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4、『お前に【時】を授けてやろう』

「またあったね。お兄ちゃん」


気づくと。

前回夢で見た砂浜にいた。

そして目の前に。

水無月霧雨と名乗った少女がいた。

黒髪のおさげで青色のワンピース。

10歳前後だろうか。身長は140にも満たない。

あどけない笑顔を天川に向ける。


「…水無月…霧雨ちゃん…だっけ」


天川はいいながら後ずさる。前回の夢で最後ブラックアウトしたのでよくわからなかったが、少女の最後の言葉だけは深く天川の記憶に刻まれている。


『お兄ちゃん、食べていい?』


これが比喩なのかどうかはわからない。だが異常な言動であることは間違いない。

現在のこれもただの夢なのだろうとはおもってはいたが…いたが。


「どうしたの?お兄ちゃん」


警戒心をあらわにしている天川にそう首を傾げる水無月。


(…まあ、警戒したところで…だな)


ここで天川は思い至る。

仮に眼前の少女が人の皮を被った化け物だとして。

現在の自分には対応策もないし、逃げたところで前回同様に追いつかれるだろう。


ならば自ら。


「…前回さ。お兄ちゃんのこと食べていいって言ってたよな。あれはどういう意味だったんだ?」


天川は猫を被るのをやめて本来の口調で話す。

覚悟を決めたのだ。ならば素の自分で話した方が楽だったから。


「あはは!そんなのそのままの意味に決まってるじゃん。…正確にはお兄ちゃんの『魔力』をだけどね」


ここで水無月は少女らしからぬ嫌らしい笑みに変わった。


…。


魔力を食べる?


「おにいちゃんさー。自分で気づいてないの?自分が桁外れの魔力量を持っていることにさー」


いいながらやれやれといった仕草をする水無月。


「…話が見えないな。だが桁外れかどうかはしらないが『そういう』心当たりはいくつかある。…アイス買ってやるからもう少し付き合ってくれよ」


言いながら。天川は遠巻きに見える海の家を指さす。これも前回見たときと全く同じ海の家だ。


「いいよん♪前はチョコモナカだったから次はなににしよっかなー♪」


天川からの誘いに水無月はあどけない笑顔に戻り海の家に向かって走り出す。

天川も歩いてその後をおう。


「ん~やっぱりアイスはチョコ味が最高だよね。お兄ちゃんもそう思わない?」


海の家の前にあるベンチに天川と水無月がならんで座っている。

水無月は機嫌よさそうにチョコ味のカップアイスを頬張っていた。天川は前回と同じチョコモナカアイスを齧っていた。


「それには同意だな。だが邪道ではあるがチョコミントも決して悪くはない…ってそんな話はどうでもいいか」


「え~あれ歯磨き粉の味するじゃん。見た目が美味しそうで一回食べてみたけど、二度と食べたくないよあんなの」


そう不満そうな顔をする水無月。


「俺も最初そうだったよ。だが年食うとそれがだんだん良くなっていくんだなこれが」


天川がそう返答すると水無月は一瞬目を丸くして、その後笑った。


「あは!お兄ちゃん変なのー。年食うってお兄ちゃん霧とそんなに変わらないじゃん」


…。

天川は敢えてぼろを出した。水無月は前回の夢で『お兄ちゃんってこの世界の住人じゃないでしょ?』といった。

ならば天川が異世界転生者だということを知っているのかと思って一種のカマをかけたのだ。


「…歳が2,3離れれば十分変わるさ。…それで?結局俺の魔力を食べたいって話だったよな。それは具体的にどういう意味なんだ」


水無月は天川の問いに憂鬱そうな表情で返す。


「霧ってすごい食いしん坊なんだよね。…あ、ご飯じゃなくて魔力のほうね。だからすぐ魔力が無くなってお腹がすごく減っちゃうの」


言いながら水無月は食べ終わったカップアイスをゴミ箱に頬り投げた。

見事にインしたが、天川がはしたないぞ注意するとあっかんべーと水無月は返す。


「魔力って勝手に回復するもんじゃないのか?授業ではそう習ったが」


そもそも天川は魔力の使い過ぎでへばるという人は一杯みてきたものの、腹が得ると言った表現をする人は見た時がなかった。


「…わかんない。霧は他の人とは違うのかな?みんなみたいに家族もいないし、家もないし」


少女の返答に天川は困惑する。

やはりこの少女…自分が創り出したただの夢の住人なのか?

