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改変日本異世界奮闘記  作者: 大陽
第一章 異世界召喚
11/14

港への攻撃

西暦2025年(令和7年) 5月15日 14:51 インセント大陸 ウルフハンズ王国 ネルヴィク


 ウルフハンズ王国北東部の港町ネルヴィク。


 規模的には王国第二の港町であったが、人口はたったの3000人と、王国第一の港町であるオークストール(6万人)とは雲泥の差が存在しており、然程大きな港町とも言えない。


 それでもウルフハンズ王国の東側の海運を支える重要な都市であったことは確かであり、港としての設備はそれなりに充実していた。

 

 ―しかし、カーク皇国との開戦から約一ヶ月。


 国境線付近に展開された軍団が壊滅したことにより、ウルフハンズ王国軍が防衛線を大陸中央まで下げた為にネルヴィクもまたカーク皇国軍の手へと落ちる事となり、この街に住んでいた住民――カーク皇国軍の進撃が早かったことや避難命令どころか、避難勧告すらでていなかった為に逃げられなかった――は既にカーク皇国軍による“選定”を終えられ、今はカーク皇国からやって来た船(ガレー船)に詰められて出港の時を待っている段階となっていた。



「俺たち、これからどうなっちまうんだろうな・・・」



「決まってんだろう?奴らの国まで連れて行かれて、死ぬまで強制労働さ。じいさん達を殺害したのは労働に耐えられないと見做されたからだろうな」



「・・・どうにか抜け出すことは出来ねえのか?」



「無理だろう。こんな鎖、しかも魔法による強化が施されているもんでがんじがらめにされてたら、よっぽどの馬鹿力の持ち主で無い限り、びくともしねえさ」



 その獣人の青年――カレドスは自らを縛る魔法の鎖に視線を合わせながら、彼と同じくこの街で生まれ育った獣人――ドーラに対してそう言った。


 そう、彼らは現在、魔法強化が施された鎖によってがんじがらめにされた状態で船倉の奥底に押し込められている状態となっていたのだ。


 この魔法強化が施された鎖は人族ならばプロレスラーが死力を尽くしてもビクともしない代物であり、いかに人族より身体能力の高い獣人と言えど、壊すことは困難だったのだ。



「それに抜け出したところでどうすんだ?この辺り一帯はカーク皇国に占領されちまってるんだぞ?・・・まあ、泳いで行くんなら逃げ切れる可能性は無くも無いが、仮にまだ占領されていない街までたどり着いたところで、一度人族に捕まった奴を騎士の連中が見逃してくれるとも思えん」



 カレドスの言っていることは現実味があった。


 実際、今のウルフハンズ王国政府は彼らのような庶民から見ても異常なほどに人族に対する蔑視の感情が激しく、少しでも人族を褒めるような言葉が騎士の耳へと入っただけでその人族を褒めた人間は拷問の末に殺されるという有様だ。


 一昔前までは――人族に対する警戒心こそ有ったが――ここまで酷くは無かったのだが、今の国王に代替わりしてからこのような状態となってしまっており、そんな彼らが一度人族に捕まった人間を歓迎するとは考えづらい。



「第一、お前はここに居る奴ら以外の生き残ってる街の住人を見捨てるつもりか?」



「うっ。た、確かにそれは心が痛むけどよぉ。お前の言ったことが確かなら、このままここに居ても良く分からない場所に連れて行かれて強制労働だぜ。だったらいっそのこと一か八か、俺たちだけでもここから――」



 脱出を試みるしかない。


 そう言おうとしたドーラだったが、その声は街の方角からこの船の中へと響き渡った轟音と衝撃によってかき消された。





















◇同時刻 ネルヴィク沖北西450キロ 第五駆逐隊 『細雪』 戦闘指揮所(CIC)



「ミサイル、全弾命中」

 


 駆逐艦『細雪』の戦闘指揮所(CIC)


 そこには艦長を初めとした艦の乗員の重鎮達の大半が詰めており、その中の砲術科――元々は海軍内で砲を扱う部署を表していたが、21世紀現在では水雷科を吸収してミサイルなどを含めた兵器全般を扱う部署となっている――の要員が、先程『細雪』を含めた第五駆逐隊の駆逐艦4隻から発射された28発の51式艦対地ミサイルが全弾、目標であるワイバーンの竜舎へと命中したことを伝える。



「・・・いささか、過剰だった気がしないでもないな」



「そうですね。しかし、こうしてミサイルが着弾するまではワイバーンとやらの迎撃能力が不明だったので致し方なかったかと」



 艦長――雨木修一中佐の言葉に、砲術長――風見裕太大尉はそう答える。


 雨木の言うように、今回の攻撃は一施設を破壊するには明らかに過剰な攻撃だった。


 ワイバーンは基本的にヘリやVTOL機のように垂直に近い角度で離陸する事が出来るので、滑走路の広さはそれほど必要としない。


 それ故に、ワイバーンの基地は科学文明の航空基地より遥かにコンパクトに纏められており、しかもネルヴィクに駐留しているワイバーンは数十騎程度しか居なかったので、その大きさは2000平方メートルも無かった。


