17,属性選別
「さあー、今日はみんなお待ちかね…じゃない人もいるかもしれないけど!『属性選別』をするから体育館に移動するわよー」
学校。朝一から蓮沼先生の快活な声が通る。
それとは対照的にクラスの生徒たちには緊張が走る。それは天川も同様で、いよいよこの日がきたかと多大な不安とちょっとの期待で胸がいっぱいになっていた。
確か『時』属性顧問の着任が遅れていていたから『属性選別』が遅れていたんだっけ。ということは着任したということなのだろうか。
今日の蓮沼先生はスーツではなく、最初から青色のジャージ姿で黒色ロングヘアーを後ろで縛っていた。
その後ろ姿を見ながらクラスメイトたちと天川はついていく。
「いよいよだねー天くん。お互い属性持ちだったらいいね!」
そう満面の笑みを見せながら三好が天川に声をかける。
ツインテで無邪気それはとても可愛らしいが、不安とかはないのだろうか…むしろほとんどの生徒は才能のない『無』属性になるのに。
…ああ、逆にダメで元々という思考なのかもしれない。
そう考えたら、確かに、うん。と天川は頷いた。
海野と望月の表情を伺ってみると、海野は飄々としていて、望月は天川同様に緊張しているっぽい。
…三好のおかげである程度吹っ切れた天川だったが。
それと同時に、途轍もなく嫌な予感…悪寒がした。
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体育館。
天川たちが入場すると他のクラスの一年生はすでに整列していた。
総勢、200人はいるだろうか。
それでも全校生徒ではなく一年生だけだったので体育館のスペースはまだ余裕があった。
壇上には誰もいないが、特設されたテーブルに赤色の豪華なクロスに紫色の豪華な台座にボーリング台の水晶が置かれていた。
あれで『属性選別』をするのだろうか。
天川はそんな思考をしながらクラスメイトとともに参列に加わる。
「直に各属性顧問の先生がやってくるから静かに待っていなさい。ちなみに『無』属性だった場合、担当顧問はそのクラスの担任…つまりこのクラスだったら私になるからそのつもりで」
静かにと言われたが、体育館内はざわつきが止まらない。でもそれはある程度しょうがない事だと蓮沼先生もわかっていて何も言わずため息をつきながら体育館脇へ移動した。
他のクラスの担任も蓮沼先生と同様に、体育館脇で立っていた。よく見ると、教頭先生もいた。
教頭先生は周囲を見渡してから壇上隅下に設置された演説台に移動した。
「えー、皆さん静粛に。気持ちはわかりますが、どうか静粛に」
低い声がマイクで拡声される。
白髪交じり七三分けで50代だろうか。茶色いスーツに身にまとっている。恰幅がいい体つき。
体育館が一気に静まり返る。
生徒たちの注目が教頭に集まり、満足そうに頷く。
「ありがとう。ちなみに校長先生は出張で不在です。皆さんの『属性選別』を見れなくて残念がっていました…ああ、もったいぶっても仕方がないですね。それでは各属性顧問の先生を紹介しましょうか」
それではどうぞと教頭の声が体育館に響く。
その後、壇上裏側から続々と初見の先生が入場してきた。
天川の事前知識だと、属性は四大属性の『火』『水』『地』『風』とさらにレア属性の『心』『命』『時』の7つだったか?…ああ、『無』を含めれば8つか。
となると7人いるのかな?そんなことを考えていたら壇上には六人の先生が並んで立っていた。
最初に入場した先生がハンドマイクを持ち快活な声を響かせる。
「おはよう!『火』担当の加藤だ。俺は厳しいから『火』だったら覚悟しておけよ~ガハハハッ」
そう豪快に笑う加藤先生。
190はあるであろう大男で筋肉ダルマといっていいほどの肉体。赤色のジャージがパツパツになっている。短髪の茶色がかったつんつんヘアー。
天川は才能があったとしても『火』担当は嫌やなーと思った。なんだか暑苦しそうな先生だから。…いや『無』よりはいいか?
