24.絶対と相対
「この世界が魔力で地位が決まらない世界になったら、ディゼルナさんはどう思うのですか?」
俺はディゼルナさんに、そう問いかけた。
あくまでディゼルナさんは、魔力が強い側の人間だった。しかも、俺とは違い生まれつき強い魔力を持って生まれてきた。だからこそ、ここの村長にもなっている。
だから、そんな世界になって俺達は得をするけど、ディゼルナさんは損をする側だろう。けれどもディゼルナさんは、仮説を聞いても受け入れていた。だからこそ、俺はディゼルナさんの考えが気になった。
俺の問いに、ディゼルナさんはふっと笑う。
「変わらんよ。なにも変わらん。根本に思うことはな。あくまで、こんな辺境の地で村長をやりたがる、変わり者の意見じゃがのう」
「辺境の地……?」
「辺境の地じゃろう。だからこそ、国からの干渉もほとんどない。ここは、そういった煩わしさから逃げてきた者が集まってできた村じゃ。ワシも、その一人」
そう言うディゼルナさんに、一切の不安は感じられなかった。
確かに、ディゼルナさんは村長と名乗っているが、実際の役割はこの一帯を治める領主であり、貴族だ。そして、ディゼルナさん程の魔力を持っていれば、こんな辺境の地での領主に収まるような人物でもなかった。
この家も、貴族の暮らしとは程遠い素朴な生活をしていた。けれどもきっと、ディゼルナさんはこの生活を愛しているのだろう。
「ああ、とはいえ、可能性は広がるじゃろうなあ」
と、ディゼルナさんは何かを思い描くように、少し遠くを見ながら言った。
「ワシじゃって、せっかくこんな魔力を持って生まれたのじゃから、使えるもんは使う。この魔力があったからこそ、力でこの平穏な暮らしをもぎ取った。外のもんがワシのやり方に不満をもっておったとしても、何も口を出してこんのはこの魔力のおかげじゃ。じゃが、同じ意見を持つ次の後継人が見つからなくてのう。魔力以外で見つけられるなら、寧ろ願ったり叶ったりじゃ。そもそも、魔力があるからと煩わしい事を言われたりすることも無くなるじゃろうしなあ」
ディゼルナさんの意見に、俺は少しホッとした。
俺がこの旅で親しくなるのは、魔力が無い人が大半だった。その人たちの嘆きを知っているからこそ、エウレさんの記憶を通じて女神様が何を求めているのか知りたいと思った。もしそれで俺の願いも叶えて貰えるのなら、家族にも世界にも役に立ててこんなに嬉しいことはなだろうと思っていた。
けれども、同時に不安にもなっていた。リトラの仮説が正しければ、俺達は世の常識をひっくり返そうとしていることになる。それが良い方向に転ぶとは限らない。今まで普通に暮らしていた大多数の人が、困るかもしれない。
けれども、ディゼルナさんは寧ろ可能性が広がると言った。確かに、魔力の量で人生が決まってしまうよりは、選択肢があった方が良いのかもしれない。ディゼルナさんのように、地位に惑わされない生き方をしたい人だっているのだから。
そう思うと、少しだけ自分の進む道が正しいと、少し背中を押された気がした。
「ありがとうございます。少しだけ、安心しました」
「お主の背中を押せたようで良かった。まっ、迷ったら自分の信じた道を進んでみなさい。どうせ、全てが正しいと言える選択など無いのじゃから。それでも、そうやって色んな意見を知ろうとして、より良い選択をしようとしっかり考えるお主なら、大丈夫ははずじゃ」
「そう、だといいですけど」
俺は、まだ少し不安が残ったまま、そう言った。まだ自分の行った選択に、絶対的な自信を持てなかった。
そんな俺を見て、ディゼルナさんは笑う。
「そんな顔ができるなら大丈夫じゃ! ほれ、ソフィアの顔を見てみい! 自分の進む道は絶対間違ってないもん、って言いたげな顔をしとるわ」
ディゼルナさんの言葉に、ソフィアはムッとした顔をしながら口を開く。
「だっ、だって! 私は絶対今の道が正しいと思ってるもん!」
「若さゆえじゃのう。ワシのような年齢になると、色んな経験をし過ぎて、色んな可能性が浮かんで足踏みしてしまうわ」
「むぅ……。ディゼおばあちゃんはすぐ私を子ども扱いする!」
「悪い事ではないぞ? 経験が無いからこそ、一つの正しさを信じられ、それが強い原動力にもなる。それは、ワシみたいな老いぼれが考え付かないような事を成し遂げたりもするからのう。若さゆえの特権じゃ」
「正しいことは正しいことだもん……。なんか納得いかない……」
ソフィアの言葉に、再びディゼルナさんは笑った。
「クロノ、ソフィアみたいなやつもおる。寧ろお主は年齢の割に考えすぎじゃ。少しはソフィアを見習え」
「そ、そーだよ! 私、クロノの迷ってるような言葉聞いて、ちょっとショックだったんだから!」
ソフィアの言葉に、俺は少し焦る。俺の言動が、ソフィアの今後の言動に影響が出ないか不安になった。
「いや、えっと、ちょっと聞いてみたかっただけというか、俺はソフィアの考えに賛成というか……」
「まっ、ワシとしては、一歩引いて見られるような奴がソフィアの仲間で良かったわい」
「ちょっと、どういうこと~!? いーもん! クロノが迷っても、私が正しい道に引っ張っていくもん」
ソフィアの言葉に、俺は思わず笑った。ディゼルナさんの言う通り、ソフィアは何も言われても揺らがず自分の道を信じていた。
それが正しいかどうかなんて保証は無い。けれども、きっと少しの揺らぎじゃ変わらないであろうソフィアの信念に、俺は少しだけ安心してしまった。




