玩具の城 その7
「……これが、僕の……」
求めていた場所。
キャラクターの乗り物。
幼児に人気のキャラクターがモチーフ。
ゲーム筐体。
ポップな柄で商品は昔大好きだった駄菓子。
メリーゴーランド。
デフォルメされた馬の。
小さなジェットコースター。
懐かしくて趣がある。
観覧車。
小さくて可愛らしい。
呆けてしまった。
しかし、相方は呆ける暇もくれない。
彼は手が握り手なので僕の服を引っ張ることはできない。
それでも「こっちから周ろう」と友達や恋人のようなことを言いたいのは分かる。
そんな彼の輝く青い目。
何故か、いや、何故かは薄々分かってる。彼の目を見ることができない。
過去がフラッシュバックする。
玩具箱からロボットを選ぼうとした時、顔が少しばかり見えたこと。
どんなに頑張っても変形から元に戻せなくて、頭部の出し方すら分からなかったのに。
ロボットを殺そうとした時になって、
目が合ったのだ。
思わず目を逸らしたのを思い出した。
青いクリアパーツとそれに浮き出る気泡のようなものが涙を浮かべているように見えて。
「…………」
青いロボットと共に過ごす憧れの場所での時間。
追い求めていたものを取り戻そうとしている時間。
求めていたものが揃った時に生まれた感情。
鉄道のジオラマの時も、昔の玩具売り場も、今の屋上遊園地の時も。
全てに共通していた感情。
考えれば不思議なことはない。
僕は気が付いたのだ。
しかし、どうすれば良いか分からなかった。
このロボットは同じ容姿をしているだけの別物だ。僕のロボットはとっくにスクラップだ。残骸すらもう残ってはいないだろう。
それでも彼に辛い思いをさせたくなかった。
必死に僕と遊ぼうとする彼に、この気持ちをどう伝えるべきなのか。
黙って付き合うべきだろうか。
薄い作り笑いでこの場をどうにかすることを考えるべきだろうか。
そうして彼を知らず知らずのうちに裏切って、僕の我慢が限界を迎えたら彼のことを捨てるんだろうか。昔みたいに。
即興で大事な決断を迫られる僕。
それだけで折れてしまいそうだった。
何かないか頭の中と身体の内を探る。
何かないか。何かないか。
僕が折れないために。
彼を捨てないために。
何かないか。何かないか。
誰もいないのか。
誰か。誰か。
誰かこのデパートに。
「あ。あの人……」
『どっかで気付くと思う。その時は辛くても……』
そっか。
分かった。
ありがとう。
負けない。
「ごめん。全然わくわくしない」
青いロボットは動きを一瞬止めた。何が起こったか分からないといった様子。
そしてすぐに焦ったようにワタワタと動き出した。
ロボットはアトラクションを次へ次へと指差す。
幼児向けのキャラクターの乗り物。
「流石に卒業したかな」
子ども向けのゲーム筐体。
「駄菓子なんて嬉しくないよ」
子ども向けのメリーゴーランド。
「もっと立派な奴の方が良い」
チープなコースター。
「乗るの恥ずかしいよ」
小さな観覧車。
「すぐ終わっちゃうじゃないか」
同じ目をしている。
青いクリアパーツの気泡が。涙が溢れそうな目。必死で何かを訴える目。
「ごめんね。僕、少しだけ大人になったみたいだ」
青いロボットは子どものようにじたばたした。必死で稼動の少ない腕と脚をバタつかせている。
こんな小さくて軽い身体で暴れたって、何もならないのに。
次第にロボットは黒いもやを纏っていく。
青い体躯は植物の根のように膨らんでいく。
巨怪とも呼ぶべき、獣のような。
圧倒されかねない体躯を前に、それでも僕は引かない。
また悲しませてしまった。
あんなに可愛かった彼を怪物にしてしまうほどに。
それでも、ずっと言いたかったこの言葉を。
僕は今、伝えよう。
「大丈夫。絶対に捨てないから」
カタッ
「安心して、良いんだよ」
青いロボットは元の姿に戻って床に落ちた。
「この言葉が欲しかったんだね」
僕は落ちたロボットを抱き締めた。
いい歳して玩具への力加減を知らない。
子どもみたいに。
きっと、僕は今泣いていると思う。




