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改変日本異世界奮闘記  作者: 大陽
第一章 異世界召喚
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日本内外の窮状

西暦2025年(令和7年) 4月15日 17:16 日本 東京 某スーパー



「随分とガラガラになっちゃたなぁ」



 電池を買いにスーパーにやって来ていた雄樹は、シャッターが閉じられている食品販売店の姿を見てため息をつきながらそう言った。


 転移から4ヶ月。


 日本国内は既に配給制へと移行し、日本各地の食品販売店は売る商品自体が無くなったことでその殆どが閉鎖されることとなっていた。



「食べるものと量は指定されちゃっているから食を楽しむ余裕なんかないし。はぁ、これが学校で習った“物が満足に食べられない時代”って奴か。・・・経験したくは無かったな」



 つい最近まで雄樹にとって配給制というのは教科書の中の話にすぎなかった。


 なにしろ、転移前の日本で最後に配給制が施行されたのは、半世紀近く前の第二次日中戦争の頃だったのだから。


 だが、こうして実体験してみて、雄樹は食の大切さを改めて思い知るのと同時に、早く元の食生活が戻ってくることを切に願うようになっていた。



「最近じゃ学校の雰囲気もどんよりとしてるし、一部の奴らはなんか殺気立っているしで、行くのが憂鬱だよ」



 そう、転移前と変わっていたのは、何も食生活だけではない。


 配給制が始まって数週間後に迎えた中学二年生の三学期頃から、学校の雰囲気もガラリと変わってしまっていた。


 まあ、転移という事前に全く予想すら出来なかった事態によって、あまりにも突然物不足の時代を体験することになってしまったのだから当然と言えば当然であったのだが、周囲の雰囲気が暗いと、自身も憂鬱な気分になってしまうために、雄樹としてはせめて来年に自分が高校に入学する頃にはこの空気が払拭されていて欲しいと願わざるを得なかった。


 ・・・それが困難であるということは理解しつつも。



「まあ、コロナの時みたいに学校の行事が自粛されているわけでは無いから、そういうイベントがあるのは良かったんだけど・・・ん?」



 そこまで言いかけたところで、雄樹は50メートル程先で野次馬らしき多数の人間が群がっていることに気づいた。



(なんだ?なんか大騒ぎしてるみたいだけど)



 しかも、『離せ!』『大人しくしろ!』といった大人の男性の怒号が響き渡っていることから、どう見ても良い方向での大騒ぎで無いことは明らかだ。


 普段ならあまり関わり合いになりたくはないと思っただろうが、用事が既に済んでいたことや現場が丁度自宅までの進路上であったこともあり、若干の興味が湧いてしまった雄樹は様子を見ようと野次馬達が居る方へと駆け寄っていく。


 すると、近づくにつれ、複数の警官が一人の男を連行しようとしている姿が見えた。



「あの、何があったんですか?」



「ん?ああ、なんでも自分の配給切符を無くしちゃったから、仕方なく他の人の切符を盗もうとして捕まったんだって」



「それは・・・」



 野次馬の一人からそれを聞いた雄樹は微妙な顔をした。


 このご時世、配給切符を無くすという行為は致命的なやらかしだ。


 なにしろ、その配給切符には1日分の食料と交換できる価値があり、それを無くすと言うことは1日分の食料が無くなってしまうということでもあるのだから。


 勿論、盗みは犯罪であるし、そもそも配給切符を無くした男が悪いのだが、ただでさえ満足に食べられないこの状況下でそう切って捨ててしまうのはあまりにも不憫だと雄樹は思った。



「でも、警察署に連れて行かれるのはそう悪いことでも無いと思うよ?」



「え?どうしてですか?」



「ほら、警察のお世話になれば、取り敢えずご飯が食べられるでしょ?ほら、よくテレビで取り調べのシーンに出てくるカツ丼とか」



「ええ。でも、あれは有料なんじゃ・・・」



「今のご時世、金で食料が買えるんなら多少割高であろうと払うさ。なにしろ、スーパーなんかに行っても食材は手に入らないんだからね。それと、あの人は違うみたいだったけど、最近じゃそれが目的でわざと警察に捕まる例があるとかないとか。まあ、所詮は噂だけどね」



「・・・洒落になりませんね」



 雄樹は引きつった顔でそう言った。


 平時だったら嘘くさい話だっただろうが、残念ながらこの非常時ではその話は現実味を帯びてしまうのだ。



(嫌な世の中になったもんだ)



