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13/28

13、海野七海の表と裏。

海野七海と絡んでから数日して。


学校。


朝のチャイムが鳴り、天川のクラス、C組の生徒たちが一斉に席に着く。

天川も席に着くと、Cクラスの担任の蓮沼はすぬま先生が入室してきた。

紺色のスーツ。タイトなスカート。アルマとは対照的にスレンダーなボディ。ウェーブのかかった胸下まで届く黒色のロングヘアー。キリリとした表情の可愛いというよりかっこいい系美人。


「えー、みんなおはよう。早速だけど、今日はクラスの新しい仲間を紹介するわ」


蓮沼先生の第一声にクラスがざわつく。

天川も怪訝におもう。確かに入学時期だから転校生が来ても不思議ではないが…それなら入学式と一緒に来ればよかったはずだが。まあ、家庭の事情で遅れたとかかな?と適当に考えを巡らす天川。

ざわつくクラスに蓮沼先生が、はいはい静かに静かにーと手をポンポンと叩く。


「ちなみに転校生ではないわよー。入ってきていいわよ」


蓮沼先生が廊下に向かって手招きすると天川の見覚えのある男子が入室してきた。


「…!?」

《…!?》


天川は目を見開いた。というかクラス全員が驚いている。アルマも驚いていた。

全員が見覚えがある。


「元A組の海野七海うみのななうみです!よろしくお願いします!」


海野七海だった。多量の荷物を抱えている。

男。155くらいの小柄な矮躯。ブレザー。先日のおどおどとした態度が無くなってなり、長めの髪だが、奇麗に整われていた。明るくなった表情はまさに童顔のそれで、『そういうの』が好みのお姉さんはたまらないであろう顔つき。

転校ではなく編入だった。

みんな等しく疑問の表情を見せていたので、蓮沼先生が説明を始めた。


「あー、海野くんは本来C組に入る予定だったんだけど、学校の手違いでA組になっていたのよ。それが先日発覚してね。まあそういうわけだから、あまり気にせず仲良くしてあげてね。…丁度、天川の席の後ろが開いてるからそこに着席して」


はい!と快活な返事をした海野は意気揚々と天川の後ろの席に着き、多量の荷物を机に収納していく。

クラスのみんなはなーんだただの手違いかーと得心していたが、一部納得していない者たちもいた。

それは海野がいじめられていることを間接的に知っていた連中。

天川始め、望月、三好、その他何人か…。

いじめられていたのが原因で、クラス変更をお願いしたとか…?

だとしてもそんな簡単に変更できる事柄だとも思えない。それなら蓮沼先生の言う通り、単純に学校側の手違いだと思うのが自然か?

だとしてもタイミングが良すぎる…と感じた天川は、たまらず横顔を海野に向けひそひそ声で尋ねてしまう。


«…海野くん。…君なにをしたんだ?»


天川の優しい口調の問いに一瞬不思議そうな顔をした海野だが、すぐに得心した表情になり、白い歯を見せる笑顔になって、同じくひそひそ声で答えた。


«あー、このクラスだとそういう『キャラ設定』なんだね、『天川せんせい』。焦らなくてもあとでちゃんと説明するよー»


天川はそれをきいて…思わず天井を見上げてしまった。

そうか…海野七海は…『戦えるやつ』だったか…と複雑な心境になった。


《…どうやらあなたの言葉が『心に響いた』ようですね?天川》


最初に出会ったゴテゴテのデコレーションドレスに身を包んだアルマが、揶揄するようにそういった。



ーーーーーーーーーーーーー



昼食。

天川が転生前に経験していた中学とは違い、給食ではなく弁当持参システムだった。万が一忘れた場合や家庭の事情で用意できなかった場合は、購買部での購入や仕出し弁当の注文もできる。

正直このシステムは天川にとってありがたかった。

子供から大人まで食に関してあまり好き嫌いのない天川ではあったが、今更給食というのはしんどいものがある。そのうえ天川の今の母親である天川夏奈てんかわなづなは手作り弁当にこだわりというか、凝り性というか、ともかく手間暇かけて作っていたので見た目も味も、毎度毎度素晴らしかった。

転生前の自分の母親の作る素朴な弁当も好きだったが、まあそれぞれの良さがあるわけで。

食べる場所は基本自分らの教室ではあるが、そこらへんはわりかし自由で他クラスに食べに行く人や、全学年が共通で使用できる食堂を使用する人も多くいた。

天川は移動が面倒なので自分の教室で食事をしていたが、この日は海野がこのクラスに編入の理由を聞きたかったのでクラスや同学年に話が聞かれないように食堂へと移動していた。


