船内血まみれ食堂
飛空挺の船内には喫茶店のような食事場があり、船内の従業員から客までテーブルに座って食事をする。
中には弁当も販売されており、流石金持ちの船と言うような潤沢な料理が用意されていた。もちろん親衛隊の方々もおり、全員にナナリとゼロ様が挨拶をして回る。
とにかく、王家の縁を大切にする行為に「大変だなぁ」と言う意見と「私もあんな事をする日が……」なんて妄想しては自分を苦しめた。
「トル、俺と一緒に挨拶回ろう」
「いや、何でよ」
「紹介」
私はお箸に『貫通』『直進』の文字を付与し投げつけ、ゼロ様は持っていた石に『迎撃』の文字を付与して対応する。箸は石を貫通したが。迎撃されて地面に転がる。
「え、トル……その魔法……お兄様の」
「便利ですね。ゼロ」
「ああ、よかったよ」
にらみ合う中でナナリが私の体にくっつき聞いてくる。耳元で囁くように。
「何があったのよ」
「魔法を教えてもらったんです」
「それを快く引き受けたの?」
「……ドリアードとして杖の性能を使われて無理やり『覚え』させられたんです」
「けっこうお兄様。大胆ね」
「はい、恐ろしい。ナナリもこんなに非道な兄を持って大変ね」
「ごめんなさい、トル。あなたに関しては私は『お兄様』側よ」
「えっ」
「気付かなかった? 私はあなたの妹になってみたいわぁ」
私は想像し絶句する。首を振り、涙を流す。
「そこまで嫌なの心外だわ」
「嫌すぎる」
私の泣きにリリィがおどおどしながらハンカチを渡してくれる。それをびちょびちょにして泣きおさまるとリリィはそのハンカチを触媒保管用のガラス瓶に入れる。私はその行為にドリアードの涙を採取されたこと察して余計に友達不振になる。
「くっ、リリィ……あなたは普通だと思ったのに」
「私は魔法使いの特待生なので『結果』を求められるんですお姉さん……ごめんなさい」
世知辛い。凄く世知辛い。だけど、謝る儚げな子に私は抱きつき言ってしまう。
「腕一本でも足一本でもあげるわ」
「お姉さん……お願いしてもいいんですか?」
「トル、それもどうかと思うわよ……あなた腕生えるの?」
「生えます。だいたいの部位は再生可能です」
「お兄様、こんなの本当にいいの? 化物よ?」
「……」
「ゼロ。ちょっとドン引きしてません?」
「いや、ちょっと色々考えて……」
私はゼロ様が腕を組んで唸るのを無視する。何か良からぬ事を考えてそうで聞かずにいると料理が運ばれてくる。パスタ料理でそれをフォークで食べる時に私の感覚が危険信号を生む。
「……毒入ってます」
「「「え」」」
皆の口が止まる。私はパスタソースをなめて、舌で味わいながら考える。
「……痺れ薬です。即効性の」
様子を見るとゼロ様がフォークを落とす。理由はもちろん痺れてだ。リリィは食べるのが遅かったため大丈夫でナナリは首を傾げながら食べていた。いや、食べるなし。
「ぐぅ、どういう事? トル」
「わからないんですが……」
私耳をすますと大きい声と共に大人数の戦闘音が聞こえた。それに気が付いた親衛隊の複数人が身構えようとするが同じように痺れて床に伏す。毒の反応が連鎖するのは何か影響を出しているからだと思われた。扉が開き男たちが入ってくる。私はゼロ様の横で介抱しながら。リリィとナナリは抱きつき。ナナリがリリィを守る。
「この船は『自由の空』が占拠した。ガルガンチュア家のお坊っちゃまはそこだな」
『自由の空』と言う名前に覚えがある。空賊の一派閥であり、船所有権限無視をしている悪賊であり。そして『自分の空』の裏は『王家反対過激派』の支援もあると噂されていた。王家をなくすのが目標の彼らは『平等』『自由』『他国わぁ~』『パラダイスみたいな国を作りたい』と口癖があり、非常にわかりやすい。