 そんな場所に科学文明の航空基地を一つ――小さな基地なら二つ――は完全に跡形も無く吹き飛ばせる量の対地ミサイルを叩き込んだのだ。


 敵基地が目を覆わんばかりの惨状となったことは確実であり、“過剰”という雨木の評価は正に的を射ていたと言えるだろう。



「それに基地そのものがバリヤのようなもので覆われていてミサイルの攻撃を防ぐ可能性も否定できませんでした。それを考慮すれば、統合参謀本部からの指示は妥当だったと考えます」



「我々は魔法についての知識を殆ど有しておらんからな。・・・手持ちの知識ですら何処まで信用して良いかも分からん」



 この時点で雨木を含めた今回の作戦に参加している現場指揮官達は、中央情報局が集めた魔法に関する情報を軍上層部を介して全て伝えられていた。


 これが前世界の頃であれば分析官などによって入ってきた情報は取舎選択されて現場指揮官へと伝えられるのだが、今回の場合は入ってくる情報が少なかったこととそもそも魔法に関する基礎知識が不足していたことから、どの情報が信用できてどの情報が信用できないのかの区別を付けることが出来ず、結局、入ってきた情報はそっくりそのまま現場指揮官達へと伝えられていたのだ。


 だが、専門の分析官が殆ど解析できないものを統合参謀本部に所属する参謀達や未だ魔法という存在の脅威に直面していない現場指揮官達が正確な情報の精査を行えるはずも無く、結果、実質手探り、すなわち自分達が実際に戦闘を行うことで情報を収集するしかないという結論に達していた。



「だが、少なくともこの基地にはバリヤーのようなものが張られていなかったこと、それからワイバーンそのものの防御力は我々(海軍)からすれば大したことはないと分かったな」



 雨木はそう分析する。


 実は今回の攻撃に先立ち、哨戒行動を行っていたと思われるワイバーンの何騎かを今回の作戦に参加している海上自衛隊の護衛艦が攻撃したのだが、そのワイバーンは護衛艦が放った54式艦対空ミサイルによってあっさりと撃墜されていた。


 対空ミサイルは何処の国でも同じだが、すばしっこい航空機を捕捉するために速さと精度、更には追尾能力が最優先で設計されており、火力そのものは爆弾にして数十キロ程度の質量しかなく、仮に護衛艦や駆逐艦を目標にするとしたら、それこそ何十発も当てなければ撃沈には至らない。


 そして、この程度の火力で撃墜されるということは、少なくとも統合参謀本部の一部が予測していた『ワイバーンは防御の際にバリヤを張る』という可能性はほぼ完全に消失、あるいは脅威ではなかったことを意味しており、実際に対応しなければならない雨木としては面倒な事態になる可能性が一つ確実に消えたことに安堵していた。



「そうですね。艦対空ミサイルで簡単に撃墜できましたし。あとは我々がネルヴィクに停泊している帆船を砲撃によって掃討し、自衛隊の連中が上陸してネルヴィクを抑えれば本作戦は終了となります」



「砲撃か。対艦ミサイルの方が安全なのだがな」



「そうは言いましても、停泊している船はそれなりに多いですし、カーク本国からやってくると思われる敵艦隊に備えなくてはなりませんから、停泊してもはや標的と化した相手に対艦ミサイルを使うのは・・・」



「分かっている。言ってみただけだ」



 風見の言葉に雨木がそう返したところで、『細雪』の通信設備が第五駆逐隊旗艦――『吹雪』から発せられた通信電波をキャッチし、その通信の内容が『細雪』の通信士によって戦闘指揮所(CIC)へと流された。



『こちら第五駆逐隊司令の三日月だ。先程の攻撃を以て第一段階作戦の終了を宣言する。各艦は単縦陣を維持したまま、速やかに第二段階作戦に移行せよ。以上』



 流されたのはそんな簡潔な内容の通信であったが、各艦の重鎮達にはあらかじめ第二段階作戦についての説明がされていた為に、艦長である雨木は戸惑うことなく艦橋に繋がる艦内通信のスイッチを押すと、そこに居る副長に次の指示を下していく。



「現時刻を以て作戦は第二段階へと移行した。このまま前方の艦に続き、ネルヴィクの港に向けて進路を取れ」



『了解!』



 『細雪』副長――加瀬良太郎少佐の言葉を聞いた雨木はすぐに艦内通信のスイッチを切り、艦長席に座りながらこう呟く。



「やれやれ。オチオチ話も出来ないな。まあ、実戦なのだからこれが正しいのだが」



 なんにせよ、今経験しているのは自分がまだ新兵であった頃に参加したアフガニスタン侵攻作戦以来の本格的な実戦。


 その事に身震いしながらも、雨木は自分が為すべき事を為そうと強く意識していた。

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