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2,取り合えず、弱くてニューゲームでいこう。

《…掃除って、、、現状の把握とかこの世界の情報収集とかそういうのが優先事項じゃないのですか?肝心の能力だって後回しにして…》


呆れ声のアルマに天川は大体把握してるよと、構わず散らかったゴミを集める天川。


《この少年…ていうか俺は引きこもり少年なんじゃないか?この散らかった部屋とぼさぼさの髪でわかる。それにこの部屋…現代の日本の部屋っぽい。PCやゲーム機もあるし。ならドラゴンとかそういうのがいる世界観ではなさそうだから現状、能力を得て身を守るような危険性は低いと思った…違うか?》


《だとしても掃除を優先する理由にはならないでしょう?》


《この世界の情報収集とか、そういう時間がかかりそうなやつを先に始めるとただただ気が遠くなるだけだ。なら目の前にある小さな問題を先に片づけていった方が案外いい方向に向かっていくもんだぜ?…おっと》


ほら、こんな風にさ。と恐らくは神の視点で天川を覗いているであろうアルマに、見つけた一冊の本を開いて見せた(どこにいるかはわからんが)


《魔法学の教科書…小学部って書いてあるな。これが玩具でなければこの世界には魔法が存在しているってわけだな》


普通なら子供の玩具だと考えるわけだが…アルマが選んだ世界と考えれば…。


《異世界ですよ?魔法は必修科目でしょう?》


《…》


別に自分で情報収集とかしなくてもこの女に聞けばいいんじゃねと感じた天川だった。

天川は教科書を閉じ、再び掃除を再開する。


《…ちょっと!魔法の教科書ですよ?もっとこう…


読みたいとかそういう好奇心はないのですか?》


《…まあないと言えばウソになるけど、今は掃除のが大事だし》


アルマのぶつぶつと言った感じの不満声を無視して続ける。

あらかた掃除が片付いた後。



「翔ちゃん………ご飯ここに置いておくからね……」



部屋の扉から、ずいぶんくたびれた女性の声が聞こえてきた。

いや…引きこもりのテンプレ過ぎるだろと思いながらアルマに質問する。


《…アルマさんよ。俺の名前って天川翔そのままなのか?》


《そうですよ。この少年の名前は本来違いましたが、この方があなたがわかりやすいと感じて変更しておきました》


《…そりゃあ心遣い感謝するよ》


《お構いなく。私としてもその方が分かりやすいですし。それと呼び捨てでかまいません》


そうかいとアルマに返事をした後、天川は慌てて声のした扉を開けた。



「母さん!おはよう!僕も一緒に食事するよ!」



天川は勢いよく背中を向ける女性に挨拶した。すると女性は振り返り目を見開いた。

随分とやつれていた。年齢は35くらいだろうか…天川にとっては実の母ではないが実の母でもある(ややこしい)まあ美人よりだ。セミロングのややウェーブのかかった髪。普段着にエプロンをしていた。

女性は髪を結って顔が良く見えるようなった天川と、奥にきれいになった部屋が目に入り、大粒の涙があふれてきた。


「翔ちゃん!?やっとわかってくれたのね!?」


と天川に抱き着き号泣する。本来の少年の意識であれば母親相手に欲情などしないだろうが、天川にとっては普通の異性…だったが不思議と欲情しなかった。

号泣していたことと天川の意識ではなく、身体がそういうふうにプログラムされているのだろう。


「…これからはちゃんとするから(よう知らんけど)ほらご飯たべよ?」


うんうん!と天川の母が涙をぬぐい、すぐ用意するからと持ってきた食事の乗ったトレイを回収し一階に降りて行った。


《…こういうやり取り。幾度となく見てきましたが相変わらず反吐が出ますね》


お前がそういう状況にしたんだろーがと思う天川だったが、心情的には概ね同意だった。よくも悪くも浮き沈みのない人生を送ってきた天川だった(いや沈みはしばしばあったが)ので、こういう経験はない。 

自分の前の人格がどういう事情でこの状況になったかはわからない。

天川の想像もできないほどの嫌な目にあって引きこもりになったのかもしれない。

しかし結局最後は自分が動かないとなにも解決しないのだ。

掃除とか、小さなことでもいいから少しづつ前に進めばいい。

じっとしていても碌な考えしか浮かんでこないものだ。

まあ、わかっていてもできないとかなのだろうけど。


《ああそういや。俺の前の人格ってどうなったんだ?》


《あなたと同じように異世界に転生していきましたよ?あなたと違って能力だけではなく、転生する世界もこんな世界がいいと活力に溢れながら指示してきましたね。あなたも少し彼を見習ってはいかがですか?》