誰の下で平和に平等に他国から攻められず。他国よりいい暮らしが出来ているかを説き伏せたいが。彼らは『己の正義しか信じない。己れの言葉しか信じない』と言う聞く耳を持たない集団なのだ。
なので私は早々に話し合いはあきらめており、唾液から中和剤と強壮薬を精製。人差し指と中指2本で口にある薬を手に取り。痺れるゼロ様に囁く。
「嫌ですけど。薬の唾液飲んでください」
それに彼に突っ込み無理やり飲ませ、囁く。
「親衛隊は痺れて使えません。私はあなたと一緒に動きます。痺れた振りをしていてください」
「よし、連れていけ。船をくっつけて物資も全部移すぞ」
「はい、お頭。しかし、客の中に反抗する奴も居るみたいですが?」
「ああ、殺せ。簡単だ。親衛隊だから敵だ」
体が大きい頭が丸い者がトップらしい。私はゼロ様を抱えながら嘘の泣きべそをかく。その私たちに近付き、空賊は服が非常に清潔で驚くほど高価な正装に驚く。
「うぅ、うぅ賊のがいい服着てる」
「山賊とは違うんだ。俺達は」
「ゼロ様起きて……」
「女、そいつを渡せ」
「うぅ、私は彼と一緒に行きます。お願い彼を助けてください」
「ほほう。いい女だ。お前は個室に連れてけ、王子も別の部屋で調教だ。そこの女も王家だ。連れていけ」
私は調教の言葉に不安を覚える。それは『洗脳』を狙っているのだろう。たしかに王子を傀儡にしたら彼に王位剥奪を目指させればいい。最後に残った王家はアーサー家だけとなり。目標に届くだろう。身なりから確かな支援者の臭いがした。私はゼロ様に触れていた事が有効になる。
私たとは別々に連れさらわれる。そのまま親衛隊は拘束され、所々から戦闘音が聞こえたので『占拠』はまだ完全ではない事がわかった。私を連れる男も一人だけな所から、人手がそっちに回されている事がわかる。電撃戦闘の状況なのだ。そして親衛隊は偉い、ご飯の時間をずらしていたから纏まって一網打尽ではなかった。腑抜けかと思ったら相当頑張ってる。
「あの、私は何処へ?」
ゼロ様とは別の場所らしく離れた。好都合だ。
「俺の個室だ。俺が監視する。なに襲ったりしない。人質と身代金。役立つからな」
品のいい賊ですこと。
「では、私は誰かご存知ですか?」
「トル・フランベルジュ。人質にするには安い女だ」
「そうですね。家はそんなに豊かじゃないです」
廊下を歩きながら私は拘束された腕でなく足を使う。スカートで隠して伸ばした根をそのまま尖らせる。仲間が遠いことを確認し、私は転ける。
「しっかり歩け」
「……さようなら」
「は?」
私はスカートの中から根を突き出し顔面に突き入れる。枝の槍はしゃがんだ彼に刺さり赤く染める。そのまま根を切り離して拘束具の鍵を小さな枝で解錠し取り外す。遺体はそのままにして私は『通話』を発現させる。触れていた結果、私は『杖』となっており。そして、ゼロ様の魔法の直接影響を受けている。
「ゼロ、私はここです。わかりますね。助けに行きます」
「一番早めに脱出したね君。どうしようか?」
「この船は鉄製で根では少し、厳しいですけど」
「『探知』で探れないか?」
「戦いなどで魔力が濃くなってわからないです」
「では『良縁』でどうだ? 俺は見えた」
「……見えました」
船の中で方角と向きがわかる。そのまま私は走り出して個室の警備していた賊を見つける。二人だけであり、彼らも慌てて私を見るやサーベルと携帯の魔法杖を抜き応戦する。魔法杖の存在に私は「金持ちの思想持ちの厄介さ」を思い知るが、ゼロ様の『護法』と言う文字の効果で魔法弾は弾く。そのまま腕を尖らせ、枝をくねらせて私は私の秘技を使う。神話の槍を具現化し、貫く。
「ミストルティン!!」
腕の先が枝の槍となり突き入れる。腹に突き刺して枝を伸ばしくねらせて二人同時に貫き。突き抜けた先で腕を切り離し、内側から枝を伸ばして中身からズタズタにさせた。あまりの残酷な方法だが。一瞬で無力化できるため私は情を捨てる。
