23,天川翔の現在の答え。
「なるほど。時属性と心属性を重ねるというわけか。その理屈はわかる」
部室(教室)
由利と海野、天川がいた。由利先輩は天川の言う時の試験の答えを聞き、そう頷いたが表情は険しい。
「時属性変化で10秒計測し、そこに心属性変化を重ねることで10秒経過後、オート且つジャストタイムでストップウォッチを止めろと自分の右親指に命令させるってこと?考えたねー天川せんせい」
今度は海野が言葉通り感心感心と首を縦のふる。
「しかしだ…確かに理屈は正しいが、それができるかどうかは別次元だよ?そもそも一つ属性変化させるのも大変なのに二つ同時に…しかもレアである時と心の属性変化だ。さらにそれを融合させる…どう考えても難易度は中学レベルのそれじゃない。専門学校レベルだ」
険しい表情を続ける由利とは対照的に、でしょうねと軽い感じで返す天川。
天川が探した魔法関連の書物で属性融合に関する記載は一切なかった。だから大体想像できたのだ。
「でも考えてみてください。仮に不可能だとして。そんな不可能な課題をだしますかね?それに六文銭が自ら属性融合の授業をしたのもこれが答えなら納得がいく。…まあこれに関してはなんで試験対象じゃない由利先輩の学年でやったかはわからないですけど」
天川の反論にうーんと悩む由利先輩。
「まーまー、天川せんせいがそうしたいっていうなら僕は喜んで手伝うよー。僕にその話をしたのは心属性変化のコツとか聞きたいんでしょ?」
天川は話が早くて助かるよと返す。海野はレアである心属性持ちだ。無駄かもしれないがやれるだけできるだけ、可能性が上がることはしておきたい。
「…。心属性は七色だけど、特に自分が好きな色を強めにイメージしたほうがいいよ。それと七色ではなく全ての色が当てはまる。自分の好きな色を集めていくイメージだね」
意外にも次に声を発したのは無属性の由利先輩だった。
それを聞いた海野が目を丸くした。
「その通りだよっていうか…それ教科書にも載ってない上杉先生から直接聞いたコツだよそれ?なんで先輩が知ってるの?」
上杉先生とは心属性顧問である。
「自分で考えた。最初は言われた通り七色で考えてたけど、なかなかうまくいかなくてね。魔力に心を与える…仮に自分の心を与えると考えるのなら、自分の好きな色をかき集めたほうがいいと考えたのさ」
それもあってるよーと海野がはえーととなっている中、私は無属性だけど魔力コントロールには多少の自信があるのさと、言いながら天川に手を差し出した。
「?何ですか」
「握手しよう」
意図が分からないし美少女の手を握るということに若干の抵抗を覚えたものの、本人がしてというならと由利先輩の手を握る天川。
「動かしてみて」
「!?動かない」
全力でもいいんだよと言われて、かなり力を入れてもびくともしない。
「心属性に変化したのさ。握手したら決して動かないようにとね」
「凄いなー。僕だってそんなすぐに変化できないのに…ていうか由利先輩いたら僕いらなくない?」
海野がそう感嘆と不満を漏らすと、由利先輩がそうでもないさと天川の手を離しふうと大きく息を吐きながらどさりと椅子に座り込んだ。
「…この通り、すぐばてちゃうからね。心属性の海野君なら長時間付き合えるだろ?それに属性融合に関しては私が教える必要があるから心は君に任せるよ」
天川は由利先輩の様子を見て蓮沼先生を思い出した。そういえば小さい火の玉を出した程度でへばっていたっけ。
「おっけー。じゃあ、早速心属性変化やってみる?せんせい」
そうにこやかな笑顔を向ける海野に天川は無言で頷いた。
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一時間後。
「うーん。やっぱそんな簡単にはいかないか」
由利先輩に教えられた通りのイメージをしながら集中する天川だったが、彼女のような変化には至らなかった。
「ねえ。天川せんせー。なんか平気な顔してるけど、全然疲れてないの?」
愚痴る天川に不思議そうな顔を向ける海野。