こんな感じで。
各属性顧問の挨拶が進んでいき、最後の『命』属性であろう先生の番になった。
『心』属性の先生からマイクを渡される。
病的な色白で目にクマが出来ている。ぼさぼさの黒髪に黒のワンピース。やせこけた矮躯。
ハンドマイクすら重そうに扱っている。
「私は…伊達といいます。正直いつもは参加しないのだけど…今回は『面白い子』がいると聞いてるから…期待しているわ…」
と、マイク越しなのに消え入りそうな声でいう伊達先生。なんかようやく『それらしい』先生が来たなと思う天川だった。
病弱だけど、レアである『命』属性の顧問。…うむ、それっぽい。
ここで教頭が引き継いだ。
「さて。早速ですが壇上の先生方には下へ降りてもらって…ああ、ありがとうございます。それでは端から順番に始めましょうか。なに、『選別』とは言っても水晶に手をかざすだけですので。それに水晶が反応すればどの属性かがわかります」
いや。その説明はいいけど肝心の『時』属性の先生がいない理由を言っていない件について。
天川の疑問は他の生徒も同様に抱いていたようで騒めく。
見かねた蓮沼先生が教頭に耳打ちしに行った。
「…?…ああ、すいませんでした。『時』属性の先生は…」
と教頭が言いかけたところで、一番遮らなそうな人物が教頭を遮った。
「すぐにわかるわ。いいからさっさと順番に並んで水晶に手をかざしなさい。時間が惜しいわ」
伊達先生だった。女性なのにどすの利いた声で生徒たちを一斉に黙らせた。
病弱に見えて結構な迫力がある。
そんなこんなありつつ。
『属性選別』が始まった。
とは言え。
言われた通り、水晶に手をかざすだけなのだが。
スムーズに進めるためなのか、水晶わきに蓮沼先生が立ち、属性を見極めていた。
「…光らないわね。『無』だから列に戻って」
蓮沼先生は無慈悲にそう告げる。
言われた生徒は肩を落としてとぼとぼと列に帰ってくる。何ともいたたまれない気持ちに天川はなったが、それは最初だけで、次々と『無』と告げられる生徒たちが増えて逆に安心というかほっとしてきていた。それは他の生徒も同様である。
つまり、傷のなめ合い。
「水晶が赤く光ったわ。おめでとう、あなたは『火』属性よ」
「…!?よっしゃー!!」
10人目にして。ようやく水晶が反応した。
その男子生徒は喜びで叫ぶ。館内も騒めいた。
そりゃあ、喜ぶか。なにせ最初からクライマックスみたいなもんだしな。
ここで『無』って言われれば魔法に関して凡人だし。
各属性って言われれば。
最大の難関である『才能』という壁を突破できたのだから。
「ガハハハッ!ようやく一人か。『前情報』のわりに『不作』じゃあないか?…まあいいや。こっちこい」
そう笑いながら『火』属性顧問の加藤先生がその生徒を手招く。
『前情報』とは何だろうと思いながら他の生徒の『選別』を眺める天川。
ぽつぽつと各属性持ちの生徒も出てきた。しかし一向に『心』『命』『時』属性持ちは現れなかった。
そして。
天川のクラスの番になる。
天川に緊張が走る。
でもそれは。
自分が『無』だったらとか『レア属性』持ちだったらとか、そういう懸念ではない。
もっと嫌なこと。
そしてそれを予期するかの如く、天川の番は最後だ。
そして。天川の最初の友人である望月の番が来た。
「…『火』ね。ほら、さっさといく」
緊張していた望月の顔が一気に緩み笑顔に変わる。静かにガッツポーズをしていた。蓮沼先生も自分の生徒だからなのか何も言わずサバサバしていたが、内心望月が属性持ちで嬉しいのだろう。キリリとした顔が少し緩んでいた。
そして何人かのあと。
天川の三番目の友達?の海野の番が来た。
「…!?『心』属性よ!やったわね!!……失礼。行きなさい」
蓮沼先生は驚きと歓喜が交わり、思わず海野の背中を叩いてしまった。その後反省したのかコホンと一息ついた蓮沼先生。一方の海野はいつもと変わらず飄々とした態度で『心』属性顧問の先生前に行った。
…レア属性なのに嬉しくないのだろうか。
ちなみに『心』属性だと水晶が虹色に発光する。
「あら~、可愛らしい坊やねえ~。これからよろしくね~…あ、可愛くてつい『自』が出ちゃった。。。テヘペロ♡」
「…!!?」
海野は驚愕する。
『心』属性顧問の上杉先生は、さっきまでは普通な感じで長めの七三分け且つイケメンで、ぴっちりした濃紺のスーツはさながらホストを想像させたが、どうやら『おねえ系』らしかった。海野の童顔と小柄な矮躯に思わず身体をくねらせてしまったのだろう。
(海野…グッバイ海野…フォーエバー海野)
