3,「天川は…私と三好君、どっちが好きなんだい?」
《天川の母の言うこともわかります。というか以前も指摘しましたが、あの女子二人から結構な好意を寄せられているのは確かです。なぜ煮え切らない態度を続けるのですか?見た目も性格も悪くないですし…まさか天川…男色の気でもあるのです?》
天川の母、天川夏奈が台所に戻り一人になった天川にアルマがそう問いかける。
《…普通に女の方が好きだよ。しかしまあそう捉えられてもしゃあないか。でもさー、最近忙しかったじゃんか。時の試験なりなんだりでさ。単純に脳のキャパ足りんくてそういうことに時間割けなかったじゃんね》
アルマの失礼な物言いにも天川はどこ吹く風で飄々とそう両手を広げて答えた。
《…そうですか。あなたの事ですからなにか思惑があってそういった態度をしていると考えましたけど…言われてみればそれは確かにそうですね。…今はそう納得しておきます…今は》
明らかに納得していない表情のアルマだったが、こうなった天川は仮になにか事情があっても自分からでしか話さないと感じていたから。
(…好意ねえ。人の気も知らないでよく言ってくれるよ)
最後に誰にも聞こえないほどの小さな声でそう呟いて深くため息をついた天川だった。
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天川宅。リビング。豪華に装飾されていた。
テーブルには特上寿司桶が二つ並び、Lサイズのピザが二枚置かれていた。
≪翔ちゃん!!時の試験合格おめでとう!!パーティー!!!≫
という横断幕が張られていた。
(…いや、これは由利先輩と海野を労うパーティーなんだけど…まあいいか)
そう苦笑いする天川の傍らで三好が美味しそうに寿司を頬張っていた。
小柄で華奢な体つきなのによう食う女子、三好稲葉。
でもまあ、大食い系って痩せてる人のが多いから不思議じゃないかと思いながら天川はコーラを口に含む。
「ふーん。時と心の属性融合ねえ…六文銭ってのは随分意地が悪い奴だな。こんな問題出した方も大分あれだけどそれを解いた上に実現させた天川も大概だよな」
時の試験の概要をきいた望月がそう零す。
天川の対面のソファーに座り、ピザを齧っていた。
「それに関してはお…おっと、僕がなんかようわからんけど他人より魔力量が多かったからっぽいね。あ、あと勿論由利先輩と海野君のおかげもあるけども」
一人称俺と言いそうになったのを言いかけてすんでで止まる天川。今更ながらこのなんか一人称僕とか若干な草食っぽい男設定面倒になってきた。
…そこまで考えていざ振り返ってみると言葉遣いだけでそこまで草食っぽい行動はしてないなーとも思う天川だった。
いじめっ子撃退、新倶楽部設立、いじめられた子にやり返せと発破をかける…。
どう考えても行動は草食系ではない。
「そういえばっさー、天川せんせいって一応選別ではさー、無属性だったわけじゃない?それって時の試験を合格した今でも揺るがない事実じゃん?それについて六文銭先生はなんか言ってたの?」
そう海野が望月の隣で寿司をつまみながらそう問う。これは天川自身も抱いていた疑問だ。
「残念ながらそれについては…ていうか何にも全く言われていないからね。『色々準備があるから。私から連絡があるまでは今まで通りの生活をしていればいい』と言われただけ。六文銭先生はなんだか、必要なこと以外は喋らないってタイプらしくてさ。まあなんていうか…知りたければ自分で察しろ的な?」
それを聞きあーと海野は納得したような表情を見せる。
「大分めんどくさそうな先生だね…それについては僕の顧問の伊達先生もそうだけど…まあ面倒っていうか色んな意味で怖いって言うか…」
そう自分で言いながら青ざめていく海野。
心属性顧問の上杉先生は所謂お姉系で海野はその童顔故、狙われていた。
「それ言うならこっちも酷いんだよ!滅茶苦茶スパルタでさ!!聞いてよ天君」
「スパルタで言うなら俺の方も負けてないぜ?」
ここで三好と望月が同調し始めた。そして各自不満を漏らしていく。
属性顧問の先生方は良くも悪くも個性が強く例外なくスパルタらしい。そういった不満話は往々にして盛り上がるもので、それ自体は良かったが天川は思わず苦笑いしてしまう。
その様子を察した由利が口を開いた。
天川のサイドにある一人用のソファーに座っていた。
「私のことは気にしなくていいよ天川。別に強がりじゃなく無属性にコンプレックスは感じていないから、気を使われると逆に疲れる」