食堂。

別の建屋となっているそれはとても広い。ちょっとした体育館並みのスペースだ。清潔で太陽の光がすがすがしく差し込むそれは、中学生が使うには贅沢だと思ったが、それはどうでもいいこと。

上級生等の見慣れない人込みで賑わう。

その隅の4人用テーブル席で、天川、三好、望月、そして海野がそれを囲う。

天川は最初デリケートな内容になるかもしれないので海野と二人で食事を摂ろうとしたが、三好や望月も同席したいといってきたので。

まあ、別に今聞かなくてもいくらでも機会はあると天川は思ったが、海野が『天川せんせいの友達なら別に一緒に聞いてもいいよ?ただいたずらに吹聴しないでね』と言ってくれたので、その言葉に甘えるとした。


「おおー!?天くんは相変わらず豪華な弁当ですなー!うえっ!?海野くんも負けてないって感じー」


そう三好が二人の広げた弁当みて驚く。

茶色がかったセミロングのツインテの女子。小悪魔的な可愛らしさの笑顔。肌は褐色気味。スマートというよりは華奢な体つき。ブレザー。

天川の弁当は二段弁当となっており、一段目はゆかりご飯で、二段目は、肉と野菜がバランスよく使用されていて且つ、彩も両立されている。

海野はそれに加え、水筒に味噌汁というおまけつきだ。


「…三好、あんまり人様の弁当をジロジロ見るもんじゃないぜ?それより、『こっち』に編入できた経緯を聞きたいもんだ」


そうため息をつきながら望月は自分の弁当を広げる。三好、望月の弁当は、所謂普通という感じの弁当内容だった。

無造作っぽい短めの黒髪、さわやかっぽい将来イケメンになるであろう顔立ち。ブレザー。


「別にそんな大したことはしてないよ?一応聞いておくけど、僕がいじめられていること知ってたんでしょ?二人とも」


海野は笑顔で弁当のおかずを口にしつつ二人にそう質問する。この場合の二人ともというのは勿論、三好と望月の事だ。天川はすでに海野と関わっていたから。

口調は穏やかだが、改めて問われると耳が痛い質問だった。それは言い換えれば、知っていながら見て見ぬふりをしていたんでしょ?ともとれる。

望月と三好は思わず黙ってしまった。


「あー、ごめんごめん。嫌味で聞いたわけじゃなくてさ。君たちがそれをもし知らなかったら、そこから説明しないとだから…でもその様子だと知っているみたいだね」


海野はそう言って、水筒の味噌汁を飲み一息ついて続ける。


「思い切って父さんに相談してみたら、大激怒してくれてさ。僕も知らなかったんだけど、ここの校長と友達だったらしくてそのつてを使ってクラスを無理矢理変えてさせたってわけ。…これ、ここだけの秘密にしてね?」


そう海野は口に人差し指を当て、内緒の仕草をする。

天川は得心する。なるほど、校長の力を使えば学校側の手違いとしてそういう『処理』ができるのも頷ける。加えて、まるっきりの不正というわけでもなくいじめから被害者を守るためそうしたという、大義名分がある。これなら万が一外に漏洩したとしても、情状酌量の余地ががあるというものだ。

とはいえ、それでも解せない事項はまだある。


「しかし、それにしても異常に早い対応だね。『あの時』から数日しかたっていないじゃんか?もうちょっと手続きやらなにやらかかると思うけど」


今度は天川が海野にそう質問する。社会人を経験している天川にとって『そういう事』を無理矢理捻じ曲げるというのは例外なく面倒なプロセスが生じるものだ。そしてそれは時がかかる。

海野がもっと前から行動していたと仮定するならばその限りではないが、『あの時』のあの様子ではそれは違うと考えたほうが自然。


「父さんが激怒したって言ったでしょ?最初は学校に直接乗り込んでやる!!って家で大騒ぎして大変だったんだよー。僕が『そんなことしなくていいから、僕を助けてくれた人のいるクラスに変えてほしい』って言ったらすぐに校長の携帯に直接電話してくれてさ。…内容は…流石に話せないかな」


海野は苦笑いしながらそう話す。

話せない内容となると海野とは違って、海野の親父さんは相当の武闘派なのだろうか。だとすれば海野は母親になのか…とわりかしどうでもいい思考も織り交ぜつつ、…まあ、なんやかんや、脅されたりなんだりして早急に動かざるを得なかったのだろう…取り合えず納得する。

