表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
改変日本異世界奮闘記  作者: 大陽
第一章 異世界召喚
5/14

カイナ王国

西暦2025年(令和7年) 3月19日 11:28 インセルナ大陸 カイナ王国 とある街道



「これは凄まじいな」



 日本語で“安全第一”という文字が刻まれたヘルメットを被り、日本企業による道路工事の視察を行っていたカイナ王国宰相――トール・セル・ウェットホン公爵は、驚愕した様子で舗装された道路を見ていた。



「この工事は何時終わるのかね?」



「道路を引く作業だけなら、今月中には終わります。あとは様々な交通インフラを整えたりする作業が有りますが・・・まあ、どんなに遅くとも5月までには終わるでしょう」



「素晴らしい。たった数ヶ月でここまでのことをやってのけるとは」



 トールはそう言うと共に、改めて日本と国交を結んだのは正解だったと感じた。


 そもそもカイナ王国が日本と国交を結ぶことになった切っ掛けは、去年の末に突然西から巨大な機械竜のような存在がこの国の領空を侵犯してきたことから始まる。


 領空を侵犯してきた機械竜に対し、王国の飛竜部隊も迎撃のために出撃したが、たちまちのうちに振り切られてしまい、機械竜はそのまま元来た方角へと離脱していった。


 白昼堂々行われたこの侵入行為に王国上層部は騒然となったが、その騒ぎは翌日に大日本帝国を名乗る国家の使節団の乗る船がカイナ王国の港町・クリュスに現れたことで更に大きくなる。


 そして、日本使節団からの領空侵犯の謝罪と国交締結の打診に対し、王国上層部の一部には領空侵犯という無礼な行いをした日本との国交締結に反対する者も居たが、機械竜とやって来た鉄製の船から日本の国力の強大さを垣間見たトールはそれらの反対を押し切って日本と国交を結ぶことを決断した。


 更に交渉の過程で日本が求めているのが食料及び王国南部に存在する燃える水、更には通常の(・・・)鉄鉱石や石炭である事が判明し、それらを輸出する見返りとして日本側は政府開発援助(ODA)の打診してきたのだが、その打診の内容に普段冷静なトールも流石に驚いた記憶がある。


 当然だろう。


 彼らの価値観では幾ら国交を結んだ国同士であるとはいえ、相手の国の道路をわざわざ自国の国家予算を使って整備してやるという考えはこれまで存在すらしなかったのだから。


 一応、そのようなことを行う意図については日本側も説明したのだが、それを加味してもやはり日本側の考え方は先進的すぎた。


 それ故にこの打診には反対する貴族も多かったのだが、受諾した際のメリットや日本側の外交官から何処か焦った様子を感じ取ったこともあり、トールは色々と考えた末に日本側の政府開発援助を受けることにして国王や反対派の貴族達を説得する。


 その結果が正に目の前の光景であり、トールは日本の技術力に驚嘆すると共に自分の判断が間違っていなかった事に自画自賛した。



(やっぱり日本と関係を結んだのは正解だったな。これで日本がキリアース同盟に加わってくれれば申し分なかったのだが)



 トールは自分達の陣営に日本を加えられなかったことを残念に思った。


 キリアース同盟とは大陸の東半分をその支配下に置くインセルナ大陸最大の国家――カーク皇国とその同盟国であり、大陸南側を支配しているエストニア帝国に対抗するための国家連合で、カイナ王国もそれに加盟する国家の一つだ。


 ちなみにカーク皇国とエストニア帝国はそれぞれ大陸で1番目と2番目の国力を持っているのだが、なぜ通常なら対立しかねない順位のこの二つの国が手を組み、キリアース同盟がそれに対抗しようとしているのかというと、それはこの二つの国が国教としているコクリアス教という宗教が大きく関係している。


 コクリアス教は亜人、すなわちエルフ、ドワーフ、獣人を初めとした人族以外の種族の奴隷化を掲げており、実際にカーク皇国とエストニア帝国では程度の差こそあれどそのように亜人を扱っていることから、人族と亜人が共存しているカイナ王国や北に存在するエルフの国――フェラリー王国、更にその北にあるドワーフの国――カレドニア王国や獣人の国――ウルフハンド王国などとは国是的にも和解はほぼ不可能だった。


 だが、相手は大陸でトップ2の国力を占める国々であり、特にエストニア帝国とは直接国境を接しているために、対抗するためには一国でも多く味方が必要だということはカイナ王国の大半の貴族達も意見が一致していて、それ故に日本をキリアース同盟に関してはカイナ王国内で反対意見は殆ど存在していない。


