第三話
今日も聞こえるように嫌味を言ってくる同僚の視線は冷たい。
そもそも、他人のミスを私のせいにされるのはいつもの事だ。慣れている。
でも、それを耐えられるのは仲間のおかげ。今日も私は堂々と前を向いて生きていける。外面は落ち込んでますアピールで俯いてはいるが…。
(シン。駄目だよ。私は気にしてない。)
上着の裏地に潜むシンはご立腹の様子だったが宥めるのも、もう手慣れたものだ。
シンを連れてくるようになったのは配属先が決まって割と最初の方だった。
毎日疲れた顔で帰ってきて、時々痣を作って帰ってくる私に皆が詰め寄ったのだ。
「今日はいつにも増して酷いな。女性に手を上げる等信じられん!シン、冷やしたタオルを持ってきてあげなさい。」
油絵の黄金色の鳥は「クウ」
「あらまあ、ヒイラギこちらへいらっしゃい。痛みを和らげる効果の植物を塗ってあげるわ。」
植物の妖精女王モチーフの水彩画は「ラフレシア」長いから「シア」と呼んでいる。
「その傷は誰にやられた!?」
油絵の口の悪い濃い紫の蛇は「リク」
同僚にわざと物を投げつけられただけなのに大げさな。
「皆心配性だよ。私は大丈夫!骨をやられた訳じゃないし元気だよ!」
「骨をやられる等あってはならん!……はぁ、慣れとは恐ろしいものだな。」
「傷があるのは大丈夫じゃないわ!とにかくいらっしゃい!」そう言って蔓をこちらへ伸ばしてくる。
心なしか皆の語気が荒い。問答をしても結局私が折れる事になるのは目に見えているので大人しく植物を塗ってもらう。シンも冷やしたタオルを持ってきて患部にあててくれていた。
「…またあの同僚か。全く、どいつもこいつも糞ばかりだな!」
鳥は悩ましげにしていて、蛇はまた怒っている。
というか私同僚とは言ってないし、個人を特定するような事は言って無いんだけど??
「…あのさ、ちょいちょい気になってたんだけど…リクって他人の思考を読めたり…とか?できないよね?」
そんな特殊能力あったら隠し事の一つもできない。
「隠し事が出来ないと何が困るんだよ?」しれっとリクが答えた。
「えっ!?それって出来るって事?いつから!?」
「…シン、右腕もぶたれてるからそこも冷やしてやれ。」そっぽを向いてリクが指示する。シンは慌ててタオルの追加を取りに行く。
ちょっと思い出した程度でも読まれると言う事か!?どれくらい分かるんだ!?
「私に人権はないのか…」ジトッとリクを横目で睨んでやる。
「それは会社の奴らに言うべき言葉だな」リクのカウンターが強い。ぐうの音も出ない。
「……」何も言い返せない。
「そうだ。こういうのはどうだろうか!」クウが名案とばかりに声を高らかに話しだした。
「毎回リクが健康状態を確認するのも大変だろう。かといって我々もヒイラギが心配だ。だから誰かがヒイラギに付いて行ったら良いではないか!そうすれば怪我など隠される事もないし我らも事実を確認できる!お灸を据えてやる事も出来るしな!」
ふふんと鼻を鳴らし提案するクウ。
「いやいや、物騒な…そもそも絵を持って出勤する人いないって。おかしいってば。余計に変に思われるよ。」
できないと否定をするも
「ヒイラギは知らんかもしれんが、我らは君の描いた絵であれば干渉できる。だから、上着の裏地にでも適当に絵を描いてくれればそれが馴染めば我らは何時でもそこに移動できるのだ。」
「そんなことできるの?」
「出来れば植物が良いわ。その方がワタクシの根や蔓を伸ばしやすいもの。」
「どんなんでも良いからさっさと描いてくれよ!馴染むまで時間がかかるんだからよ!」
「拒否は出来ないんだ…」
「「「すぐ隠そうとするからいけない」」」声を揃えて注意をされた。
その会話の最中もずっとシンは私の手当てをせっせとしてくれていた。やっぱり心配性のようだ。
それからすぐ、せっつかれるので裏地に少し前に作っていたハンカチの染物を縫い付けた。
華柄のハンカチにシアは喜んでいた。もう十分馴染んでいるようでシンも出入りがすんなり出来ている。布面積の大きさはそんなに関係ないらしい。
それからは、皆が日替わりでハンカチに入って私の日中の様子を見て、帰ったら皆に報告していた。
ハンカチに入るのは一人だったり、二人だったり…。正直私も把握しきれていない。
やれやれ…私の仲間達のなんとも頼もしい事か。