感が現れる。
「うん。無事作動したようだね。これは魔道具の一つでね。周りに私たちの会話は聞こえなくなる。認識阻害の機能もあるから、近くを通っても私たちが私たちをは認識されることは無い」
「えっと、そう、なんですね……」
俺はまだ、警戒している様子を見せる。
本当は、ちゃんと知っている。ソフィアが昨晩既に女神様の事をウルティオさんに沢山伝えているという事を。そして、ウルティオさんは本当に優しい、信頼できる人であることを。
そもそも本当の意味でウルティオさんと初めて会ったのは、リンピアナの外だった。当時のこの時間、俺はネロデルフィン背中にいたのだから、声をかけられたのはソフィアのいるタイミングだった。
けれども、ここで声をかけられるようになった今は、名前も知らない完全な初対面という体で接しなければならない。
そしてウルティオさんも、それで気を悪くするような人では無かった。
「成程、初対面相手に警戒できるのは賢い証拠だ。そもそも自己紹介もまだだったね。私はウルティオ。ソフィアと一緒に、魔道具の研究を進めていた、って言えばわかるかな?」
「確かにさっきソフィアがティオおじさんって……。あなたがそうだったんですね」
「そう言う事。ごめんね、急に。ソフィアの話を聞いて、一度クロノ君とは話してみたいと思っていたんだ。それに……」
ウルティオさんは、少し困ったように笑う。
「女神の話も、ソフィアは興奮していたのか、通信用の魔道具のメッセージを読んでも支離滅裂でね。良かったらクロノ君からその話を……。あっ、この村の人には秘密にしているようだけれど、私はその話を聞いても大丈夫かな?」
ウルティオさんは、そう俺にとい問いかけた。




