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5,アルマと将棋と魔法属性と。

六文銭舞雪に関してはとりあえず、考えるのは先送りにすることにした。アルマがあまり興味がないと言っている以上、情報が得られないと思ったから。

夕飯を終えた天川は明日の準備を始めていた。プリントを見ながら必要なものを中学用のカバンに詰めていく。


《…天川。正直暇なので、テレビをつけてもらえませんか?》


お行儀よく椅子に座っているアルマが天川に要求する。おっさんになって以降、テレビはニュースしか見てなかった天川は勝手にしろよと言いかけたが、そういや幽体だったと思い出しリモコンに手を伸ばす。


《どのチャンネルがいいんだ?》


言いながら天川は適当に番組をポチポチと変える。すると教育テレビ番組のところでアルマの目つきが変わった。


《…天川!ここで止めてください!》


《…将棋に興味があるんか?》


その番組ではプロの将棋対局が放映されていた。着物をきた中年のおじさんと、スーツを着た若者の対局だ。


《テーブルゲームは暇つぶしには最適解と言えますからね。長らく転生者が来ない時は異世界のこういった対局を覗き見していたものです》


…何してんだこの女神は。

呆れ顔の天川をよそに食い入るようにテレビを見つめるアルマ。ちなみに天川も将棋のルールぐらいはしっているしド素人相手ぐらいなら勝てる程度の経験はある…つまりは素人同然なのだが。

それで今のアルマのように、下手の横好きでプロの対局を興味本位で見ることもあるが正直全然理解できない。決着した後に解説者が詰み路を示してもはえーとなるだけである。

だがここまで食い入るように見るアルマは、それなりに将棋の実力があるのだろうか?

割とどうでもいい情報かと思っていた天川だったが、テレビの解説者がヒートアップして解説をし始めた。天川も盤面をみたらプロの若者の駒が中年プロの陣地に攻めている。

どうやら勝負も佳境を迎えているようだ。

…ものは試しか?


《アルマ?なんか佳境っぽいけど、若いほうのプロが勝ちそうなのかな》


アルマにそう問うと顎にてをあてて目を鋭くさせて返した。


《3,4の竜が肝ですね。佳境というか後手が既に詰んでいます。先手が詰め路に気付いていないようですが》


天川は言葉を失った。ちなみに王の駒を持つ方が後手といい、玉の駒をもつ方が先手。若いプロが先手だ。

…解説者は詰みとは言っていない。対局者同士も睨みあっていて手が進まない。アルマの言っていることが本当ならプロの先を読んでいることになる。

…まさかな。


【ああ!この手は!?はい!これは…いい手です】


ここで解説者が唸るように声を上げた。驚くことにアルマの言っていた竜の駒を動かしたのだ。

その後、中年のプロが投了した。


《…おいおい。あいつらプロ棋士だぞ?そいつらの先を読むとかお前どんだけ将棋が強いんだよ》


《さあ?実際に対局したことはありません故。…ああ、感想戦が始まりますね。天川、少し話しかけないでもらえますか?感想戦に集中したいのです》


感想戦とは対局者同士やそれを観戦していたものも含めて、対局を振り返ることである。天川はどこかで一説では対局よりも感想戦の方が重要というのを聞いていた。

テレビに齧りつくアルマを見るとそうなのかもしれないとほげーと考える天川だった。

それよりも。

なぜこんなにも将棋が強いのか?アルマは対局はしたことはないと言っていたが、プロよりさきに詰め路にたどり着くということは相当な実力だろう。

…一応レディ?なので年齢を聞くようなことはしなかったが、人間と違い、何十、何百、何千年と生きていると仮定して、その間ずっとあらゆるテーブルゲームを見てきたとするのであれば。

その強さは自然といえるかもしれない。

アルマの意外な特技を思わぬところで知ることが出来た天川だった。


(…今度、一局指してもらおうかね)


そう思いながら。テレビに齧りつくアルマを尻目に明日の準備を再開する天川。指してもらったところで天川がぼろ負けするのが関の山だろうが、この場合勝敗は問題ではない。


ともあれ。


ひとしきり準備を終えた天川はTシャツとジャージで、ベッドに寝転がりながらとある本を眺めていた。

アルマは変わらずテレビを見ていた。テレビっ子なのか?

