⑳⑩山奥の逃避行
俺は路地裏から石ころを拾い、秘湯巡りの旅に出る。もちろん親衛隊の付き添いだが。俺は親衛隊を撒くように路地を走り抜けて意味を与えた『導き』の石ころが飛びながら前を進む。それに離れずに追い、山へと入った。靴は軍靴を履き、山奥に入れる装備をしており。親衛隊の一部。軽装の者を振り払えた。
山々は全く、整備されていないが。草木は生えておらず。木々達が全く木漏れ日さえ許さない森を一人走り抜ける。山々の空気が汗を冷やしながら、生命の囁きを奏でる。深い深い魔力と迷わせようとする妖精。そして、岩肌が見え湯気が上がる小川をみつけた。霧が深くなり、トルが用意した石ころが砕け。俺はその秘境に到達した。
「ああ、そうか。トルはドリアードだからか」
納得できた理由はその秘湯に数人がドリアードだろう人たちが足だけをつけていた。そこに既にトルもいる。
「遅かったですね」
「逃げる側だぞ……トル」
「そうですね。では入りますか? 奥に小屋があります」
「手慣れてるけど……」
トルが自身の頭を指差す。意味は頭にあると言う事だろう。
「知識かな」
「お兄さんが教えてくれました。喜んでください『性別問わず』です。何を考えました? エッチ」
俺は息を整え荷物を置いて靴を脱いで流れる小川に足を入れる。トルは水筒を手渡してくれ、俺はそれを勢いよく飲み干した。髪が特徴的な緑色は仄かに魔力で靡いていた。足を入れて気付くのはこれは大地の力が溢れているのを感じる。
「あのな、魅力的な女性が目の前にいるのに考えないのは男じゃない」
「そうですね。それだからあなたは私に惚れたんでしょう?」
「それは……」
正直、「そうじゃない」と心の底からは言えない。
「いいんです。そういう生き物なので、サキュバスと言われても間違いではないでしょう。折角、二人きりなんです。心を解き放って話し合いましょ」
「いつも心を開いてるから……今さらなんだが……」
「私が、無理ですよ。でも、禁じられる程に魅力的なんですよね……不思議ですね。破滅が待っているだろうに」
「そんな事はさせない。まだ若いけど」
走りながら考えた。覚悟がいる。
「口では簡単に言えるんですよ」
「……じゃぁ。トルは俺が他の女とイチャイチャしてるの許せるか?」
「……………………う、ぅん」
「苦しい肯定だなぁ」
「仕方ないじゃない……私は……もう。あなたの感情に花が咲いてしまいました。責任取ってください。私は覚悟しました。家を出る準備もします」
俺の手にトルの手が乗る。彼女の瞳を覗くと綺麗なエメラルドグリーンの宝石のような瞳の奥に光を見る。強い強い光を宿していた。
「俺より、覚悟が据わってるな」
「母親になる覚悟がありますから。最初はこんなになるなんて思いもしませんでしたよ……」
「俺も、第一学園にトルが居るとは思わなかった」
「ふぅ……そろそろ。秘湯を見ましょ」
「見る?」
「面白いのがあります」
俺は整備された木床を歩き、涌き出る源泉を見る。源泉は固着した湯の花で白く。そして、驚くのは大きい剣が錆びず、鋼の光沢を見せながら沸き上がる湯の中心に刺さっている。見るからに異常な光景に驚く。
「え、なんだこれ」
「男のドリアードだった名工が打った剣で龍脈に傷をつけた物です。深く深く根が張り、貫通してます」
「な、なぜ龍脈に傷を?」
「魔力抜きです。休火山な理由は龍脈からエネルギーを抜いてるためですね。一定以上で爆発するので私たち祖先は『災害を治めるために』ここに剣を入れて魔力を漏らしているんです。封印ではなく、逆に解放してる場所になります。他にもいっぱいこんな場所があります」
「そうなのか……もしや。国を支えてるのは?」
「私たちも一枚岩ではないです。それだけは覚えておいてください。敵にいる場合もございます」
「肝に命じるよ。じゃぁ入ろうか」
