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改変日本異世界奮闘記  作者: 大陽
第一章 異世界召喚
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恐ろしき政治家

西暦2025年(令和7年) 4月22日 09:37 インセント大陸 ウルフハンズ王国東部 某村


 開戦から一週間。


 “新兵器”を用いて国境線に配置されていたウルフハンズ王国を撃破したカーク皇国軍は勢いそのままにウルフハンズ王国東部へと雪崩れ込んだ。


 そして、その進撃の途上で占領された街や村には逃げ遅れた住民がまだ多数残っており、進駐したカーク皇国軍はそれらの住民の“選定と人狩り”を開始していた。



「ふん。こいつは役に立ちそうに無いな。殺せ」



「いや!止めて!お爺ちゃんを殺さないで!!」



 日本で言うところの西洋式の鎧を着た男――ドレイクの冷酷な言葉に、獣人の少女は必死にそう懇願するが、命じられた人族の兵士は無慈悲にも少女の祖父らしき獣人の男性に刃を振り下ろす。


 既に孫娘を助けようと動き、瀕死の状態へと追いやられていた老人はそれによって完全に絶命して、この世を去った。



「いやあああああぁ!!!」



 祖父を目の前で殺された少女は錯乱した様子で暴れ回るが、いかに身体能力に優れた獣人といえど両腕を後ろ手に縛られている上に複数人の男にその身を取り抑えられている状態ではどうにもならない。



「うるさい奴だ。おい、黙らせろ」



「はっ」



 錯乱した少女の悲鳴を煩わしいと思ったドレイクが少女を取り抑えている兵士の一人にそう命じると、その兵士は少女の首筋に手刀をたたき込んで沈黙させる。



「まったく。たかだかジジイ一人を殺した程度でギャーギャーと」



 気絶した少女にドレイクは侮蔑の籠った目を向けてそう言うと、部下に対して他に確保した獣人同様、少女を本国の“亜人繁殖施設”へ連行するように命じる。


 亜人繁殖施設。


 それは名前からしてだいたいの想像はつくだろうが、亜人の男女を交配させて子供を産ませ、その子供が男ならばそのまま労働奴隷か種馬に、女ならば新たな奴隷を産み出す孕み袋とするという日本人が聞いたら腰を抜かすほど堂々とした非人道的施設だ。


 ちなみに同様の施設はエストニア帝国にもあるが、こちらはカーク皇国とは若干違い、産まれた男は労働奴隷、女は施設での孕み袋か有力者達の性奴隷というカーク皇国よりも過酷なものとなっている。


 ・・・もっとも、エストニア帝国の場合、対象は亜人だけには留まらないのだが。



「ドレイク様。この村はさっきの奴で最後みたいです」



「そうか。本当に取りこぼしはないな?一人でも逃がすと後が面倒なことになるかもしれないぞ?」



「問題ありません。ちゃんと隅々まで調べました。・・・もっとも、既に逃げた奴か、偶然村を離れてた奴が居るならそれまでですが」



「・・・そうだな。まあ、どのみち村がこんなになっている以上、我々が去った後にここで生活することなど不可能だろうし。捨て置いても問題は無いか。では、私の部隊は次の村へ行く。お前は自身の部下と共に奴隷達の本国まで護送しろ。分かっていると思うが、“味見”などはするなよ。獣とまぐわったとなれば、私はお前を処罰しなければならなくなるからな」



「はっ。承知しました!」



 こうして、村に置かれた多数の死体を放置したまま、彼らは確保した奴隷達を馬車へと積めて村を去っていく。


 ――近くの山での狩りから帰ってきた一人の獣人の少年が悲惨な姿となった故郷の光景を目撃するのは、その二時間後の事だった。



















◇同年 5月2日 04:12 日本 東京 首相官邸



「やあ。こんな朝っぱらに呼び出して悪かったね」



 芹沢はまだ日が明けるかどうかという時間帯に呼び出してしまった防衛庁長官――木下小三郎に対して軽くそう謝罪するが、当の木下は淡々とした口調でこう返す。



「いえ、非常事態とのことでしたので問題ありません。それで用件は?」



「うむ。実はカイナ王国から遂に軍事支援を受諾するという返事が来てな。当然、派遣するのは自衛隊になりそうだから、今のうちに君の意見を聞いておこうかと思ったんだ」



 そう、実は日本はエストニア帝国とカイナ王国が開戦した当初、カイナ王国が消滅する、あるいは穀倉地帯が反日国家(と日本人に見なされている)であるエストニア帝国によって占領されてしまう事によって食料が輸入できなくなってしまう懸念から、すぐさま軍事支援を打診していた。


 もっとも、カイナ王国側にも面子があるためか、直ぐに断りの返事が来たのだが、国境での戦局が不利となった段階でもう一度こちらから打診したところ、こうして受諾の返事が返ってきていたのだ。