 しかし、カイナ王国がそうでもカイナ王国以外のキリアース同盟の加盟国、そして、当の日本がそれを了承するのかと言えば話は別で、一応、日本としては新たな国際社会に参入するためにもキリアース同盟の参加には――それこそ戦争に巻き込まれるリスクを加味しても――前向きだったのだが、ある理由から参加を拒否せざるを得なくなっていた。


 それは――



(ウルフハンド王国が日本の外交使節団を虐殺なんてしていなければ・・・いや、せめて日本側の要求を呑んでさえくれれば、交渉はすんなりと上手くいった筈なのに)



 そう、日本がキリアース同盟への加盟を拒否する理由。


 それは彼の国が送った外交使節団を虐殺したウルフハンド王国がキリアース同盟に加盟しているからだった。


 転移当初、いきなり国際関係を文字通りの意味で完全にリセットされることになった日本政府は、一刻も早く新たな国際関係を築き上げようとした焦りからか、国が存在すると判明した地域に片っ端から外交使節団を送り込んだ。


 その結果、半分ほどは上手くいったのだが、もう半分は良くて門前払い、最悪派遣された外交官が殺害される例すらあり、ウルフハンズ王国は正にその最悪のケースの筆頭だった。


 しかし、それでも戦争にならなかったのはこの大陸の情報が不足していたのと、折角国交を結んだカイナ王国を初めとする国家との外交関係が悪化するのを懸念したためだ。


 だが、外交使節団が殺害された以上、主権国家として完全に黙ったままでいるわけにもいかず、せめてもの抗議の意味を込めてキリアース同盟への参加を拒否していたというのが現状だった。


 ちなみに日本側の要求とは、外交使節団を虐殺したことに対する謝罪と虐殺の実行者及び責任者の引き渡しという無難なものだったのだが、カイナ王国が仲介した場でそれを要求した日本大使の言葉を、要求された側であるウルフハンズ王国の大使は――要求の内容を本国に伝えることすらせずに――鼻で笑って一蹴したことで、両者は完全に外交的に断絶することとなっている。



(もはや日本を引き入れるにはウルフハンズ王国をキリアース同盟から除名するしかないが、そんなことが出来るわけもないしな)



 そもそもキリアース同盟はカイナ王国のような人族を中心とする国家よりは亜人国家の方が多く、更に敵対の対象となる国が国是こそ違えどカイナ王国と同じ人族が中心となっていることから、カイナ王国は他の亜人国家に若干距離を置かれており、それもあってかキリアース同盟内におけるカイナ王国の発言力は低く、前述したウルフハンズ王国に至っては露骨に侮蔑の籠った目で見てきているほどだ。


 人族が中心になっているというだけでそれなのだから、元々亜人という種族が存在しなかったらしいとは言え、オール人族国家である日本がキリアース同盟に警戒されないはずがなく、仮にトールが思っていることをキリアース同盟会議の場で各国に話せば締め出されるのはカイナ王国の方となるだろう。



(いっそのことキリアース同盟から抜けてニホンと同盟を組むという手も有るには有るが・・・まだニホンが信用できる国なのかどうかは断定できんからな)



 元々、カイナ王国がキリアース同盟に入っているのは、隣国であるエストニア帝国に単独では対抗できないのとカーク皇国とエストニア帝国の亜人の奴隷化という国家方針が国是的に受け入れられないからであり、逆に言えばエストニア帝国に対抗できそうな国家勢力が他に有ってその国が人と亜人との共存を容認してくれるならば、わざわざキリアース同盟にこだわる必要は無い。


 そして、この道路の舗装技術や今も王国の港町に頻繁に出入りする鉄の船を見るに、日本が有力な軍事力を持っている可能性は非常に高く、更に亜人族に関する考え方についても日本側の外交官が『少なくともカーク皇国やエストニア帝国のような亜人族の露骨な迫害行為は行わない』とはっきり断言したことも有って、日本は二つの条件を十分に満たしているとトールは見なしていた。


 しかし、それでも日本に鞍替えするとすぐに決断できなかったのは、やはり日本が本当に信用できる国かどうか、判断がつかなかったからだ。


 まあ、当然だろう。


 歴史上、最初はいい顔をしておきながら後で豹変するなどという例は幾らでも有るのだ。


 ましてや、日本とカイナ王国はほんの三ヶ月ほどの付き合いでしかない。


 はっきりとした自信を持てないのも無理はなかった。



(1年・・・1年ほど様子を見てみよう。それで日本が完全に信用できるかどうか判断したら、私の考えを国王陛下に進言してみるとしよう)



 トールはそう考えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