⑳⑧二人きり
私はトルのお兄様と一緒の部屋に残される。そして、縛られている紐を外し、封印術を消す。手慣れた行為にいい表情をする彼に私は問う。
「では、交渉しましょ。私が『彼女の親友』で居られるように」
「……妹君はお気に入りかね?」
「それはもう。大のお気に入りよ。便利で、面白いですもの。そして、越えるべき壁でもあるわ。あの底知れない強さをほんの一瞬でも本気にさせたいわ。見せない強さが私を滾らせるの」
舌をなめずり、私はうっとりする。それに彼は笑みを溢してくれる。
「なら、彼女の用意するポーションは飲まない方がいい。あれに毒や媚薬。そして、友達に対して遅効性の種子を埋めて操る事が出来る。片利共生状態にもなる」
「それをあの子がすると思うかしら?」
「……絶対はないと思う。信じるもいいけど、妹の腹は私でもわからない」
「お兄さんなのに?」
「…………少し昔の話をしよう」
腕を組んで思い出を語り出す。
「あれは雨の日だった」
「天気の話はどうでもいいので『いつ』『どこで』『なにを』を教えてください」
「……幼少期、家でトランプを」
「それで?」
「根を張り巡らした目で手札を見た。ボードゲームでは普通に全勝するぐらい読む。魔法なども私より上だ。才能が爆発している」
「知ってますわ」
「恐ろしくないのかい? 私は恐ろしくなったよ。もしも『凶木になる事があれば私は止められるだろうか?』とね」
「まぁ確かに。でも、それの安全装置はついてるんでしょ?」
「それを私と妹はお互いに外している。幼少期に。彼女の思い付きで。だからこそ、暴走を止める場合は家族や親族総出になるだろう」
「今は暴走してますか?」
「暴走ぎみだね。王家との親好は本来は許されない。だが、我々も悪ではないから。同じクラスだった事で見逃している」
「そうですわね。でも、ゼロお兄さんとはあっさりくっつきましたわ」
「あれだけの男なら、逆に正しいかもな。俺に対して複数の魔法を用意して牽制していたよ。トルに気付かれないようにトルの魔力色に染めて。王家のドリアードからの情報は失伝してるから。あの血統魔法には興味がある。君は扱えるのかい?」
「教えて貰ってませんわ。それに才が乏しいので」
「確かに雑味が多い魔法だね。いや、拳を振り上げないでくれ」
「わかりましたわ。こんど言ったら締め上げますわ。これでも努力してますのよ」
「わかった。軽はずみに言いすぎました申し訳ないです。しかし、ちょっと君の体も気になる事は気になる。秘匿された匂いがしますね。あえて魔力を無駄に発散させる呪いのような感じもします。ああ、なるほど王家に近付くなと言うには魅力的なのか。また、手を貸せば確実に『政争』に関わるからですね」
「そうですわ。ガルガンチュア家はあのアーサー家とタメを張れる名家ですもの。それに二重王国であるこの国では珍しい王位継承が出来る存在ですわ」
「今は王は居ないけど。もしかしたら……だよね」
「二重帝国憲法の条項に乗ってますわ」
「外敵、内敵の脅威によって、必要とあらば皇帝を選出する議会投票を行うんだったね」
「そうですわね。権威と権力を1つにまとめる『リセット』のようにも働きますわ。そして、権威が欲しい馬鹿が私の血を啜りに来てますわね。お金で買えますのでお1つ如何?」
「そう簡単にあげるべきではない。その血を護るためにどれだけの国民の血と樹液が流れたかわからないからね」
「樹液?」
「そう、我々も正直に言うと忠誠心は人一倍あるからね。将軍となって燃えた木々も多い」
「あら、ならば全然王位の血を取っても問題ないでしょう」
「なお、全員。情に負けて一緒に破滅しているから。途絶していますね」
「ははは、そうでしたわね。私にも木々の血があるかと思ったけど、なさそうね」
「ガルガンチュア家は警戒されてたからね。アーサー家は少し残ってるかもしれない。ただ、ちょっとは血の繋がりは残ってそうだけど。調べないとなんとも言えなし、あえてクローン作って継がしているかもしれない。純血種は大切だ。我々のようなまがい物ではなく」
「下に見られるほど悪くない良血でしょ。自信もってもいい名誉な血よ。我が家や多くの家を救った家でしょう。そうまるで聖女のように」
「詳しいね。流石はガルガンチュアの令嬢。バレる事が危ない理由はこれなんだ。そして、ガルガンチュア家を葬る事は……できない」
「口封じなんて古いわ。それにそんな生き方苦しくない?」
「……」
「親の相手と結婚させられて、親の言うことばかり聞いて、親の言いなりはバランスよくよ。それに、隠し事多いと苦しいでしょ。私は息苦しかったわ。だけど、力を手にしたら……自由を手にしたのよ。トルのお陰で」
「確かに窮屈だね。好きな物も見れはしない。隠れてだ」
「へぇ、私は決闘も野球も見るわよ。両方野蛮言われてるけど。別に関係ないわ」
「そうか。きみも見ているのか」
「もちろん。最近ですけどね。トルのお兄さんも苦労人ですわねぇ。一応聞いときますけど虎柄は下品ですよ」
トルのお兄さんに少し怒りの感情が見えた。私は満足し、そして弱味を握った。
「漏れてますよ。怒気」
「……きみも喰えない令嬢だ。ああ、そうだよ」
「良かったですわ。私もですの」
「……なにぃ。まぁ所詮にわかだろう」
「にわかですわ。でも、あなたも生まれて来てない事は知りようがないでしょう」
「馬鹿にしないでくれ。ドリアードは『知識』を残す。『知識』はある」
「本当に?」
「君には語らないといけないようだな。にわかがでしゃばっていい世界ではない」
「ふふ、お手柔らかに」
*
私は魔法で中を伺うが物音1つも触れられず。また、お兄さんの魔法防御を突破出来ずにいた。リリィちゃんには見せられないだろう世界なのでリリィちゃんはお留守番だ。
「トル、どうなってる?」
「むり、強力な魔法で見えない。それも二人ともが対策講じてる」
「……と言うことは」
「私、予想外ですが。ナナリをお兄さんが気に入ったかもしれないです。それはいけない事です」
「どうして?」
「ガルガンチュア家の血がドリアードの物になってしまう。それはガルガンチュア家が人間でなくなってしまうんです」
「……トル」
「なんですか?」
「子供作る予定なんだね」
「ふぁあああああああああああ」
私は言葉の意味を悟り彼を殴りつけて部屋に帰った。恥ずかしいったらありゃしない。
「待ってくれトル。君なら選べる筈じゃないか? 純血種と混血種。産み分けとかも簡単だろう。文献にあったぞ。ドリアードに『助けを求める方法』がな」
「私の血も涙も種もない純血種を生むことに抵抗があるんです!! もっと危機感もって!!」
「君が居れば大丈夫だよ。大丈夫、君なら」
「はぁあああああああああああ」
私は振り返って、イケメンの顔に一発ぶちこんだ。