《…で。上手くやってんのかそいつは》


《………》


《黙るな!!》


どんな能力をさずかったかは知らないが、借り物の頂点みたいな感じで手に入った能力だ。だから後先考えずに行使して自滅する。あぶく銭と一緒だ。苦労や努力無くして得た力や金はすぐ水泡と化す。


《努力厨ですか?うざったいですねー》


この女。実は転生の神じゃなくて死神なんじゃないか。


とは言え。


《一時でも無双できたのならそれはそれで本望なのかもな》


天川以外の転生者がどういう末路をたどったまでは効いていないが、アルマの様子ではろくでもない末路に行きついたのだろう。ただ一時でも夢が見れたのなら。

転生前の俺みたいな人生よりよっぽどましか…とも思う天川だった。


《あなたの論だと自分で動かないと状況は打破できないと言っていましたが、あなたの前の人格は動かずとも結果異世界にいけましたね》


ようやくアルマを肯定するようなことを言った天川に、そうやや得意げな風に語るアルマだったが天川は


《…まあ、俺の浅はかな人生で培った浅はかな持論だからねえ。中途半端に頑張るより神頼みで引きこもって転生を待ったほうが正解なのもさもありなん…かな?》


とあっさりと引く。

実際、物語の中でしか知らない異世界転生を天川はしているし、アルマの言うことを信じるなら他にも転生している奴が沢山いるという事実。


《後ろ向きなのか前向きなのか本当にわからない人ですね…せっかく転生したのですからもっと考えずに素直に楽しんでみては?》

そう考えずに行動していった他の転生者の末路が…と言いかけたが天川は割とアルマに同意見だったので反論するのを留めた。…考えずにという意見以外は。


《後ろ向きに前向きってのが正解かね。…ああそれと、俺は結構この状況を楽しんでるよ?死ねないと分かった以上、切り替えていかないと。…まあ引きこもりスタートとか弱くてニューゲームもいいとこだけどな》


《なら能力を》


《そう慌てなさんな。本当に弱くてニューゲームかどうかはまだまだわからん。俺の意識はともかく、俺の今の身体は言わば別の肉体。なにかとんでもない才能を秘めたりしちゃったりして。能力をもらうのはもっとこの世界と…今の自分を知ってからだな》


《そもそも、弱くてニューゲームというのは前回より弱い状態でスタートという意味でしょう?あなたも認めている通り、前世のあなたと今のあなた。そこまで差があるとは思えませんが》


未だ能力を授かろうとしない天川にイラつき嫌味を言ったつもりのアルマだったが


《ああ、そういやそうだな…はは!》


と全く不快そうにせず、一本取られたと笑いながら一階に降りていく天川だった。


《…》





ーーーーーーーーーーーーーー




「ちょっと待っててね!?追加でハンバーグつくってるから!」



天川の母。天川夏奈なづなは言葉通りに肉をこねていた。

幸せそうに。この世の春が来たとでもばかりに。


「…」


元から作ってあった回鍋肉で十分だよと言いたかった天川だったが、母のあまりの狂喜乱舞ぷりになにも言えないでいた。

天川は思う。前世で某掲示板でニートスレとか無職板とかエンタメ感覚で楽しんで見ていたもんだが、本当にこういうことがあるんだなあと無駄にしみじみした。


《しっかし…こうしてると全く異世界って感じしないな…。この家もちょっと裕福目の中流家庭の家って感じだし》


辺りを見渡すと奇麗に整理された白を基調とした白目のダイニング。前世の天川の実家とは程遠く、ホームドラマのサラリーマン家庭に出てきそうな家だった。


《異世界と言っても様々です。指輪物語のようなファンタジー色の強い世界もあれば、戦国時代に転生のようなタイムワープ的なものもありますし。この世界はたまたまあなたの前世に近い異世界ということになりますね》


