玩具の城 その8
虚構のデパート屋上で、少年はひとつの玩具を抱きしめ続けた。
夕焼け色がロボットの青色を濁らせても、少年は動くことができなかった。
どんなに理想とかけ離れていたって、どんなに今の彼に必要なものでなかったとして、憧れと決別するというのは理屈ではなかった。
この固執する心は此度の怪人達の思惑の外にあった。彼らは既に各々の理由で静まっている。
絶望して意志の消え失せたもの。
主人の敗北に運命を天に任せたもの。
髪を切られて死んだもの。
欲していた言葉を手に入れて満足したもの。
もしかしたら、この喪失感への恐れはデパートそのものの抵抗なのかもしれない。
怪人は玩具達だけではなかったのかもしれない。
妄想の域を出ない推測ではあるが。
どうだったにせよ、少年はどうしても立ち上がることができなかった。
一人で立ち上がることができない時。
人は何を必要とするだろうか。
それは、
「さあ。もう、帰ろう」
少年は背後の声に振り返った。
霞む視界に映ったのは、まず灰色の頭髪。
「……ばあちゃん?」
逞しい男性の身体。
「じいちゃん……?」
沢山遊んでもらって。夕方になって。帰りたくなくて。
それでもあの二人に帰ろうと言われたら。
笑顔で一緒に。
「違う違う。ボクだよボク。玩具屋の店員」
逞しい身体は祖父のようで。
灰色の頭髪は祖母のようで。
狼男はそのどちらでもないのだが、何故か少年は立ち上がった。
「……店員さん。なんか、僕」
「大丈夫。十分頑張ったと思うよ」
少年は微笑んだ。
「あの。店員さん」
「なぁに?」
「売れ残った玩具……」
「あの子達ね。だから、やめておきなって」
「でも」
「大丈夫。キミはその青い子だけ、大切にしてあげて」
その言葉は今までの軽薄な緩みを孕んではいなかった。
「……はい」
少年は信じることにした。