…。今の天川はただの少年であり、アルマは美人のお姉さんと言った感じだ。そんな美女と同じ部屋にいること自体天川にとっては非日常ではあるのだが、不思議とやましい感情が湧いてこない。アルマを見てエロいと感じることはあっても不思議と手を出すまでの劣情がでてこない。

まあ、実際に触れようとしても触れないのでそういった事情から心の奥底で諦めの感情があるからなのかもしれない。それ自体は天川にとってもありがたい事ではあった。

アルマを見るたびに欲情していたら、それこそ自分の身が持たない。

でもまあ…改めて見ても、やっぱ美人だよなあ。カジュアルな服装も似合っている。

そこまで考えたところで、思考を本へと戻す。

そのタイトル。


『魔法学の始まり』


…ふむ。ようやく異世界らしいことを自分でもし始めたと思った天川だった。

明日から通う中学では魔法という科目があるらしい。それ以外は国語、数学、英語、理科、社会…とまあ、天川も経験したことがある科目であった。魔法以外の教科書もざっと眺めていたが転生前の内容とほぼ変わらず…まあ10年以上前のことなのでうろ覚えなのだが。


それで。


『魔法学の始まり』という教科書を初めから読んでみたものの、どうやら中学入学の初めの段階で『属性の選別』とやらが例外なくどこの中学校でも実施されるらしい。ちなみに小学校では魔法の授業はなく転生前の学校とほぼ一緒だ。なんでも年齢的に小学生までは魔力が安定していなくその段階で魔法の勉強をしても無駄に終わるとか。

閑話休題として本を読む。


『大抵の人は『無』属性に属しており、稀に4大属性である『火』『水』『地』『風』のいずれかに属する人がいます。そして更に稀に『心』『命』『時』のいずれかに属する人がいます。まずはこの属性の判別と選別をすることで個々の授業内容が変わっていきます』

『大半の方々が属するであろう『無』属性の授業は基礎的な魔法と知識を本書で学んでいきます。それ以外の属性の方々は、専攻科目として専門的にその属性の魔法を座学と実技を踏まえて学んでいきます』

『このようなある種差別のような選別を行う理由は、それほど属性による魔法練度の差は著しく努力では決して埋めることのできない圧倒的差があるためです。一例で上げると『無』属性の方がいくら努力したところでマッチ程度の火しか魔法で出せませんが『火』属性を持つ方であれば火炎放射のような炎を発することさえも可能となります』

『ですから差別的に思えても属性判別による選別は必須と言えるものです。それだけ危険な才能を秘めているともいえるのですから、早い段階でそれを見極めるのは社会の秩序にも繋がります』


ここまで読んでみて。

この世界における魔法とは随分とまあ才能による格差があるんだなあという感想。とりあえず『無』属性とやらになったら、魔法に関してはほぼ凡人ルート確定ってことか。めでたく中学入学ってのに早々に大半の奴らは凡人の烙印を押されるとは…しかしまあ、この本にある通りそれは仕方ないともいえる。これはネットで調べてわかったことだが、この世界では許可された者や許可された場所でしか魔法を使用してはいけない法律がある。

当然だ。天川はこの世界にどんな魔法が存在するかまでは全く把握していないが、拳銃以上の危険な魔法があるくらいは想像に難くない。ならば規制されなければそれこそ人外魔境となってしまう。

おそらくは選別も、将来魔法を取り締まる側として教育する側面が強いのだろう。

力には力で。魔法には魔法で対抗しなくてはならない場面は出てくるだろうし。

天川ははあとため息をつき本を閉じた。


(…属性ね。俺の場合は…まあ期待するだけあほか)


《そんなあなたに!とっておきの!あなただけの超能力を授けますよ~》


アルマが急に体をグイっと天川に寄せてきた。うお!?と顔を若干赤くさせながら後ずさる天川。


《…急に近づくな!それとおれの思考を勝手に読むな!ていうか、テレビ見てたんじゃないのか?》


アルマが身を引き答える。


《別にあなたの思考は読んではいませんよ?ですが、それ(魔法の教科書)を読みながらなにやら辛気臭い顔をしていましたから。どうせ自分には魔法の才能なんかないのだろうと心で嘆いていたのでは?テレビも重要ですが、私にとってもっとも重要なのはあなたに力を授けることです》


