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改変日本異世界奮闘記  作者: 大陽
第一章 異世界召喚
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異常の感知

西暦2025年(令和7年) 5月16日 04:35 ウルフハンズ王国東部 カーク皇国軍 ウルフハンズ制圧軍北方軍団陣地



「一騎も戻らんとはどういうことだ!?」



 カーク皇国ウルフハンズ制圧軍北方軍団の軍団長――チアサ・ヘル・デウェート伯爵は北方軍隷下の飛竜騎士団(ワイバーン部隊)の団長――カムス・アン・コーリシャル男爵をそう言って怒鳴りつける。


 ネルヴィクとの一切の通信の途絶。


 昨日の午後に舞い込んできたその報告を、当初北方軍団司令部は魔信具の不調、あるいは魔素嵐によるものと判断していた。


 しかし、念のためにとワイバーン数機を伝令に向かわせたところ、全く帰ってくる様子が無く、やむを得ず追加で派遣したところ、やはり全く同じ結果となり、ここに至ってようやく飛竜騎士団上層部は事の重大性を認識し、チアサへと報告。


 その後、チアサの指示で今度は十騎以上の熟練飛竜騎士の乗るワイバーンを――それも夜間飛行で――差し向けたのだが、これもまた一騎も帰ってこなかったことでチアサは苛立ち混じりにカムスを怒鳴りつけたという訳だった。



「分かりません。ですが、何かが起こっているということは確かです」



「そんな分かりきった現実を聞いているのでは無い!何時になったら、偵察に向かったワイバーンは戻ってくるのだと聞いているのだ!!」



 それが分からないから、困っているんだろう。


 そう思ったカムスだったが、勿論言葉には出さずに内心で思うだけに留め、代わりにこんな進言を行う。



「偵察に行ったワイバーンの行方はもはや私にも分かりません。が、それを確認する方法は有ります」



「ほう?どんな方法だ?」



「空がダメなら地上。地上部隊を偵察に向かわせるべきです。幸い、我々には馬に加えて威力偵察におあつらえ向きな存在が居ります」



「・・・リンドブルムか」



 チアサはその存在を口に出す。


 リンドブルム。


 ウルフハンズが地竜と呼ぶその存在は、日本で言うところの戦車のような扱いをされており、開戦からこれまでの間にウルフハンズ王国軍を一方的に蹂躙できたのは、リンドブルムのお蔭だと言っても過言では無い。


 ・・・もっとも、それを面白く思わない者も確かに居り、カフスもまたその一人だったのだが、今回彼がリンドブルム隊を使うように進言したのは、なにも100パーセントの私情からではなく、それが一番適切だと考えたからでもある。


 

(これだけワイバーンを派遣してそれが一騎も戻らないとなると、ネルヴィクの方角にはワイバーンを十騎以上余裕で撃墜できる何かしらの存在が居るということになる。となると、またワイバーンを偵察に出しても先の二の舞になる可能性が高い)



 カフスは頭の回転の速さが要求されるワイバーン乗りを長年勤めているだけあって、決して無能な人間ではない。


 もし本当に無能だったならば、ネルヴィクとの通信が途絶した事実もさして気にせず、少なくとも彼の街に居る存在にこれほど早期に気づくことは無かっただろう。


 そして、それ故に彼はこのままワイバーンをまた偵察に出しても先の二の舞になると判断し、地上から偵察すれば何か分かるかもしれないと考えたのだ。


 ・・・とはいえ、それでもし被害が出てしまえば、彼が自らの戦力を保全するために地上部隊を生け贄に捧げるような進言をしたように見えてしまい、非常に体裁が悪い。


 故に、彼は付け加えるようにこうも言った。



「勿論、我々飛竜騎士団も再度偵察の為のワイバーンを派遣します。どうかそれで進言を聞き入れて貰えませんか?」



「・・・良いだろう。貴様の言うとおりにしよう。ただし、貴様自身も偵察に行け。何が起こっているのかをその目で確認するのだ。良いな?」



「り、了解しました」



 咄嗟にそう答えてしまったカフスだったが、内心ではチアサの命令に舌打ちしていた。


 ワイバーン十騎以上を未帰還にする“何か”が居るネルヴィクに行けば、自分が戦死する可能性は非常に高いと思っていたからだ。



(だが、こうなったらもうやるしかない。幸い、今回は偵察任務だ。“それ”が出てきたら、ひたすら逃げればなんとかなる!)