天川が心の中でそんなアホなことを思っていると三好の番になった。流石に緊張したのか、水晶の前では顔が強張っていた。
「…『火』…?」
水晶が赤く光り、三好が歓喜ではしゃごうとすると蓮沼先生がそれを制止させる。
「三好!!そのまま手をかざしていて!」
「…はい?」
三好はきょとんとした表情で蓮沼先生の言われた通りにする。すると水晶の赤色が段々と濃くなっていき、さながら『血液』を彷彿させる赤黒いものに変わった。
「…今年はどうなっているのよ…本当に。三好、あなたは『命』よ」
「え!?マジ!やったー!!」
とはしゃぎながら『命』属性顧問である伊達先生の前に行った三好。
「…参加してみるものね…『今年』もいないと思っていたのだけど」
伊達先生が消え入りそうな声でにやりとそう笑った。
恐らくは『心』と『命』は想像以上にレアなのだろう。
そして天川の番が来た。
三好と海野と望月の目線が集中する。というか、最近この4人でつるんでいたのは周知の事実なので、特に天川のクラスメイトたちは天川に注目する。
この流れなら天川は『時』属性なんじゃね?と。
天川は恐る恐る水晶に手をかざす。
大きな不安と。
…ほんの少しの期待を持ちながら。
しかし現実は無慈悲である。
「…『無』ね。…これが『普通』だから、あんまり落ち込まないように」
4人のうち、唯一『無』属性だったから、蓮沼先生も気を使ってくれたのだろう。
だがはっきりって余計なお世話だ。帰って惨めになる。
天川はなるべく無表情を装い、いつもの三人の表情を見ないでいた。
しかし見ないようにしても目の端に捉えてしまうこともあるわけで。
気のせいかもしれないが。
望月が一瞬笑ったような気がした。
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「さて。これで全員終わったかな?」
教頭が演説台のマイクで話す。
「それでは早速『無』属性以外の生徒はそれぞれ担当の先生についていって説明を…」
とここで、またも伊達先生が口をはさんだ。
「私たちも『メインイベント』が見たいわ…いいでしょ?教頭」
さっきは時間が惜しいとか言ってなかったっけと思う天川だったが、もうしばらくはどうでもいい…というか早く家に帰ってふて寝したかった。
やっぱりそうだった。
俺の知り合った友達全員が属性持ち。この調子で行けば由利先輩もそうなのだろう。
やっぱり俺の運命はくそだった。
別に『無』属性だから嘆いているわけではない。むしろ、3人にとっては良かったと思う。
だが、あの3人がそうなら自分だって『属性』持ちにしてくれればいいじゃないか。
くそくそくそくそくそくそ。
《…天川》
アルマも例に漏れず天川の側にいたが、流石にかける言葉が見つからなかった。
俯いて死んだ魚みたいな目と表情をしていた天川だったが、それとは別に体育館内にどよめきが起こった。
「おいおい!!あの人って六文銭舞雪じゃね!?」
「だよねだよね!?テレビとかネットでしか見た時ないよあたしー!!」
「…!!?」
他生徒のそんな声が耳に入り、天川は思わず顔を上げる。
『六文銭舞雪』
モールで出会ったあの時の少女?
しかし。
壇上に一人立っていたのは大人の女性だった。
白衣を着ている。180はある高身長でアルマと同じくグラマラスな肉体。腰まで届く鮮やかな金色のロングヘアー。可愛らしさが残るアルマのとは違い、妖艶と言える美女。健康的な肌色だ。
しかしなんでだろう…あの少女に似ている。
なんかこう…あのまま成長したら壇上にいる女性になる感じ。
「ああー!!みなさん!静粛に静粛に!!」
教頭の大音量マイクで周囲が静まり、それでは六文銭先生どうぞと続けた。
「君たちの考えている通り、私は『時』魔法の第一人者である『六文銭舞雪』だ」
そういいながら六文銭は妖艶な笑みを見せ、ボーリング大はある選別の水晶を片手で軽々ポンポンと弄ぶ。女性らしい細腕なのに。その姿を見て教頭が大事な水晶が!?と慌てるが、蓮沼先生が大丈夫ですからと落ち着かせる。
「こんな何の変哲もない中学校の『属性選別』ごときで私が出張るなんてありえないのだが…」
『面白そうなやつ』を見つけてねと、天川の方向に視線を向ける六文銭。
六文銭は続ける。
「そもそも…だ。私から言わせればこんな『玉っころ』で何かわかるほど…『魔の法』は単純ではない」
六文銭はそう言って、水晶を握り割ってしまった。
卵を割るかの如く…簡単に。
教頭の発狂が体育館にこだまする。蓮沼先生は目をあーあと目を覆っていた。
六文銭は構わず続けた。
「そこでだ。私がお前たちを試してやろう。『時』に『ふさわしい』かどうかをな」




