玩具の城 その5
少年は苛立っていた。
狼男からの助言を否定と捉えていたのだ。
「あの人は気持ちが分かんないのか?」
人でない割には頑張っている方だが、それは他人には関係のないことである。
「僕はここでこの列車をずっと見ていたいだけ」
子どもの頃程、このジオラマは大きく感じなかった。しかし、今だから分かる良さが彼をやはり惹きつける。
寧ろ精密なディティールのミニチュアに感心する側面の方が強いだろう。
建物の色使いと重厚感、砂利の置き方は自然、山の緑も程よく暗い。
走行して警笛を鳴らす動的な魅力よりも、観点の変化によってもたらされた技術的な魅力が今の彼にとって大きかったのだ。
ある側面ではこのジオラマは昔より広く見えているかもしれない。
ただ……
「……あれ?」
少年は何かに気が付いた。
その気が付いたモノに少年は恐れた。きゅっと浮く。
気が付いたモノを頭で言語化する前に彼はその場から逃げた。
子どもっぽく気まぐれに歩いてみることにする。
成長した彼にとってもあの頃の玩具売り場は広かった。
こんな場所は今の時代にはもう無いだろう。例え広かったとして今玩具売り場を作るとしたら、もっと商業的でスマートなものになることを彼は知っていた。昔風をわざわざ新規で再現する場所もあるが、それが無粋なことを大人は何故だか分かってくれない。
求めていたものだ。
欲しかったものだ。
なんの不都合もない。
「……それなのに」
少年は自身の気付きに抗っていた。言葉にしないように心中で問答している。
その時、小脇に抱えた青いロボットがクリアパーツの目を光らせた。
「え?」
青いロボットは浮いた。
「君、生きていたの?」
ロボットは頷く。そして短い手を可愛らしくバタつかせている。
「なに? あっちへ行けば良いの?」
また頷く。
ふわふわ浮遊する青いロボットの誘導に従い彼は歩き出す。
しばらく少年は呆けたようだったが、何か決心したように話を切り出した。
「昔ね。君と同じ玩具を捨てたんだ」
ロボットはちらりと少年を見た。
「お気に入りだったのに。大した理由もなく。一年くらいで捨てたんだ。凄く後悔してる。子どもの考えって本当に分かんない。自分なのにね」
ロボットは何も言わない。ただ聞いてる風ではあった。
「その子のことをたまに夢に見るんだ。それで今日ここへ来たら君が居て。なんだか訳が分からなくなって。欲しいけど、それってその子への裏切りかなって」
ロボットは聞き入っている。
「でもここで買わなきゃ。値引きシールを貼られてるし、今日で閉店だから。捨てられちゃうかもって思って。それは嫌だから買っちゃったんだ」
ロボットの動きは次第にゆっくりになっていく。
「ごめんね。あの子と君は別物なのに。君はようやく今日ブリスターから出たのに。昔話を押し付けちゃって。楽しく遊ぶのが玩具なのに。ごめん」
ロボットは手足をバタつかせた。何も言わないが彼なりのジェスチャーだろう。必死なことだけは伝わる。その意図はなんとなく少年に伝わった。
「ありがとう」
しばらく一緒に歩くと青いロボットが動きを止めた。
そこは、
「あの、遊園、地」
ずっと行きたかったのに、閉ざされていた場所。屋上の遊園地。
ロボットの手の向かう方に目をやると、階段上の扉が開いて光が差し込んでいるではないか。
「行って良いの?」
ロボットは頷く。
「一緒に遊んでくれるの?」
ロボットは頷く。
少年は微笑んでロボットに手を差し伸べた。
二人は手を繋いで階段を登っていく。