家族もいないし、家もない。

設定が滅茶苦茶だ。


「じゃあなんで俺の魔力を食べたいと思たったんだ?俺の魔力量が多いからっていうのはわかるが、別に他の奴でもよくないか?それともたまたま?」


天川の重ねての問いに水無月はぽかんとした表情で首を傾げる。


「勿論食べてるよ?…でもお兄ちゃんだったらさー」



「…お腹いっぱい食べても死ななそうだから」



ここでブラックアウトした天川だった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



「!!?」


天川はがばっと起き上がる。

辺りを見渡すと見慣れた自室で安心する。

しかし体はもの凄くだるい。


《…大丈夫ですか?今日もうなされていましたが》


脇でお行儀よく座っているアルマが心配そうな顔で天川にそう問う。

この日は最初にあったときのフランス人形のような出で立ちだった。


《…ああ。6:30か。学校に行く準備しなきゃな》


だるい身体に鞭を打って起き上がる天川。


《無理をしないで休んだ方がいいのでは?下手をしたら風邪をひきますよ》


《ありがとうよ。でも年食うと感覚でわかるんだ。熱もないし体動かしてくうちに回復する奴だってさ》


《そうですか。それなら良かったです》


笑顔に変わったアルマを見て天川も表情が緩くなった。


(…しかしこの夢。…水無月霧雨。本当にただの夢なのか?)





ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


学校へ向かう道中。


《ところで天川。天川は由利仇花ルート、三好稲葉ルート、どちらを選ぶのです?》


少しの時間が経過して体調が戻った天川ににやけ面でそう問うてくるアルマ。


《…なんだそのギャルゲの選択肢みたいな言い方は》


そうため息をついて返す天川。


《まさか二股ハーレムルートですか?しかしそれでは母にばれた場合、天川がただではすみませんよ》


天川の母、天川夏奈が言っていた。


『もし二股なんかしたら殺すわよ?』


三好も由利も夏奈にとっては好印象だったのでそう天川に釘を刺したのだろう。


《心配しなくても二股なんかできるほど俺は器用じゃない。…しかしどうしたもんかね。あちらをたてればこちらがたたずってのは正にこの状態だな》


そう口に手を当て思考する天川。正直な話、そっちよりも優先すべき事柄が多々あって恋愛に思考のリソースを割きたくない天川だった。


《…天川。曖昧な態度をいつまでも続けるとどちらの魚も逃しますよ?その時にあなたは後悔しませんか?》


《…そもそもだけどさ。三好は俺のことを友人以上恋人未満って言ってたじゃないか。由利だってまあ…はっきりとは言ってないし》


ここでも曖昧な態度にアルマが目を細めた。


《…まあいいでしょう。どのような道を選ぶにしてもそれは天川自身が決めることです》


それ以上は何も言うまいと言った感じで口を閉じたアルマだった。



(…俺の進むべき道ね。決まってはいるが…いるが…そこに進む覚悟が俺にあるかどうかだな



思いながら。自身の胸が熱くなるのを感じた天川だった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーー


学校。教室。

補講授業も終わり。

天川、三好、望月、海野のイツメンが勢ぞろい。


「久しぶりだね。教室でみんなが揃うの」


そう天川が話題の口火を切った直後。

教室の扉がバシンと勢いよく開き、教室内の生徒全員が注目し。

そして驚愕の表情に変わった。



「天川翔。準備が終わった。今すぐついてこい」



六文銭舞雪だった。

白衣を着ている。180はある高身長でアルマと同じくグラマラスな肉体。腰まで届く鮮やかな金色のロングヘアー。可愛らしさが残るアルマのとは違い、妖艶と言える美女。健康的な肌色だ。