アルマが天川の思考に介入してくる。天川は怪訝に思う。この世界はどうもアルマの好みの異世界とは違うと思う。なんかこう…この女はもっと非現実な世界が好きそう…多分。


《あなたの前の人格は『そういう』世界に行きましたから。たまには『こういう』世界に転生させても面白そうじゃないですか》


…色々言いたいことはあるが言わないでおく。こいつの気まぐれはちょっとイラつくが天川にとってはありがたかった。天川はアウトドアとか、そういうのがにがてだ。いや遊びでやるなら好きだが、いざそれを生活でやれとなれば話は別だ。勝手な想像ではあるがファンタジー色の強い世界であれば野宿とかも多そうだし、そんなのはごめんだった。


ともあれ。


「いただきます」


新たに追加されたハンバーグを見ながら手を合わせてそういう天川。

すると対面に座っていた夏奈がまたも口に両手を当て涙ぐむ。


「…翔ちゃん…!?…ああごめんなさい。そんな風にいただきますって言ってくれたの本当…久しぶりで」


…。いい加減ちょっと面倒になってきた天川だった。取り合えず苦笑いをしながら返事はせず食事を口に運ぶ。お世辞抜きで美味しいと思った天川だったがそれは口にするとまた泣きそうなので悩む。


《…アルマ。『俺』の今後の予定についてある程度知ってるんだろ?出来れば教えてくれ。話題でも変えて、このひ…母さんか…。の涙腺をいい加減元に戻したい》


事前に名前を天川翔に変えたことを鑑みればそう考えるのが妥当だ…それは当たっていたようでアルマが答えた。


《…まあ、いいでしょう。私もこの流れを延々と見るのはきついと感じましたので。言ってしまうと、この世界は魔法という概念があるだけであなたの前世の世界とほぼ変わりません。曜日の概念も一緒で現在は金曜日です。土日の休日を挟んで月曜からあなたは中等部に入学の予定となっていますね》


それをきき、あんがとよと脳内で返事をした。


「ねえ、母さん。来週僕は学校へいくために明日、髪を切ったり必要なものを購入しにいきたいんだけど」


「!?翔ちゃ…」


またも感極まりそうになる母に天川はあーあーと落ち着くようにと手を振る。

「いままでがあれだったから何とも言えないけど、僕が悪かっただけだから。だからもう泣かないでよ。ほら母さんも食べないと冷めちゃうからさ」


うんうんそうだよね!と涙をぬぐい夏奈も笑顔で食事を始めた。


「じゃあ、明日一緒に買い物いこうか?この際だから筆記用具とか全部新調しちゃおうか?制服はあるから」


喜々として話す夏奈に天川は若干気まずそうに答える。


「あー、せっかくだけど一人で買い物したいんだけど…駄目かな?」


天川の返答に夏奈は不安そうな顔を見せる。

…まあそれは仕方ない。今まで引きこもっていたのに、いきなり部屋から出てきてしかも一人で買い物に行きたいという。不安になるのも当然だ。

親が親なら、学校の用具のためでなく、自分の玩具の購入のために一人で行きたいと疑われても仕方ない。


…だが。


「うんわかった!翔ちゃんがそうしたいなら、一人で行ってきなさい!じゃあさっそく」


夏奈は食事中にもかかわらず、財布をとりにいき、クレカを取り出し天川に差し出した。


「必要だと思ったら遠慮せず何でも買っていいわよ?美容院もどうせだからいいとこにいきなさいな」


…。なんか若干だがこの母親も一部悪い気がしてきた。

まあ、それはさておき。


「…母さん。出来れば現金がいいな。クレカだと使いすぎちゃうかもだし…予算があったほうが逆にちゃんと選別できると思うし…」


天川の言葉にまたも夏奈は感動で泣きそうになるのをこらえてうんと力強く頷いた。


「そ、そうだよね!お金は大事だからね!うん!じゃあお金は明日渡すから、食べよっか?」


驚きと感動が混じりあった夏奈は席に着き心ここにあらずと言った感じでおかずを口に運んでいた。

それを見て天川はようやく少し落ちついたな、と食事を再開した。


《…わかりませんね。せっかくクレカが使えてなんでも買い放題だったのに。そこまでお利巧さんを演じて何になるのです?》


アルマが言いたいのは多分クレカの件がなくても、天川に対する夏奈の印象は現在好感度MAX以上なのでそんなことしなくてもいいだろと。まあそんなかんじだろう。


《購入履歴って知ってるか?まあこの様子じゃあ、ある程度何買っても許されそうだけどな…ま、現金には現金のメリットがあるんさ》


《…》


そう不敵に笑む天川にまたも理解不能と言った感じで黙るアルマだった。






























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