102.予感と諦めたくない未来(リトラ視点)
「クロノ、待って!」
そう叫んでクロノを追いかけたけれども、すぐに見失ってしまった。
けれどもすぐに見つけないと、またきっと死んでしまう。そんな予感もあった。
『迷惑かけて、ごめんなさい。駄目な俺で、ごめんなさい』
そう言ったクロノの悲痛な顔が頭にこびり付いて離れない。
迷惑かけたから時間を巻き戻していたなんて冗談じゃない。駄目な自分だから死のうとしたなんて冗談じゃない。
そんな事を言ったら、私は何度クロノに迷惑をかけたのだろうか。
ずっと駄目な私だった。何もできなくて、クロノの後ろに付いて行くしかなかった。未来に何が起こるか知っていた時だって、何もできない癖に前に出て、逆にクロノを危険な目に合わせた私だった。
けれどもそんな私を、クロノは何度も助けてくれた。きっと全部覚えてて、なのに好きじゃないと突き放した今の私ですら、クロノは守ろうとしてくれた。
ならば死ぬべきは私の方だ。そう思えるほど失敗だらけの人生だったのに、どうしてクロノは自分だけ死のうとするのだろうか。どうしてクロノは自分の失敗だけは許せないのだろうか。
たとえ何度失敗しても、それでも大丈夫だよって手を差し伸べてくれたのは、紛れもないクロノだったのに。
「クロノ!! どこ!! 返事して!!」
私は、皆にも聞こえるようにそう叫ぶ。
きっと叫べばクロノには逃げられる。けれどもきっと、皆気付く。私だけでは何もできないけど、皆となら解決できる気がするのだ。
「何があった!」
ゼノが、慌ててこちらに来る。
「クロノが目を覚まして!! それで!!」
「マジかよ。クソッ。後少し部屋にいれば良かったか」
「後悔する前に探すわよ!」
と、コンコルスさんがゼノとは別方向から現れた。
「コンコルスさん! クロノ見てない!?」
「いや、こっちには来ていない」
「なら、どこかの部屋に隠れたのかしら……」
焦る気持ちを、必死に大丈夫だと言い聞かせる。
今、この時間があるということは、きっとまだ時間は巻き戻っていない。それに、メミニちゃんを生き返らせるならば、見つかるように私達の前に現れるはずだった。
と、コンコルスさんも少し不安げな顔で口を開く。
「クロノ君が大変な時に申し訳ない。ウルティオを見ていないか」
「見てないわ」
「俺も見てねえ。なんかあったのか?」
確かに、コンコルスさんはウルティオさんと一緒にいたはずだった。けれども、一緒にいないという事は、二人の間にも何かあったのだろうか。
そう思っていると、コンコルスさんは小さくため息を付く。
「彼自身から話してもらおうと思ったが、もうそうもいかないだろう。……映像を覚えているか。あそこに、ウルティオに似た者がいただろう」
「ああ、そういえば……。って、おい、まさか……」
コンコルスさんの言葉に、私もハッとする。
まさか500年も生きている人がいるなんて思わなかったから、誰も同一人物だと思っていなかった。
けれども、500年生きたコンコルスさんがいた。そして、ソフィアはウルティオさんの部屋で不老不死の薬の研究をまとめたものを見たと言ってた。
「ねえ、もしかしてウルティオさんって……」
「ああ、そうだ。あいつも500年生きた人間だ。そして、兵器を発明した者でもある。更には、エウレを助けるために私が頼り、そして犠牲は必要だと兵器を使うよう説得してきた人物だ」
「でも、私の知っているウルティオさんはそんな人じゃ……」
そう言いかけて、私はゼノを見た。
ずっと、ゼノはウルティオさんに、不信感を抱いていた。そして、先程も嫌な予感がすると言っていた。
何も根拠はない話だ。けれども、不安だけは消えなかった。
コンコルスさんも、不安そうな顔で口を開く。
「……兵器は、ウルティオのみではエウレが施したロックを解除することはできないだろう。あれは、黒い魔法が必要だ。けれども、だからこそ、何も知らないクロノ君と会わせたくない」
コンコルスさんがそう言った瞬間だった。大きな音が、廊下に鳴り響いた。
「あっちだ!」
そう言って、ゼノは走り始める。私も、少し遅れて状況を理解して、音のした方に向かった。
「まさか……。そっちは兵器の隠し部屋……」
コンコルスさんの言葉を聞いた瞬間、もうこの時間軸ではクロノを救えない気がした。根拠はない。けれども、なんとなく、クロノが何かを“失敗”して巻き戻す。そんな気がしたのだ。
「コンコルスさん!」
私はコンコルスさんに向かって叫ぶ。
「お願い! 1秒だけでもいい! 私達を巻き戻して!」
「理由は!?」
「クロノが時間を巻き戻すかもしれないから! そうなっても、今の記憶を消したくないの!」
本当は、もっと前まで巻き戻した方がいいのかもしれない。そして、ゼノにも部屋にいてもらって、クロノを引き止めることだってできる。
けれども、少しでも先の未来に進みたい私もいた。例え今が失敗だったとしても、ギリギリまで諦めたくなかった。だつて未来まで失敗しているとは限らないのだ。
「わかった。巻き戻そう」
そう言って、コンコルスさんは魔法を使い始める。
そこからの記憶は無い。




