103.兵器と幸せな世界
夢を見ていた。リトラが俺に、好きだと伝えてくれる夢。
今のリトラがそんな事を言うはずなんてないのに、幸せな気持ちで満たされてしまった。
目を覚ませば、目に入ったのは不安そうな顔で俺を見るリトラだった。その瞬間、何があったか思い出して、思わずリトラを突き飛ばしてしまった。
怯えた顔をしたリトラを見て、俺はまたやってしまったのだと思った。咄嗟に巻き戻したけれども、リトラもまたコンコルスさんに巻き戻してもらったのだと言っていた。
いつ、どのタイミングだなんて頭が回らなかった。ただ理解したのは、俺がしてしまった失敗をリトラは覚えているということだ。
ただ謝る事しかできなかった。謝って、そして逃げるように外に出た。
もうこんな俺を必要としてくれる人なんていない。そのことは、もうわかっていた。だからこそ、夢で見たものは夢でしかない。
だから、早く自分の命を有効に使って、死んでしまいたかった。死んだ方が、皆喜ぶはずだった。
けれども、死んでも巻き戻されてしまう。どうして巻き戻すのか、理解できなかった。こんないらない人間を生かせ続ける理由が、理解できなかった。
いっそのこと、10歳のあの日まで巻き戻してしまおうかとも思った。それならば、メミニを守って俺は死ねる。守ったところでメミニが生きるかはわからないけれども、少なくとも俺以外の誰かが生きてくれる。
ただ一つ、問題があった。それだとリトラは助けられない。リトラは連れ去られたまま、何をされるのかわからない。
もう、どうしたらいいのかわからなかった。
そんなことを考えながら廊下を走っていると、突然手を引っ張られた。
見つかったのだろうか。そんな不安も、別の不安に書き換わった。
手を引っ張られ引き込まれたのは、真っ暗で機械音だけがする場所。フォッシリムでは入ったことのない、けれども確かに見たことがある場所に俺はいた。
「クロノ君。やっぱりダメだったのだよ! 全員救うことなど!」
そう言って俺に近付いてくる声の主を、俺は知っていた。
「ウルティオさん……?」
きっと、俺をこの部屋に引き入れたのも、ウルティオさんだろう。
どうしてウルティオさんが俺をこの場所に入れたのかはわからない。ただわかるのは、ここが兵器のある部屋であるという事だ。
ウルティオさんは、俺の肩を強く掴んで口を開く。
「君もコンコルスから聞いたのだろう!? エウレ様がコンコルスを生き返らせた後の出来事を! 結局、理想論ではエウレ様を救うことも、この世界を変えることもできなかったのだ! 生きるべき人は死に、不要な人だけが残る。やはり、生きるべき人が生きるには、犠牲が必要だったのだ!」
「犠牲……」
ウルティオさんの言葉を、否定できない俺がいた。
だって結局、犠牲がいなければメミニを生き返らせることはできなかった。犠牲がいなければ、生きるべき人は死んだままなのだ。
「ウルティオさんの言う通りですよね」
「……! クロノ君もわかってくれるのか! それなら話が早い」
そう言って、ウルティオさんは嬉しそうに俺の手を引っ張って、俺を部屋の奥へと連れて行った。ウルティオさんの意図がわからずされるがままになっていると、連れて行かれたのは映像でも見た、兵器の前だった。
「クロノ君。君の魔法ならこの兵器のロックを解除できるはずだ。頼む、解除して欲しい」
「は……?」
ウルティオさんの言葉に、俺の思考は停止した。
解除。なんのために。そんな事を思っていると、ウルティオさんは笑顔のまま口を開く。
「君の魔法を貰ったことがあっただろう? この兵器のロックを解除するためには、エウレ様がいなくても、クロノ君も持つ黒い魔法があれば良いとわかってね。けれどもある程度の量が必要で、あれだけでは足りなかった。だからこそ、クロノ君の力が必要なのだ!」
その言葉に、思わず俺はウルティオさんから一歩離れた。
「待って、ください。その兵器をどうするつもりですか」
「どうって、王都に落とすつもりだ。そして、今からでもエウレ様の願いを叶えるのだ! コンコルス、あいつのできなかったことを……!」
そう言って、ウルティオさんは俺を見て、にっこりと笑った。
「クロノ君も、犠牲は必要だと言っていただろう? 王都の者は簡単に魔力無しを殺す。王都の状況を見た者は、簡単に魔力無しに手出しができなくなるはずだ。人を殺す者がいなくなれば、きっと素敵な世界になるだろう。……ああ、大丈夫。クロノ君は優しいから、人を自分の手で殺したくはないこともわかっている。だから、解除するだけでいい。ボタンを押すのは、私がやろう。そして、幸せになるべき人が幸せになる世界を作ろう」
「ダメです!」
ようやく、ウルティオさんが言った犠牲という意味が、俺の思っていた犠牲とは全く違う事に気が付いた。ウルティオさんは、まだ何もしていない、ただ魔力があるだけの人達を殺そうとしているのだ。
「そ、そんなことやめましょう? 魔力がある人にもいい人だっていますし、きっと他にやり方が……」
「犠牲が必要だと、クロノ君も言ってくれただろう?」
「言いましたけど、そういう意味じゃ……」
俺がそう言えば、ウルティオさんは失望したような目で俺を見た。俺を見る冷たい目に、一瞬息をできなくなる。
「やはりか。やはりクロノ君はそう言うか」
そう言って、ウルティオさんはポケットから何かを取り出した。
「エウレ様、大丈夫ですよ。今度は私が彼を導き、エウレ様の望んだ世界を作ってみせますから」