 そう考えたカフスだったが、不幸なことに彼はまだ知らなかった。


 彼の言うワイバーンを未帰還にした“それ”は、実際にその目で見てからでは対処するには遅い存在であるということを。


















◇同日 13:21 ネルヴィク近郊 



(・・・不気味だな)



 北方軍団隷下の第13リンドブルム隊の指揮官――リトルム・ペデロ准男爵は、あまりに静かな周辺の様子を不気味に思う。


 偵察任務の命令を受けてネルヴィクへと向かっていた第13リンドブルム隊であったが、現在、彼らは事実上孤立していた。


 当初、彼らの偵察隊は第13リンドブルム隊も含めると、ワイバーン13騎、リンドブルム7騎、騎兵18騎という偵察隊としては豪勢な編成だったのだが、出せる速力などの関係から飛竜騎士団と騎兵が先行することとなったのだ。


 そして、事前の話し合いで先行するワイバーン部隊と騎馬隊は定期的に後から付いてくるリンドブルム隊に伝令――携帯式の魔信具が存在しないため――を送って相互に連絡が取り合えるようにしていたのだが、一時間ほど前のやりとりを最後にそれも途絶えてしまっている。



(いったい何が起こっているんだ?)



 リトルムはそう思いながらも、尚も配下の部隊を前に進ませ続ける。


 本当は今すぐにでも引き返したかったが、チアサから『何が起こっているのか確認するまでは帰ってくるな』と言われているので、相手の姿すら見ないまま帰る訳には行かなかったのだ。


 ――もっとも、今更引き上げたところで結果は変わらなかっただろう。


 “相手”は既にリトルム達を捕捉していたのだから。


















◇同日 13:32



「対戦車ミサイル、目標に命中」



 淡々とした口調で耳に装着された小型無線機(インカム)に向かってそう言う斑模様の服を着た男の視線の先には、61式対戦車ミサイルによって肉体上部が乗っていた人間の体諸共バラバラにされた7騎のリンドブルムの姿があった。


 第三世代の対戦車ミサイルの攻撃をまともに喰らったそのリンドブルム達の生死は一目瞭然ではあったが、念のためと男を含めた複数の人間が生死を確認する。


 ――そして、改めて死亡している事を確認すると、男は再度インカムを通して上官にこんな報告を行った。



「こちら、サン()ヒト()。目標7騎全ての死亡を確認した。騎手にも生存者は居ない」



『了解。では、第三小隊はそのまま所定の位置に戻ってください』



「了解した。しかし、今の攻撃で対戦車ミサイルはほぼ底をついた。補給を行ってくれると助かる」



『分かりました。すぐに補給部隊を送ります』



 オペレーターらしき女性がそう言った直後、通信は切れた。



「・・・ふぅ」



 通信を終えた男は改めて初の実戦を終えたことを実感し、気持ちを落ち着かせる為に軽く息を吐く。


 男とその部下達で編成されるこの普通科小隊は、昨日ネルヴィク近くの海岸に上陸し、瞬く間に同街を制圧した陸上自衛隊第8()団の所属だ。


 しかし、昨日男の小隊が上陸した頃には既にネルヴィクは先行上陸した部隊によって占領されており、男はネルヴィクを制圧した際に行われた戦闘――極小規模だったが――には参加できていなかった。


 それ故に男にとって今回が初の実戦となった訳なのだが、実際に経験してみると訓練と実戦はやはり違うということを思い知らされる。



(これが実戦か。あまり実感は無いが、それでも人が死ぬ瞬間を見ちまうと訓練とは違うということが直ぐに分かっちまうな)



 そう、訓練や演習と実戦の最大の違い。


 それは人が死ぬか、死なないかだ。


 一応、訓練や演習も人を殺すための練習に違いないのだが、あくまで“練習”であって本気で相手を殺そうとするわけでは無い。


 ――加えて、人より格段に目の良い男には見えてしまったのだ。


 地竜に乗る騎手の体がバラバラに弾け飛んでしまう姿を。



(・・・こんなこと、慣れたくはねぇな)



 男はそう思いながらも部下達に指示を下し、元の潜んでいた場所へと戻っていった。

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