…。大体図星だったのが少し悔しい。

ただ。


《仮に俺に魔法の才能がなかったとして…無属性だったか?そうだったとしてもそこまでショックではないからな。だから『そのための』能力を貰おうとはとても思えないな》


そう若干表情を歪める天川にアルマははあーとため息をつく。


《…全く、あなたに能力を授ける時はいつになることやら。あなたのことですからただの強がりでそんなことを言っているのではないとは思いますが、せっかく魔法という概念が存在する世界で。その才能が欲しいとは思わないのですか?》


《現段階で魔法がなくても、普通に生活できている世界に見えるからな。それだったらお金を潤沢に稼げるような能力のほうが魅力的に思えさえするかね》


そもそも、認可された者や許可された場所でしか魔法が使用できない法があるのだ。アニメやゲームのような万能感のある魔法世界ではないと考えられる。

よくよく考えればアニメやゲームでも魔法のほとんどは、ただの攻撃手段や治癒である場合がおおい。そう考えると案外夢のないものなのか?魔法って奴は。


《そうは言ってもお金を稼ぐことに重きをおいた能力を望むのではないのでしょう?》


アルマの問いに天川は今のところ一番ないわなと答える。

能力の応用で副産物的に金が稼げるならそれはありだが、金を主とした目的の能力を得るのは愚の骨頂といえる…と思う。…理由は単純だ。


金では買えないものが、世の中には結構あるから。


《というより、どんな能力にしたにしろ大概は応用で金は稼げそうなもんだしな。例えば予知能力とか?株のことはよう知らんけど、無限に儲けられそうだ》


自分で言ってみて、わるくない能力だと思った。取り合えず候補に入れておくか?ああそうかと、天川は思いついた欲しい能力候補はスマホに保存しておこう…とポチポチ始めた。


《…なあ、アルマ》


スマホをポチりながら目線を合わさずアルマに話しかける天川。


《…どうかしましたか?》


《何か行動をするとき、その才能が欲しくない人間なんてこの世に存在すると思うか?》


《質問の意図が読めませんが…いないでしょうね。あればそれに越したことはありませんし、潜在能力はいいものであればいくらもっていても困りません故》


アルマは答えるまでもない質問だとおもったが答えた。なぜなら魔法の才能がなくてもそれならそれでいいというようなことをいっていたから。それに対してこの質問はある種矛盾している。

だがそれゆえ気になる。

次の返答に。


《…正直俺は才能って奴が嫌いだ》


天川はスマホをおき、ベッドに仰向けになった。天井を見上げアルマを見ないで続ける。


《…》


《だからと言って、才能がいらないとは言わない。むしろ欲しい、『それ』がないせいで何度惨めな思いをしてきたか》


《…》


《自分でも矛盾していることを言っているとは思う。才能は欲しい、天才になりたい、だがそれと同時に憎んでもいるんだ。天才とは言わずとも、才能をもっている奴らに》


《そこまで才能に固執しているのにそれがなくてもいいというのは、才能のない自分でそれを覆したいということですか?》


ここで天川は笑った。


《正直わかんねえ。お前の言う通りサッサと便利な能力貰って、無双したい気持ちもあるんよ。ただ同時に、思うんだ。前世の俺は本当に最善を尽くしてきたのかと》


アルマが天川の言葉を引き継いだ。


《『今』の天川翔に魔法の才能がなかったとして『最善を尽くさず』私の能力に逃げるのは天川 翔という存在に対して失礼とでもいいたいのです?》


《そこまでかっこいい感情でもないけどな。もっとこう…根っこは暗くぐつぐつした劣情だよ。…案外ないならないで、取り合えずそれで楽しんで見たいってのが本質なだけかもな…ははは》


《…つくづくわからない人ですよ天川あなたは》


呆れるアルマに天川は笑う。


《捻くれてるだけさ》














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