13.正しいルートと演じる理由
「俺の魔法が女神様の魔法って、どういうことですか!?」
俺はそう、ディゼルナさんに尋ねた。実際、俺の魔法は謎の実験で手に入れたもので、女神様から選ばれたという素晴らしいものではなかった。
勿論、既にリトラとゼノのやり取りを聞いているディゼルナさんの言葉が、リンピアナの住民たちを安心させるためであるということは理解していた。けれども俺の魔法を見た瞬間、子供たちが“女神の魔法”と言った理由を、ここに来たばかりの俺は知るはずは無かった。
「ただの言い伝えじゃ。この村を救った女神様は黒い魔法を使ったと言われておる」
「この村を救った……? しかも黒い魔法を女神様が……? いや、でも、俺の魔法は……」
「急かすでない。まずはそこにかけろ」
そう言って、ディゼルナさんは一つの部屋に案内した。そこは応接間のような、ソファーとテーブルが置かれた場所だった。
俺達がそこに座ると、ディゼルナさんはまっすぐ俺を見る。
「言い伝えを教える前に、改めてお主の口から教えてくれんか。お主が使う黒い魔法が使えるようになったきっかけを」
ディゼルナさんの言葉に、俺は正直に話す。
10歳の頃、よくわからない団体に誘拐され、実験され、この魔法を使えるようになったこと。知らない男に助けられ、そして魔法の使い方を教えてもらった事。そして、その男との会話がきっかけで、妹を生き返らせるために女神の伝説の真実を追っていた事。
「だから、俺の魔法は女神様から授かった魔法ではなくて……。でも、これだけは信じて欲しいんです。俺は悪魔と契約をしたわけではなくて……」
「そうじゃろな。お主はそんな事をできる目をしとらん」
この言葉は、過去の時間軸と変わらない。それに俺はホッとする。何度繰り返しても、いつか自分の言葉が演技であるとバレることが怖かった。
俺はここに来る度、とある時間軸で俺が失敗した選択をしてしまった時に、ディゼルナさんに言われた言葉を思い出す。
『クロノよ。人は何かを隠されていると気付いてしまった時、真意がどうであれ不信感を覚えずにはいられないのじゃよ。信じていた相手なら特にな』
そう言われた瞬間、少しの行動の差が未来を変えてしまうのだと知った。
いっそのことと、俺が巻き戻ったこととこれから起こる事を全て伝えながら進もうとしたこともあった。その時、リトラとソフィアはすぐに信じてくれた。
けれども、リンピアナに着いたら上手くいかなくなった。ディゼルナさんだけは信じてくれた。流石に知っているはずのない事を知っていたのだから。
それからの動きはほぼ同じだった。ただ全てが決められたシナリオのように出来すぎたまま進んで行った。
どうやら人間という生き物は、正解の結果だけ見ても、過程を知らなければ逆に不信感を抱くらしい。次に起こる事件を、一部の村の人からは自作自演だと疑われてしまった。
そして、一番戦う能力の無かったリトラが村の人に捕まり、本当の事を言えと脅され、拷問の末殺された。
その次のループでは、リトラとソフィアにだけ巻き戻っている事を伝えた。そして、敢えて過程を見せるためにディゼルナさんを含む村の人には事実を伝えたくないことも。
けれども、知らないフリをする事は、二人には難しかったらしい。結果、何かを隠していると言ってディゼルナさんは俺達を警戒し、リンピアナを追い出された。
『ごめん……、なさい……。私……、足手まといで……。私のせいで……』
最初の、まだ大人しい性格の時のリトラが泣きながら言った。
実際の所、リトラは基本的に黙ってくれていたから、失言が多かったのはソフィアの方だった。けれどもリトラは、少しのミスに責任を感じてしまっていた。
『そう……、だ……。私が死んだら、また巻き戻る……、のよね……? なら……』
そう言って、リトラは護身用に持っていた短剣を取り出した。
『クロノ、お願い……。次のループでは、私に、伝えないで……』
そう言い残して、リトラは自分で命を絶った。その瞬間、いつものように俺は最初の日に戻っていた。
その時から、俺は誰にも頼らない事を決めた。あんなに悲しい目を、しかもループのために自分の命を差し出すことなど、リトラには、いや、他の誰にもさせたくなかった。
ありがたいことに、記憶力だけは良かった。そして、意図した感情を演じることも得意で、俺だけならバレることはなかった。だから俺は、成功した全ての言葉を、感情を、そして行動を覚えて、俺が成功のルートに導くと決めた。
それからは、正解のルートを見つければ、失敗することはなかった。たまにリトラの性格が変わる事で正解のルートが変わる事もあるけれども、逆に楽になる事も多かった。
だから、このやり方で正しいはず。そう思うしかなかった。
ディゼルナさんは、改めて俺を見定めるように見る。
今回もきっと大丈夫。正しいルートに導けたはず。ディゼルナさんは、記憶と全く同じ表情で口を開く。
「実際に、お主が女神様の言う、強さと正義を兼ね備えた者なのかはわからぬ。それほどまでに言い伝えは昔の事じゃ。じゃが、ワシも長い時間を生きてきて、人を見る目は長けてきたつもりじゃ。少なくともワシは、お主は強さと正義を兼ね備えた者だと信じたい」
ディゼルナさんはそう言った後、今度はソフィアを見た。
「そして、クロノに伝えれば必然的にお主にも伝わるじゃろうが……」
「えっ……、もしかして、私は聞いちゃダメ……?」
少し不安げな目でディゼルナさんを見たソフィアに、ディゼルナさんは笑う。
「大丈夫じゃ。ワシは危険を伴う緊急事態には、人の本質が見えると思っておってな。お主はワシを一番に守ろうとしてくれた。正義感という軸で言えば、間違いないのじゃろう」
「やった! ディゼおばあちゃん大好き!」
そう言って、ソフィアはディゼルナさんに抱きつく。そんなソフィアに笑いながら、ディゼルナさんは次にリトラを見た。
今までは、この二人が認めた者なら問題ないだろうと、聞くことを認めて貰えていた。けれども、今回の性格はどうだろうかと、俺は少し緊張して二人を見た。
「そして、リトラと言ったか」
「は、はい……!」
「お主は、本当にクロノの事が、大切なんじゃのう」
その言葉に、リトラの顔は一瞬で赤くなった。突然のディゼルナさんの言葉に、俺も動揺する。
「なっ、違っ……!」
「そうかのう? クロノを悪く言われ、あれだけ怒れるのは、大切な証ではないのではないかのう?」
「ち、違うんです! あ、あれはこれ以上ゼノに邪魔されたくないからで、その、私のためで……」
リトラの言葉に、ディゼルナさんは声を出して笑った。
「そうかい、そうかい。そういうことにしておくかのう! じゃが、戦う術を持たないお主が、人のためにあそこまで怒れるのも、また正義の一つ。そしてそこまで想ってくれている人がいるということは、クロノ自身が正しく生きているという証拠にもなる」
そう言って、ディゼルナさんは椅子に深く座り直した。
「良い。全員に伝えよう。とは言っても、本当に言い伝えレベルじゃがのう」