そして時魔法の権威であり第一人者。


思わぬ出来事に天川含む生徒全員がフリーズしている。

固まっている天川を見て、六文銭は他には目もくれず天川に一直線で近づき乱暴に腕を引っ張る。


「どうした?ボケっとしてないでさっさと立て。特に必要なものはないから身一つでいい」


「ろ…六文銭…先生。いきなり来てなんなんですか」


文字通り急すぎる展開にひねり出すように声を出した天川。


「?。別にいきなりではないだろう?私からお前に連絡するまでは今まで通りに暮らしていればいいと。『今』がその時だ」


滅茶苦茶なことを言う六文銭に他生徒の一人が我慢しきれずに聞いてしまう。


「…あ、あのー天川くんになんの用なんですか?」


質問してきた生徒に目線だけを向けて、それで全てを察した六文銭が口を開く。


「何の用だって?そんなのは決まっている」


六文銭は続けた。



「天川翔は『時の試験』唯一の合格者だからな。故に連れていく。それだけのことさ」



六文銭の爆弾発言に、事情を知っていた三好、望月、海野以外全員がフリーズし。


その後。


教室内が爆発したかのように大騒ぎになった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「…勘弁してくださいよ。別にあんな連れ出し方しなくても普通に蓮沼先生なんだりつかって呼び出してくれればよかったじゃないですか」


学校の駐車場に向かう道中。

六文銭の後ろをついていく天川は大勢の生徒から注目を浴びていた。


「ふん。私の試験を合格しておいてそれをみなに黙っているとは実に小賢しい。…だがこれでわかっただろう?『平穏』が欲しければお前はもう私に必死で喰らいついていくしかない」


下手に注目されたくないと意味で天川は友人以外の生徒には黙っていた。上手くいけば事実を隠したままいけるのでさえあると思っていた。

それはその通りで事実えらい騒ぎになっている。これを鑑みれば先生方が秘匿にしてくれるかもしれないと考えていた。蓮沼先生も黙っていてくれたし六文銭も合格者は一人としか言ってなかったし、そういうふうに考えてくれいるかもしれない…と思っていた。

全くの期待外れだったが。


とはいえ。


「…ええ。自分の認識が甘かったですね。これから『ご指導ご鞭撻のほど』よろしくお願いします…六文銭先生」


結果的には黙っていたほうが注目されなくて危険が少ないかもしれない。

だがそれは違った。みんなに事実を言うことでその状況を正しく認識するべきだったのだ。

天川は思い至る。

時魔法の権威、先駆者でもある六文銭舞雪に認められること…周囲の状況を見てそれは凄いを超えて『異常』なことなのだと改めて痛感した。

そしてそれは同時に。

天川自身の身に危険を及ぼす。

特別視されるということは危険なのだ。一部では危険視されている六文銭が認めた天川翔…六文銭舞雪は敵も多い身で普段は潜伏していると言っていた。それをかんがみれば何かしがの思惑で天川が間接的な攻撃を受ける可能性もあるにはある。

天川の危険に対する意識が段違いに変わった。


「流石に理解が早いな。だがお前が思っている以上にお前を取り巻く状況は『危険』だから、早急にお前は自分の身を守る『手段』を得なければならない」


六文銭の言葉をきいて天川の脳裏に夢で見た砂浜と。


水無月霧雨。


あの少女がよぎった。


「ふふ。どうした?…既に『危険』に対しての心当たりがありそうだな」


天川の表情を見て察した六文銭は天川の反応を待たずに続けた。


「だが安心していい」


駐車場について六文銭が振り返った。



「お前に『時』を授けてやろう」






















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