「それ蓮沼先生にも言われたな。別にさぼってるつもりはない…これもおんなじ返事だなー。まあ、なんていうか、その通り、全然疲れてない」
「いや、君はちゃんと集中してたよ。私は授業で魔力を可視化できる術を得ているから、僅かながら心属性に変化出来ていたからね」
由利先輩は棋譜を並べながらそうフォローしてくれた。
「それも同じことをいわれましたね。どういうことなのか」
初めての魔法の授業でも天川以外のクラスメイト全員が短時間でへばっていた。多分海野も同様の感想を抱いているのだろう。
「単純に君の魔力内包量が他人より多いからかもね。だとすればそれはかなりの朗報だよ?魔法の練度を中々上げられない一番の理由が、魔力量が足りなくなって練習が出来なくなってしまうから」
なるほどと天川は頷く。体力トレーニングも勉強も、ある程度は無理がきくのにたいして魔法は魔力が枯渇すればそれ以上の練習は強制的に出来なくなるのか、と。
才能の無さは努力でカバーをする。
天川は上記のような言葉は結構好きではあったものの、魔法に関して凡人は努力すら許されないのか。
しかし。
確定はされていないが、単純な魔力量だけを言えば自分には才能があるのか?
「せんせー。難しい顔してないで疲れてないなら練習つづけようよ。『個人的』には天川せんせいに試験受かってほしいからさー。ほらほら」
個人的には。
なにやら含みがある海野の言い方に若干の違和感を覚えたが、今追及することでもないことと考えて言う通りに練習を再開する天川だった。
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更に2時間後。
外が薄っすらと暗くなりかけている。
「今日はこのくらいにしとくか。二人とも付き合ってくれてありがとう」
天川が由利先輩と海野にそう礼を言うと二人は呆れ顔を向ける。
「本当にタフだねーせんせいは。僕だってこんな長時間練習できないよー」
「そうだね。それにまだまだ余裕そうだし」
ぶっちゃけ天川自身余裕はあったものの、さすがにこれ以上二人を突き合わせるのは悪いと思っての切り上げだった。
「いや、流石に疲れたよ。それに腹も減ったしそろそろ帰ろうか」
「じゃあ片付けようかな。…しかし改めて六文銭というのは…なんかこう、意地悪な人格だね。君の考えが正しければだけど」
由利先輩が将棋盤と駒を片付けながらそういう。
確かにそれはその通りで、普通に考えれば中々この考えには行きつかない。たとえ行き着いたとて、それができるかどうかはまた別の話という。
「そういえばさー。しょうがないとはいえ天川せんせーはそれ僕らに言っちゃってよかったの?他の生徒にばらされたらまずくない?」
海野の疑問はもっともではあったものの、それならそれで仕方ないと天川は返す。
「本音は黙ってて欲しいけど、ばらされたところで二人を恨むことはないよ。そもそもこの答えにたどり着けたのは海野くんと由利先輩のおかげだし。そして僕の『答え』が出来るようになるには二人の協力が不可欠だとおもっているから」
心属性への魔力変化。そして属性融合。それを独学でやるのは無理がある。火属性の魔力変化でさえ中々厳しいのにだ。
それにだ。
恐らくは、僕と同じ答えに辿り着いている生徒が複数人いるかもしれない現状。
『俺』はまだ辿り着けていない可能性がある。
天川の返答に由利先輩と海野は顔を合わせた後、天川に笑顔を向けた。
「ここは素直に『二人を信じてるから』でいいのに…生きにくい奴だよ君は」
「でも天川せんせーらしくて僕は好きだなー。あ、勿論誰にも言わないし協力もするからね!」
「…ありがとう」
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天川宅。
自室で心属性変化の自主練を続ける天川に、アルマが問いかける。
《…天川の答えには私も納得しました。しかしそれであればなぜ自宅にいた時私の質問をはぐらかしたのです?その必然性がわかりません》
