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8/25

8,世の中には選択肢すらない場合も多い。

「…何を!?お金は渡しただろ!」


北沢に羽交い絞めにされた天川が、慌ててもがく。


「…。東野、谷町、こいつのスマホ奪え」


「!?…やめ!!?ぐう!?」


ごついとは思っていたが、本当に力が強い。力を入れられると痛くて暴れられない。

北沢の行動に一瞬ぽかんとした東野、谷町コンビだったが、理解し、天川のポケットを探る。

そして。


「あー!こいつ録音なんかしてやがった!油断もスキもねーな!」


「引きこもってる間に余計な知恵つけやがって!」


「…」


おそらくは天川の意外なほどの冷静な態度に北沢が不審に思ったのだろう。

見た目よりも頭がいい。


「どうする北沢くん?録音は消すとして、壊しちまおうか」


スマホを奪った谷町が北沢の指示を仰ぐ。


「…それだと親にばれるだろ。二度とこんな真似ができないように下半身の写真でも撮ってやれよ」


「お!!いいねえ!脅しの道具ってわけな!」


「北沢くん、流石だぜえ」


意気揚々とさっそく天川のズボンを下ろそうと近寄る谷町コンビ。


そのタイミングで。


ビイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!


と特大の防犯音がなった。

予想外の爆音に、驚いた北沢の腕の力が緩んだ。

この爆音を予め知っていた天川は、そのすきをつき、羽交い絞めから脱出する。


「スマホ返してくれたら、このことは言わないでおいてあげるよ」


3人からある程度距離を置き、仕込んでおいた防犯アラームを解除しつつ無表情でそう要求する天川。


「はあ!?証拠は消したし…」


「録音しているのがそのスマホだけだとでも思ってたのかよ?ていうか録画だけどな。リアタイで『俺』の家にあるパソコンに転送されてるよ」


被せるように返す天川。


「いずれにせよサッサとここから離れないとお互い面倒じゃねーの?…まあ『加害者』な分、お前らの方が大変だろうけどな」


これが決めてだった。


「…スマホ返してやれ」


しょうもない連中とはいえ、やはりリーダー格の北沢は判断がはやい。3人は苦虫を嚙み締めたような顔をしながら天川にスマホを投げつけた。


「…覚えてろよ!」


「はいはい。明後日くらいまでは覚えといてやるよ」


その場から離れていった3人。その後すぐに、異音に気付いた先生が何人か駆け付けたが、防犯ベルの誤作動だったと適当に誤魔化す天川だった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



そのあと。

約束通り三好と望月の下に向かっている道中。


《一見、天川の思惑通りに見えなくもないですが、羽交い絞めをされたときは相当焦ったんじゃないのですか?》


アルマに図星を突かれて苦笑いする天川。


《…やっぱわかる?》


《アラーム音で羽交い絞めを脱出できたのはたまたま運が良かっただけと言えますし、アラーム音や天川の言うことを無視して、ズボンを無理やりにでも下げに行くことも考えられましたからね。すぐに人が駆けつけてきてくれるという保証もありません》


あーあー、その通りだよ、油断したことは認めるよと天川はため息をついた。


《ごつい見た目だから脳筋だと思ったから…でもま、最後の手段とは言え羽交い絞めから脱出する手段は考えていたけどな。例えば北沢の髪を掴むとか》


《それでも確実性に欠けますね。とはいえ、別に私はあなたの筋書きの穴をつこうとしているわけではありません。私が言いたいのは、あなたならもっと確実に、安全な方法で彼らと対峙出来ていたのでは?そう問いたいのです》


天川の思惑。

散髪のついでにこういう時のために購入しておいたペン型カメラを胸ポケットに仕込んでおいた。スマホを囮にして(あらかじめ重要なデータは移行しておいて、悪用されないような処理はしておいた)

