100.二人の関係と嫌な予感(リトラ視点)
フォッシリムには、あっという間に着いた。きっとクロノが死んだ時にすぐにコンコルスさんが現れたのはこの魔法だったのだと改めて思う。
それに、よく考えれば一度だけ、コンコルスさんにシャドウワープでとある場所に連れて行ってもらったことがあった。その時は余裕が無くて、コンコルスさんの言った呪文なんて聞いていなかったけれども、きっと同じものだったのだろう。
もう何度目かのフォッシリムの地下施設。階段を下りていると、ウルティオさんが慌てたように飛び出してきた。
まずソフィアを見て、そして私とゼノを見た後、コンコルスさんに背負われたクロノを見て動揺した顔を見せた。
「クロノ君になにかあったのか!?」
そう言ってウルティオさんは、慌ててクロノの元に駆け寄った。そんなウルティオさんに、コンコルスさんが口を開く。
「命に別状はない。少し訳があって、ソフィアさんの持っていた薬で眠ってもらっている」
「そ、そうですか……。取り乱して申し訳ありません。えっと、あなたは……」
ウルティオさんは、困惑した表情のままコンコルスさんを見た。コンコルスさんはクロノを一度壁にもたれかからせるように座らせ、そしてまっすぐウルティオさんを見た。
「……久しいな、ウルティオ。コンコルスだ」
「は……?」
コンコルスさんの言葉に、ウルティオさんも、そして私たちも一瞬固まった。だってウルティオさんとコンコルスさんは会ったことがないはずなのだから。
確かにウルティオさんはコンコルスさんという存在を知っているような言動はあった。けれども、何年も姿が変わらないコンコルスさんだからこそ、会ったことがあればすぐにわかるはずだった。
「貴様」
と、低く、怒りを滲ませたような声が廊下に響いた。それは確かにウルティオさんの声で、けれどもいつも聞いていた穏やかな声ではなかった。
「何故! エウレ様を見捨てた! 貴様なら助けることができただろう!」
そう言って、ウルティオさんはコンコルスさんの胸倉を掴む。
「魔力を持っている貴様ならできたはずだ! エウレ様の記憶をもとにエウレ様と同じ魔力を持ち、時間を巻き戻すことも! なのに何故! 貴様はのうのうと生きている!」
「ティオおじさん……!? 待って、どうしたの!? 落ち着いて!」
「仕方ないだろう! こいつが……! こいつがエウレ様を……!」
「おい、なにしてんだよ!」
ゼノが、ウルティオさんを無理矢理コンコルスさんから引き離す。
皆が突然感情的になったウルティオさんに困惑する中、責められている当の本人であるコンコルスさんだけは冷静な目でウルティオさんを見ていた。
「ウルティオ。一旦落ち着け」
「落ち着けるわけないだろう!」
「子供たちを見なさい」
コンコルスさんの言葉に、ウルティオさんはようやくハッとした顔で私たちを見た。そんなウルティオさんを確認し、コンコルスさんは冷静な声のまま言う。
「ウルティオ、奥で話そう。ゼノ君、クロノ君を頼めるか」
「あ、ああ」
ゼノは困惑した顔のまま頷いた。
確かにクロノをこのままにはしておけない。けれども、二人の関係にここにいる誰もが理解できないままだった。
ソフィアが、二人の腕を掴む。
「待って! 二人は知り合いなの!?」
その言葉に、最初に口を開いたのはコンコルスさんだった。
「……俺から君達に伝えていいのかわからない」
コンコルスさんの言葉に、自然と視線はウルティオさんに向いた。けれどもウルティオさんは、気まずそうに私達から目を逸らす。
「……申し訳ないが、今は混乱して上手く話せそうにない。後で話していいかい?」
そう言われてしまえば、これ以上深く追求はできなかった。
二人はそのまま、廊下の奥に消えて行った。
「あんなティオおじさん、初めて見た」
ソフィアは、不安そうに二人の背中を見送っていた。
私はウルティオさんと出会ってまだ日が浅い。だから知らないウルティオさんの一面があってもおかしくはない。
けれどもソフィアは親代わりと言うほど一緒にいたはずだった。そんなソフィアがそう言うのだから、やはり異常なのだろう。
「なんか、嫌な予感がするな……」
と、ポツリとゼノがそう言った。
「嫌な予感って、何よ」
「いや、予感だからわかんねえよ。根拠もなんもねえし」
「あんた、コンコルスさんに勘が当たるって言われんだから、心配になるわよ。……何もなければいいけど」
「俺だってそうだ。こいつの事に集中してえし」
そう言って、ゼノはクロノを見る。確かに、余計な心配は増やしたくなかった。今はクロノの事だけを考えていたかった。
「……とりあえず、クロノを部屋に運ぶか」
「そうね」
ゼノがクロノを背中に背負うのを、私も手伝った。
クロノの体は暖かくて、寝顔も穏やかで、いっそのことソフィアの研究が終わるまで、ずっと眠っていてくれたらいいのにとさえ思ってしまう。
役に立たなくてもいい。何もできなくていい。ただ生きて、傍にいて欲しい、それだけなのだ。