《由利先輩から属性融合の話を聞くまではまるで根拠のない話だったからな。あの段階ではそれ以外の可能性も模索していたわけだ》
《つまり答えないことで、もしかしたら私から斜めからの発想を聞けるかもしれないと?》
《わかってるじゃねえか。俺は確信しつつも、いつだっていろんな考えを求めている》
《…》
だが現在その確信は揺らいでいるがな、と天川は続ける。
《どういうことです?》
いつも通り椅子にお行儀よく座っているアルマが、ベッドに座っている天川に視線を向ける。
《蓮沼先生が言ってたろ?時の属性変化以外の質問は口止めされてるって。それっておかしくないか?他の教員も口止めされてるって話なわけだが、別に学校以外で魔法に詳しい奴なんか多分わんさかいるだろ。それこそ他の学校の教員とかさ》
天川の返答にアルマがあーと頷く。
《心属性と時属性の融合。それが答えだったとするのであれば、学校以外で魔法に詳しい者に問えば容易にたどり着けるわけですか。そこで六文銭の言葉と矛盾が生じるわけですね》
ああ、と右手に意識を集中しながら頷く天川。
《答えに辿り着きたいなら安易に助言を求めるなだったか?それなら俺の答えは間違っているのかもしれないと考えたが、…由利先輩のおかげでそれも解消した。六文銭自ら属性融合の特別授業をしたらしいじゃないか。どう考えても時の試験と関係がないわけがない》
《であれば。結局時と心の属性融合が正解と?それでは矛盾が解決しませんよ》
《いや、六文銭はこうも言っていた。既存の情報に惑わされず、道中を楽しめ…ともな。見てろ。今ストップウォッチを握っている大勢のやつら、あと数日したらほとんどが手放すぞ》
《?》
そう口元を歪める天川に分からないという表情を見せるアルマだった。
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あれから数日後。
学校。
ストップウォッチで計測している生徒で溢れかえっていたが、現在はほとんどいなくなっていた。
理由は二つ。
天川の予想通り、1分計測が出来た生徒に『じゃあ、今度は10分を誤差一秒以内でとめてみ?』と六文銭に言われたからと。
天川と同じ答えに辿り着いた生徒が属性融合の難易度に挫折し、諦めたからである。
どちらも普通に考えて無理だし、練習するにしても10分をただ待つのは苦痛なものである。
時魔法の権威である六文銭舞雪のただの道楽であると結論に至った、大半の生徒達はストップウォッチを返却していた。
そんな中。
天川は計測を止めなかった。
最初に言われた10秒を誤差1秒以内で止める。
それを繰り返していた。
最初とは違い、時属性色である『黒』をイメージしながら。
魔力を可視化できる錠剤を飲んでいないので、属性変化しているかはわからないがそれでも10秒計測は徐々に徐々に正確さを増していった。
それが単純に練習の成果が表れているのか、属性変化によるものなのかはわからない。
だがそれでいい。前には進んでいる。
天川の事情を知らないクラスメイト達に無駄だと揶揄される場面も多々あったが、気にせず計測を繰り返していた。
《なるほどです。安易に答えを知ってしまうと、その難易度に絶望し試験自体を諦めてしまうというわけですね》
天川以外、ほぼすべての生徒がストップウォッチを手放した姿をみてそう納得するアルマ。
喧騒の中、集中して計測を続ける天川。
天川の隣に佇むアルマは、通常コス?のフランス人形ようなデコレーションドレスという出で立ち。
《ああ。恐らくだが教師たちに口止めしたのは、助言をきいたら諦めることになるという最後通告だったんだろう。専門学校レベルの難易度を中学生にできるわけないからな。例え出来たとして膨大な時間がかかるということは容易に想像できる》
天川はストップウォッチを止める。デジタルは9.90秒を表示していた。
《だが実際は。この時と心の属性融合は話通りの難易度ではない。なにか『裏道』があるはずだ》