カツアゲの現場を撮影できていたまでは良かったが、相手が変に早く退いてくれたせいで拍子抜けをし油断してしまい、羽交い絞めに合ってしまった。

天川はある程度の距離をとり、いつでも逃げる心構えをしていたが、羽交い絞めをされたらそれが出来ない。

結果、確実性のない立ち回りで応対するしかなかった。仕込んでおいた防犯アラームも言わば保険。

万が一の時のための物だったが、使ってしまった。

保険を使用しなくてはならない作戦など愚の骨頂と言える。


アルマの言う通り、もっと場所と時を選べばより安全に奴らの弱みを握れたかもしれない。


ただ。それでも。


《13歳の女の子…しかもあんな可愛らしい子に気高い勇気を魅せつけられて、柄にもなくかっこつけたくなっただけだ》


女子とは言え、あんなガタイのいいいじめっ子連中に立ち向かうのは勇気がいる。ましてや、いままでいじめられていた同級生を守るために。

俺も…一応は男だ。そんな子を前に…できるなら退くようなことはしたくない。


《本当にそれだけですか?》


《アルマよー。お前にとってはそれだけのことかもしれんけどよー》


《俺はある程度こんな展開を予測していたから下準備も出来てはいたけれど、三好はなんの前準備もなしで目の前の危険に向き合い、反抗したんだぜ?そんなことなかなかできるもんじゃねーよ。…要はそれに感化されて、俺も少しリスクのある選択を取ってしまった。これってそんなにおかしいことか?》


《いえ…おかしくはありません。ですが、本当に三好稲葉の『それだけ』の行動に感化されて今回の立ち回りをしたというのであれば…それは私の思う『天川らしさ』とはかけ離れていた故…問うたまでです》


《…》



ーーーーーーーーーーーーー


「天くん!大丈夫だった!?」


「…わりと平気そうだな?安心したよ」


学校の昇降口。

望月は壁にもたれかかり、三好は心配そうな表情で天川に寄ってきた。


「ああ、もう話はついたから。多分今日みたいなことはもうないから。帰ろう」


天川は笑顔でそう返したものの、アルマに言われた言葉を考えていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


某マクドナ〇ド。

昼食をかねて、天川以下3人(+1人)が卓を囲んでいた。


「で?話がついたってどういうことだ?差し支えないなら教えてくれよ」


望月がテリヤキバーガーを齧りながら天川に言う。

望月が気になるのは当然であろう。凶器でも使用しない限り、どうあっても暴力ではあの三人には勝てそうにない。それでも天川の余裕な様子を察するに、上々の結果に終わったのは想像できる。


「そのまんまの意味だよ。あいつらはもう僕には手を出さない…というか出せないな。…ああでも、喧嘩とかそういうので黙らせたとかじゃないから安心してくれ」


天川はそう答え、コーラを飲む。


「いや、その奇麗な恰好みりゃわかるだろ。それに3対1じゃ、勝ち目なんてないだろうしな」


そうやれやれといった感じのジェスチャーをとる望月。今度は三好が身を乗り出して天川に話しかける。

ちなみに三好の前にはビッグ〇ックのセットがおかれている(アイスコーヒー)


「そーそー!腕力じゃないならさ、余計きになるっていうか」


「残念ながら企業秘密ですね。ここから先は有料コンテンツです」


とお道化た態度をする天川。


「うえ!?じゃあこのポテトでどーだ!」


と三好はポテトを差し出し、


「じゃあ、俺はナゲットで」


と望月はナゲットを笑いながら差し出してきた。


「いや、そんな食えないよ。まー、マジレスすると北沢らとの約束事で『それを』言わないっていうのも含まれているから…要は言えない。君らには悪いけどね」


今度は困ったような笑顔でそういう天川。するとぶーと口を膨らませる三好。


「えー、いいじゃん別にー。あーしら『友達』じゃんかー」


…。

友達、ねえ。


「…そういえば改めてお礼をいうよ。ありがとな、三好さん」


「うえ!?…突然、な、なにかな?」


言葉通り急に天川に礼を言われ驚く三好に望月が冷静に、言葉を補う。


「天川庇った時のことだろ?北沢らに食って掛かったじゃん」


「そ。あんなガラ悪い連中にあんなこと、なかなか言えないよ。その上自分に絡んできたわけでもないのにさ」


賞賛の言葉を贈る天川に三好が照れ臭そうに茶色がかった自身のツインテを弄ぶ。


「んー。あの時はそこまで深く考えてなかったっていうか…気づいたら叫んでたって感じだから、別にそんなんきにしなくていいよー…あー!それなら!」


はっとした感じに手を叩く三好に天川は身構える。

お礼代わりに、さっきの質問に答えてほしいときたらまずい。まあ、それでも答えることはしないけども。


「お礼に三好さんなんて言わず、稲葉って呼んでよ。そのほうがいいなー」


無邪気でいたずらな笑みを見せる三好。昨日の今日でいきなり名前、しかも女子を呼び捨てとは天川的にはかなり抵抗があったものの、おそらく拒否されることを想定していないであろう笑顔の三好にそんなことをいえるわけでもなく。