「ゼロ、助けに来ました」
「早かったじゃないか。俺がでる幕でもないぐらいに手際がいいね」
「……ドリアードですから」
「宿主を守る杖にも盾にも槍にもなる。自己犠牲の種族なのがわかる状況だね。それにこの服は多重防御魔法で強化されてて生半可な剣では致命傷ならない。生地も凄く上質だ。軽装なのに重装備。なのにそれを貫く神槍。本当に隠すの上手いね」
「……褒めてくださりありがとうございます。私はこれから友達を救いにいきます」
「何、大丈夫さ。既にここに集まってる」
ゼロ様がそういうとナナリとリリィが廊下奥から登場し、リディアとその婚約者ヴェル様も登場した。リディアの腕には手甲がはめられて赤くなっており、ヴェル様は何処で手に入れたのかドアを開けるための緊急脱出用の赤い斧を両手に持っており、それも真っ赤になっていた。ナナリも素手や至る所が赤く。もう、既に何人も殺ってる事が伺えた。
「トル、あなたの言う。何かの襲撃イベント起きて嬉しいでしょ。よかったわね」
「ナナリ、本当になるの嫌ですね。それよりもあなた方は令嬢でしょう。なに普通に返り血浴びてるんですか?」
「あ? 俺んちは騎士家だぞ? ヴェルも武器などの商家だけど俺の幼馴染みだからな。昔から鍛えてたんだ」
「まぁ、はい。リディアの婚約者なんで……大変ですね」
「………リリィちゃん」
「お姉さん……私はその。ナナリ姉さまに助けていただいたので……誓って殺しはやってません。護身用の薬剤は持ってきました」
「う、うん」
私は学園令嬢を思い浮かべる。浮かべるがこんな返り血の令嬢なんて想像出来なかった。
「トル、君が狼狽えてどうする。ナナリ、親衛隊の一部はコックピットに引きこもって防衛している。まだ操縦はこっちだ。SOS信号は発しているらしいが如何せん賊船に接近されて身動きが取れないらしい」
ゼロ様は石を持ってそこから『通話』を繋いでいた。私にも声が聞こえる。
「……それでどうする気で?」
「俺が解放された結果、親衛隊には人質無視の玉砕命令が下ってる。俺はそのまま親衛隊の長と連絡を取り……『戦いに参戦の旨を伝えた』。わかるな? 船から全員抹殺。もしくは逆襲を行い敵、賊船を占領する。特攻隊は編成されて今は甲板で戦闘中だ」
「え、解放されたのに戦うんですか?」
「トル、ガルガンチュア家は昔から前線へ赴くルールがある」
「お兄様、そんなの聞いたことないですわ?」
「俺が今、決めた。考えてみろ、ここにトルがいる」
皆の視線が私に注がれそして皆が納得するかのように頷いた。
「回復できる。それも高位な存在がいるからな。トル、君は食道の痺れている彼らを解放し大広間で怪我人救護を『怪我人は大広間へ』を親衛隊全軍に伝える。いくぞナナリ」
「はーい。トル行ってくるわ。首を土産にしてあげるから待ってなさい」
「俺達も行くぜヴェル。俺を護れよ、騎士らしくな」
「はいはい、姫様の危険がないようにします」
私は彼らの背を見ながらそのまま棒立ちする。そして、リリィちゃんが裾を掴み我に帰った。
「お姉さん。行こ」
私はリリィに抱き付く。
「あなただけは令嬢のままでいて」
「そんなことより、治療に専念しましょう」
「ええ、ええ」
「トル姉さんは食道のあとは個室で回復薬製造に徹してください」
「……」
「ドリアードの文献から排出物から沢山の効用があるのですが痛み止めを多くお願いします」
「……船内に医薬品が」
「敵の攻撃で薬剤部屋爆発してます。頑張ってください」
私はもう、後には戻れない事を察する。物語のような令嬢生活はきっと夢物語なんだろう。フィクションなのが納得出来るのだった。