 そして、この世界の自衛隊は緊急展開部隊というかつて芹沢が会った正彦の前世(史実)の自衛隊とは真逆の性質を持つ軍事組織であり、立ち位置的にはアメリカの海兵隊に近く、その組織の性質故に流石に組織規模こそ大幅に劣るものの、海外展開や実戦経験及び練度は軍よりも優れており、今回行われるであろう転移後初の海外派遣においても真っ先に現地に展開させるのは彼らとなる予定とだった。



「率直に聞こう。第二ヘリコプター団は今から準備させたとして何時派遣できるかね?」



「・・・そんなに状況が悪いのですか?」



 第二ヘリコプター団は陸上自衛隊に所属する各師団・旅団から独立した2つのヘリコプター部隊の内の1つで、戦闘ヘリなどを中心とした攻撃背の高い第一ヘリコプター団とは違い、汎用ヘリを中心に構成されており、即応性の高い部隊だ。


 確かにこの部隊ならば現存する陸上自衛隊のどの部隊よりも戦場にいち早く兵力を展開することは可能だが、なにぶんヘリと専属の普通科隊員のみで構成されているので、使える火力は非常に限定されている。


 その為、よっぽど時間が無い時を除けば第二ヘリコプター団を派遣するのは不適切であるため、木下は現地の情勢が逼迫しているものだと解釈していたのだ。



「ああ。なにしろ、国境部に展開していたカイナ王国軍3万人がエストニア帝国軍5万人に包囲されているとのことだからな。まあ、開戦前から建築されていた砦に立て籠もって居るらしいから、そう簡単には落ちないとのことだったが、制空権を奪取されている上に兵糧もあまり揃えられないまま開戦してしまったせいで、包囲から二週間が経った今ではそろそろ限界だとのことだ」



「なるほど、そういうことでしたか」



 芹沢の言葉を聞いた木下はそう言いつつも、インセント大陸の情勢に関する自身に全く入ってきて居ない事実に気付いて、内心で大きく舌打ちする。


 ・・・非常に情けない話であったが、実のところ、芹沢からこうして聞くまで木下はインセント大陸の情勢を全く把握できていなかった。


 これは木下が無能だったからというわけではなく、前述したように木下の下に全く情報が届いていなかったからだ。


 一応、自衛隊には情報本部という諜報機関が有るのだが、この組織はどちらかと言えば防諜重視な組織であり、対外的な諜報網は他の諜報機関に比べて非常に薄いものとなっていた。


 まあ、そのお蔭で転移の際の混乱も最小限で済んでいたのだが、その後の情報本部の対外情報網は日本と同等レベルのマカラニアに集中しており、インセント大陸については全くと言っても良いほど手が付けられていなかったのだ。


 もっとも、情報局(JCIA)に問い合わせれば情報を貰うことは出来たのだろうが、転移時に海外派遣されていた部隊の再編成・再配置などの作業に追われていたことや転移からこれまでの間において情報が入ってこずとも組織の運営に支障が無かったせいでその問題に気付くのが遅れていた。



(本庁に戻ったら至急、インセント大陸の情報収集を行うように手配しなければな)



 内心でそう決意しつつ、木下は総理に対してこのような指摘を行う。



「お話は分かりましたが、救援するだけならば第一ヘリコプター団。なんなら空自でも構わなかったのでは?特に空自ならば今日のうちにでも作戦行動が可能ですが」



「勿論、制空権確保のために空自も参加させる予定だ。しかし、それでも第二ヘリコプター団を出すのは政治的な問題だよ。第一ヘリコプター団は陸上兵力が無いから攻撃後の後始末はカイナ王国軍に全面的に任せることになる。――それではカイナ王国に恩を売ったと言うには少々厳しいものがあるからねぇ」



 ゾクリ。


 芹沢の発言を聞いた木下は背筋が凍るような感覚を覚えた。


 彼の発言は軍事行動によって日本が出来るだけ利益を得られるようにと考えた上での発言であり、その発言の内容そのものは政治家としては特に不自然なものでは無い。


 軍隊というものは動かすだけでも金が掛かるものであり、直接的にしろ間接的にしろ、何らかの見返り(国益)が無ければ誰も動かそうとは思わないものなのだから。


 ましてや、軍――またはそれに準ずる組織――が投入される時というのは、大体の場合、命を賭けなくてはならないような危険な状況であり、そんな組織を他国のために使うとなればそれによって生じる“恩”を高く売りつけなくてはやっていられないだろう。


 ――しかし、芹沢の言葉からは恩を“売る”だけに留まらず、その恩によってとことん相手を搾り取ってやろうという気概が感じられ、官僚という立場の木下にとってそれ(政治家・芹沢廉太郎)はとても恐ろしいものに見えた。


故に――



「承知しました。直ちに第二ヘリコプター団に出撃体制を取らせます」



 ――素直に命令に服従する以外の選択肢を木下は見出すことが出来なかった。

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