小屋には籠があり衣類を入れられるようになっており、また誰か住んでいるのか民家も見えた。きっとここを『管理、維持』をしているのだ。誰にも知られず、誰にも誉められず。皆のために調整している。
「珍しいですね。私の着替えを見ないんですか?」
「いや、今はここに居る。ドリアードに感謝をしてる所だから」
「そうですよね。彼らのお陰で火山噴火してないんですから」
「さらっと怖いこと言うね」
「怖いですよ。ここ、攻められて封じ込められたら数十年後に爆発します。農地は荒れ、山は燃え、日は煙で遮られ、寒冷し、不作。大飢饉です。ドリアードも涙を流して我が子を人に与えたと言います」
「……うん、こう。エッチな気持ちで来たけど。落ち着いてくるよ」
「ふふ、まぁ気にしなくていいんですよ。今に生きてます」
「あ、ああ。どうして君はここへ連れて来たんだ?」
「男のドリアードが必ずくる場所らしいです。お兄さんはここへ来るたけに頑張った。そして、私に教えてくださったんです。『二人で行ってみるといい』とね。嬉しかったです」
「そういう事か、確かにここは親衛隊を呼ぶには相応しくないな」
「ええ、さすがに秘境ですからね」
そんな秘境に連れて来て貰えるなんて俺はトルが特別な扱いをして貰えている事に嬉しくなる。
「トル、ありがとう」
「遅かれ早かれです。それに……私を『応援』する仲間たちを増やさないといけないんです」
「仲間?」
「気になさらず。ただ一緒に入ってください」
「わかった……」
彼女は何を考えてるか予想する。そして、俺は気付かされた。多くの視線を集めていることを。
*
私は「純正ドリアード」に恩を売る。彼氏となった彼の姿を衆目に晒した。ここに居るドリアードは種類は豊富であるが純血の王家を生で見れる機会はそうそうない。それに彼は鍛えている。いい筋肉のつきかたをしており。美しいバランスを持っていた。
多くのドリアードが彼に見とれる中で私は思う。男好きな性分はどうやら私にもあるらしいく。彼と風呂に浸かりながら、周囲を見て鼻が高くなる。
「トル、滅茶苦茶みられてるんだが……」
「見せてあげてくださいね。名家の王子様なんですから」
「なるほど……俺を売ったな」
「いい、モデルですよ。ありがとー『生の美形』は珍しいんです。私たちは『選べる』姿なので」
「じゃぁ君の本当の姿は違うのか?」
「本当の姿はモジャモジャ毛のような植物ですね。まぁ冗談です。胎生です。それでその年で一番綺麗な花に擬態します。まぁ……その綺麗な花がわからないので。生まれたまんまですけど」
「なるほどなぁ。優秀な生体だなぁ。人間に取り入るためにか……他にも?」
「人狼と吸血鬼がそうですね。彼らは『一般人』みたいな成りになって潜伏して、私たちから血を買ってます」
「……その事を俺は知らなかったけど。それは普通のことなのか?」
「跡取りになる者は静かに教えられると思います。まぁ、大体は『察する』か『見つける』方が早いかもしれません。大衆の知らない秘密な世界の話です。ですが、二重帝国を支える世界なのも確かです。いつか表立って胸を張れる時代が来るといいですね」
「そうか……ありがと。父上はまだ俺に話をしてないだけか……裏を知ると結構多くてびっくりする」
「裏金問題もありますしね。まぁここであなたを読んだのは……ちょっと秘密ですが。覚悟するためです」
「覚悟?」
「はい。そして私はきっと……楽しい未来が待ってるんですよ」
私は静かに笑う。これから起きるだろう事を覚悟しながら。
「それにしても、ガルガンチュアの家ってユルユルですね」
「親衛隊は今は大騒ぎだろうけどな」
「……親衛隊隊長とは私はグルです。そして彼は……秘密です」
「……なんで君の方が知ってるんだ」
「女は秘密が多い生き物だからですよ。秘密が化粧として妖艶になるのです」
私は悪い子に堕ちた。