 雄樹はそう思いながら、改めて元の日常が早く戻ってくることを願った。





















◇同日 18:32 インセント大陸 カイナ王国東部 カイナ・エストニア国境


 日本が食糧不足に若干苦しみながらも平和を維持していた頃、カイナ王国では戦乱の機運が急速に高まっていた。



「おい。また敵の戦力が増えてる気がしないか?」



「そりゃ、戦争の準備しているみたいなんだから当然だろ。ウルフハンズの方じゃ既にカーク皇国が攻め込んでいるみたいだしな」



 80年程前にフェアリー王国出身のエルフが魔信具を発明して以来、インセント大陸における情報伝達速度は格段に上がっている。


 もっとも、その高価さと巨大さ故に民間には殆ど普及していなかったし、兵士が持ち運べるほど便利な物でも無かったのだが、それでも政府関連施設や軍事施設、更には大きな街などには必ず一つは存在していて、1000キロも離れた距離にあるたった半日前の情報を――上官経由ではあったが――貴族どころか騎士でも無い一兵士の耳へと入れることが出来ていた。



「ってことは、やっぱり近いうちに戦が始まるのか。それも相当やばいやつが」



「十中八九、いや、ほぼ間違いなくそうだろうな。むしろ、ここで攻めてこなかったら逆に不自然だ」



 カイナ王国とエストニア帝国の仲の悪さ、そして、何故対立しているのかはカイナ王国の人間ならば子供ですら知っている話であり、いつ戦争が起きても可笑しくないということは前々から言われていたことだった。


 そう考えれば、今更エストニア帝国が本当に攻めてくるのかを疑問に思うのも可笑しな話なのだが、逆に言えば対立の経緯が子供にも知られているほどにエストニアからの圧力に慣れきってしまっていてカイナ王国軍の国防意識は――ほんの少しではあったが――緩くなっており、それ故にエストニア帝国が攻め込もうとしていることに戸惑う人間はそれなりに居たのだ。



「心配すんな。向こうが兵力を積み上げてるように、こっちも兵力を増やしてる。現に知らねえ顔の奴もこの砦に増えてきてるしな」



「ああ、そりゃ知ってるが・・・ほんとに大丈夫なのか?なんか素人くさい動きの奴が多いような気がするが」



 この砦はエストニア帝国との国境沿いに位置しているために侵攻された際には真っ先に攻撃を受ける。


 それ故にすぐに壊滅したりはしないようにこの拠点に配置される兵士は訓練を受けた常備兵で固められているのだが、そんな彼らからすれば増援にやって来た兵士達はあまりにも弱そうに見えた。



「たぶん、農忙期が終わったところを徴兵された連中なんじゃねえか?あいつら、俺たちと違って訓練なんかしてねえ筈だからな」



 基本的にこの大陸では徴兵された人間は訓練を施されないまま、武器だけ持たされて戦場に立たされるのが普通で、(この世界線の)日本を含めた地球各国の徴兵制のように何年か簡単な軍事訓練だけ施して解放し、戦時になれば招集するということはまずしない。


 まあ、日本でも戦国時代の頃まではそんな感じだったので、この大陸の文明レベルを考えればそう不自然なものでも無かったのだが。



「おいおい。冗談になってねぇぞ。素人の兵士なんてちょっと怯んじまえば総崩れじゃねえか」



「そうだな。でも、戦争の気運がこのまま高まれば簡単な訓練くらいは施されるはずだし、あともう少しで完全に日が暮れるから今日攻めてくるなんて事は――」



 ない。


 そう言おうとした兵士だったが、その言葉はここから少し離れた場所から響き渡った轟音によってかき消された。



「おい!あれって・・・」



「ああ、ワイバーンの攻撃だ。くそっ!いつの間に!!」



 どうやら薄暮ということで油断していた時間帯を狙ってきたのか、エストニア帝国の所属とみられる複数のワイバーンがいつの間にか接近して魔力火炎弾による攻撃を仕掛けてきたらしい。


 しかも、今しがた攻撃されたのはこちら側のワイバーンの竜舎付近であり、そこでは多数のワイバーンが翼を休めていた筈だった。


 そこが攻撃されたということは、カイナ王国軍はこの周辺の制空権を失ったに等しい。



「不味いぞ。このままじゃ明日にでも敵が攻めてくる。急いでノウラ様に状況を知らせないと!」



「・・・いや、どうやら“明日”ではないようだぞ」



「はぁ!?そりゃどういう――」



 そこまで言いかけたところで、その兵士は絶句した。


 何故なら、同僚の兵士が指差した東の方角。


 そこには今正に此方へ向かって進軍してきているエストニア帝国軍の姿があったのだから。

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