「わかった。…稲葉…ちゃん…で取り合えず勘弁してくれない?いきなり呼び捨てはねえ」


苦笑いしながら答えた天川に三好は目を丸くしてその後、アハハ!と笑う。


「なーに?天くん、あーしに照れてんのー?まあ、あーし可愛いもんねー。天君も可愛いとこあるじゃん!うりうり」


と肘で天川の脇腹を攻める三好。


「…しっかし、お前本当にヒッキーだったのか?北沢らへの対応含めて、度胸あり過ぎだろ。小学生のころいじめられてたのが信じられないんだが」


望月の疑問に三好もわちゃつくのをやめ、同調する。


「そだね。あいつらについてく時も全然落ち着いてった言うか、まったく動じてないって感じだったし。天君って元はあいつらにいじめられてたんでしょ?とてもそうはおもえなかったなー」


二人の疑問はもっともだ。

理由は単純で。そもさん北沢らに天川はいじめられていないから。

とはいえ、転生後の自分のあずかり知ることではありませんので、とは説明できない…当たり前だけど。

それと、自分が過去いじめられていたであろうことは予想出来ていたので対策もできていた。だからこその冷静さではあるのだが。


「別にいうほど冷静じゃないし、内心大分ビビってたよ。でも、学校に復帰すると決めた時。もしまた『こういうこと』があったら決めてたんだ。今度はちゃんと向き合うって」


これは本当でもあり、嘘でもある。どんなに前準備をしていても、100%勝てる戦いはない。そういう意味では北沢らと対峙したときはそれなりに緊張もしていた。

ビビっているってのは誇張表現だが。

大体、いじめっ子を退いたくらいで騒ぎ過ぎだと思う天川だったが、それは天川の精神がおっさんだからなだけで、いじめ問題は子供たちにとっては重要で難解な問題なのだ。

だから天川も大仰な言い方をわざとしている。


「はあん、なるほどね。元々やりあう気だったんならあの堂々とした態度はわかるわ。何をして北沢らを退けたかはしらんけど、そのための下準備もしてきたと」


望月は納得したように頷いた。それに天川もその通りと返す。


「でもそこまでの決意ってなかなかできなくない?負けてぼこぼこにされる可能性もあるわけだし」


三好がもっともな質問をしてきた。それもその通りで、みんなその勇気が持てずに、いじめられるのをただ我慢していたり、引きこもったり、はたまた転校したりするのだ。

ちなみに上記を否定する気はない。戦うのも、我慢するのも、逃げるのも、どれを選択するのは自分の勝手だ。

逃げると書くと聞こえは悪いが転校できるならそれはそれが一番無難な策と言える。ローリスクでいじめっこから離れられるのはでかい。

反対に立ち向かうと書けば恰好はいいが、当然返り討ちにされる可能性もある。


「引きこもっているときに変わったおじさんと知り合ってさ。いじめられて引きこもっているっていったら面白い考え方を教えてくれた」


勿論そんなおじさんは存在しない。だが二人は興味津々で天川の次の言葉を待った。


「【お前は引きこもるという選択肢をとっていじめっ子から逃げることができたんだろ?世の中にはそれすら選択できず(させてもらえず)に自殺する子もいる。お前は選択できる勇気を持った奴だ。なら引きこもってばかりいないで他の選択肢も選択してみろ?】

…てさ。屁理屈だけど、なーんか妙に納得しちゃったんだよな。だから怖くても、立ち向かうという選択をやるだけやってみるかって」


「…物は考えようってか」


「あーしは好きかな?そのおじさんの考え方」

















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