そういってアイスコーヒーを口にする由利。
ここで会話が止まった。
由利先輩は天川の倶楽部唯一の無属性だった。まあそれについては天川もそうだったが、時の試験に合格しているので例外だ。そんな中で楽しそうに属性持ち同士の会話をしていたら孤立してしまうのも仕方ない。
天川自身こうなることも予想は出来てはいたが…由利はそういうのは気にしない性格だろうと思っていたが実際そうなると…という感じだった。
少しの静寂が流れる。
普段は飄々としていた海野もまずったという顔をしていた。
しかしその静寂を破ったのはほかでもない由利先輩自身だった。
「…ふふふ。まあ気を遣うなっていわれても困るだろうね、じゃあ話題を変えようか?」
そう言いながら由利にしては珍しい嫌らしい笑みを浮かべる。
「天川は私と三好くん…どっちがタイプなんだい?」
「「「「!?」」」」」
由利の予想外過ぎる質問に一同が違った意味でフリーズする。
「ちょtyとyっと!!?なにいっとぇるんですか!?」
そうパニくる三好。
「ええ…あー、…えっと」
天川もどう答えていいかわからずどもる。
「なんだい?普段冷静沈着な君がこんな簡単な質問くらいすぐ答えられるだろ?…でもじゃあ後回しにして海野君、君は?」
由利はそうニヤニヤしながら顔を海野に向ける。すると海野も何か察したようでにやけ面に変わり答える。
「ん~、どっちかっていうと由利先輩かなー。三好ちゃんも捨てがたいけど、僕お姉さんタイプが好みだし~」
「そうかそうか。じゃあ望月君、君は?」
望月はため息をつきながら答える。
「…ノーコメントで」
望月の回答に頷いた由利は天川に顔を戻した。
「さあ…答えを聞こうか?」
「…僕は」
とここで天川の答えを待たず由利先輩はアッハッハッハ!と軽快に笑った。
「ごめんごめん、冗談だよ。なんか辛気臭い空気になったからさ。しかし君は本当に真面目だねえ。こんな質問深く考えなくていいのに」
そして由利は三好、海野、望月にも頭を下げた。
「でもこれで多少は和んだだろう?気を遣うとかそういう事はやめて素直にこのパーティーを楽しもう」
そう続けて由利先輩もピザを一切れ齧った。
その後は。
みんな吹っ切れたのか由利先輩含めて会話が絶えなかった。
各属性の事とか、天川の部活の今後とか。
名残惜しさが残るこのパーティーも終わりを告げる。
「じゃーねー天川せんせー!今日は楽しかったよー!」
「またあそぼーねー天君!」
「…またなー」
「また機会があったら誘ってくれ」
元気よくそう挨拶する海野と三好、それよりは若干トーンが下がる望月。そして由利先輩はいつも通りの調子で別れを告げた。
その少し後、三好だけ踵を返して天川の元に戻ってきた。
「…ねえ、天君」
三好は不安そうな表情で天川に話しかける。
「どうしたの?稲葉ちゃん、忘れ物?」
「…由利先輩の質問の事だけど」
「…ああ。僕は当然稲葉ちゃんだよ、あの時は由利先輩に気を使って思わずどもっただけさ」
天川の返答きいて一気にぱあと表情が明るくなった三好。
「勘違いしないでよね!?天君はあーしにメロメロなだけで、あーし自身はなんとも…まあ友人以上恋人未満ぐらいにしてあげていいかもだけど!」
そう頬を赤らめた三好がプイと顔をそむける。
「そっか。そりゃありがたい。じゃあまた今日みたいに遊んでくれよ」
「仕方ないからまた遊んであげる!またねー!!」
満面の笑みを浮かべて再度別れを告げた三好だった。
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三好と別れた後、天川は由利の携帯番号をタップした。
「…ああ由利先輩。天川ですけど、今一人ですか?」
≪今ちょうど別れたところだよ。何か用かい≫
「今日はいろんな意味でありがとうございます」
≪…本当にそう思っているなら具体的にどこがありがとうなのか伝えるべきだよ?≫
「いきなりすごい質問したりして、場を和ませてくれたじゃないですか。本来であれば僕がそういう事をしなくちゃいけない立場なのに」
≪そっか。ちなみに天川はあれが本当に冗談だと思っているのかい?≫
「ちがうんですか?」
≪じゃあそのお礼として改めて問うよ。私と三好君、どっちのことが『好き』なんだい?≫
「…」
≪あれ?恩を感じているのならお礼として答えてもらわないと≫
「…今度一日中将棋を付き合いますのでそれで勘弁してくれませんか」
≪アッハッハッハ!…まあ今回はそれで手を打とう。それじゃあまたね…天川≫
ここで由利との通話が切れた。