そんな思考を続ける天川に海野が爽やかな笑顔を向けた。


「天川せんせいの言った通りだった。行動したら変わったよ!しかもこんなに簡単にさ!本当にありがとう!」


そのまっすぐな瞳と笑顔を向けられて、それを直視できない天川は頭をポリポリと搔きながら顔をそむける。

天川は敢えて突っ込まなかったが、天川にせんせいと敬称をつけるのもそれに付随してのことだろう。


「…別に、『簡単』…じゃないと思うけどなー」


そう返答する天川に望月は?な表情を見せたが、三好と海野はその意味を理解したようで


「そうかもねー」


と海野は笑い


「天くん普通にかっこいいことしてるんだから、照れなくてもいいのにーうりうり!」


と天川の横腹を肘でぐりぐりする三好だった。


ーーーーーーーーーー


放課後。

いつもは、天川、三好、望月のトリオで下校していたが、それに海野が加わることとなった。

なんていうか海野は普通に話しやすい奴で、三好と望月とも普通に気が合った。


そして。

三人と別れた天川が、スマホを取り出し、海野の番号をタップした。


<どうしたの?天川せんせい>


<時間があるならこれから二人で話したいんだが…どうだ?>


<…いいよ。お腹空いたからマク〇ナルドで落ち合う?>


分かったと通話を切る天川。



ーーーーーーーーーーー


某マク〇ナルド。


「それで?話したい事ってなにかな?しかも二人きりでさ」


天川と海野が差し向かい。


「本当は二人きりでお前の話を聞く予定だったからな。あの場ではお互い、話しづらいことがあっただろ?」


そう天川が雑にハンバーガーを齧る。本来の気性を隠さずに。

海野も本来の天川の口調が聞けて、学校では見せなかったいやらしい笑みをする。


「話しずらいことってなにさ?僕的には何もなかったと思うけど?」


とお道化るような仕草をみせる海野。


「じゃあ具体的に。お前のクラス替えはまあ、わかる。俺のクラスに来れば俺が側にいる以上、奴らも飛んで行ってまでお前をいじめようとはしないだろう。多分気付いているだろうけど、あいつらは俺に下手に手出しできない『理由』があるからな。しかしおまえの親父さんが本当に激怒していたのであれば、放っておけない案件がまだ残っているだろう?それはどうなったんだ?」


海野は天川の問いに首を傾げる…わざとらしく。


「うーん…それってもしかして『北沢くん』らのこと?」


天川は頷く。

話を聞く限り海野の親父さん過激派で、その上校長に多大な影響力のある人であれば。いじめの加害者である北沢らに何の制裁もしないのままなのはおかしい。

そのことが気になっていた。


「それって、別に今日の昼ごはんの時聞いてもよかったんじゃない?…まあいいけど、天川せんせいの考えた通りで、父さんは北沢くんらにも噛みつこうとしてたけど、特になにもしなくていいって僕がそうお願いしたから、渋々だけど父さんにはそれで納得してもらったよ」


「そこまでは予想できる。お前が親父さんを止めた理由が聞きたいんだよ」


天川の問いに海野はにたあと口元が歪む。


「そりゃあ、罪を憎んで人を憎まずっていうしね。もし父さんのやりたいようにさせたら、北沢くんらが気の毒な状況になるかも知れなかったから…ちなみに僕の父さん、すげーこえーからね?」


冗談ぽくそう返答する海野に、天川は無表情のままだ。


「本当にそれだけか?」


天川の重ねての問いに、ため息をつく海野。


「そんなに疑うなら、本当は僕がどう考えているのかある程度、予想出来ているんでしょ?試しにそれをいってみてよ」


「お前が北沢らを敢えてそのまま放置したのは、そうすることでいじめられているお前を、ただただ見て見ぬふりをし続けていたクラス連中への復讐になるからだと思っていた」


海野は天川の考えを聞いて、僕を助けてくれた割には…天川せんせいは随分捻くれているねえ、と笑った。


「だからわざわざ二人きりで話したかったんだね。そんなことを昼休みのあの場で言ったら、三好ちゃんと望月君にドン引きされそうだもんねえ」


「ああ。できる範囲で『そういう』部分は隠しているからな。…いずれにせよ今頃、A組連中の何人かは震えているんじゃないか?海野の次のターゲットはもしかしたら自分になるんじゃないか…ってな。話は以上だ。それじゃあ、また明日な」


天川はそう言って、ハンバーガーとジュースを一気に平らげ、席を立った。笑っている海野の様子を見て、天川の考えを肯定していると思ったからだ。


「天川せんせいさー」


自分のトレーを持ち、去ろうとする天川の背を見ながら海野が呼び止める。天川は背を向けたまま止まる。


「それが仮に本当の理由だとしたら。僕の事嫌いになる?」


天川は『あの時』のように背を向けず横顔だけを海野に見せた。

笑顔だった。


「いいや。気が合うなと思うね」


「…」


店内に残された海野は、ひとり呟いた。


「だと思ったよ」









































































































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