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愛すべき事を


 私はゼロ様との『二人で遊びに行く』約束で待ち合わせのカフェで一人待つ。早く出て早く来てしまった私は親に何かを聞かれる前に出て来たのだ。


 言えない、ガルガンチュア家と遊びに来ているなんて。とても言えない。


「早いね。おはよう」


「おはようございます」


「朝食かな? 私も頼もう」


「……別に仮面を被らなくていいですよ」


「仮面?」


「はい、私も種族を晒しました。晒されてもいいんじゃないですか?」


「……どこで気がついた?」


「『俺』と言った時に、ああ……これが本当の姿なんだと思いました」


「当主になるときに国民の望む仮面を着けないといけない。それが義務で……そして権威を得る対価だから」


「大変なお仕事ですね。権力もないのに」


「そう、俺はそれでも……『大切にしたい』と思うよ。それが必要なんだから。それに国民のアイデンティティに直結する」


「若いのに使命感たっぷりですねぇ。あぁやだやだ」


「そう? けっこう好き勝手にやらせて貰ってるからね」


「確かに。婚約者ついてないんですものね」


「それはやっぱり……選びたいじゃないか。この苦行を共にする人を」


「…………まぁ私は関係ないですけどね」


「つれないなぁ~」


 素直に感情を吐露されると恥ずかしい。ああ、なんで彼が王家なのか。それだけが……心残りだ。


「げほげほ」


「どうした?」


「何でもないです」


 「王家じゃなければ私はOKなのか?」とそう気付かされる。答えはそうだ。もっとおとなしい家だったらと思う。


「そういえば、君も最初から婚約者いないんだよね」


「それは母親の自由恋愛主義と私の『恋愛がしたい』と言う欲です。何回も言いますが……『居なくて良かったかな』と思ってます。自由恋愛出来ますから」


「どんな恋愛がしたかったんだ?」


「廊下でぶつかり。そこから知り合い。度々の事件を経て友達に。そこから愛をはぐくみたかったです」


「……」


 ゼロが苦笑する。なんとも苦い表情に私は首を傾げる。


「出会い方は違ったけど。少し天然なのかな、トルは」


「失礼ですね。ですが否定もしません。お母さんの血が強いようで……『ぽー』としてしまう時があります」


「本当にわからない? 廊下で会って事件を越えて友達になった」


「えっと………………気がついてます!! 忘れてください」


「いいや、俺は忘れない。物覚えがいいんだ俺は」


「それ悪役のセリフですよ」


「なら、悪戯好きな悪い子だね」


 私は大きく大きく深呼吸をする。仮面の中は思いの外、人がわるい。


「落ち着いた?」


「はい、落ち着いた。悪戯はやめてくださいね」


「それは了承出来ないかも。強い君だから大丈夫」


「……ああ、本当に。では、何処へ行きますか?」


「実はもうこのまま話をするだけでいいかもと思ってる」


「では、付き合ってください。私の買い物に」


「……了解」


 流れを変えるため私は考える。時間を潰す方法を。







 悪手だった。買い物を目的なく行うのはある意味で好みを見せることになり、それに私が気がついた時にはすでに遅く。多くの情報を渡してしまった。


 あれが好きでこれが嫌。これが好み、この食感が嫌い。食べ歩きの中で素直に私の事を喋ってしまう。


「気付きました。観察してますね。私を」


「そりゃ。それだけ喰えばな……日頃もそれだけ?」


「はい、我々は一つ人と交じりいけない事を学んだんです。雑食で食べる物が旨いこと。食べないと生きていけない事を。燃費悪いんです。人間は」


「動く体を手にしたら。食べるために動かないといけなくなったわけだな」


「そうですね。ですから、太陽光だけでは生きてけません。飢餓には強いですけどね。大飢饉の生き残りは大変だったらしいですよ。身なりや健康だっただけで怪しかったんですって。『艶がある、人喰いだ』て言われて。知ってます? 最後は人を食った人の差が出るってことを。『ああ、喰ったんだな』とわかるそうです」


「………」


「どうしました?」


「いや、詳しいね」


「それは実態経験をお母さんから受け継いだからですね。百聞は一見にしかずです」


 異常なほどに有利な体を持つ私たち。それを見せる。


「トル、でもそんな事があると自我はおかしくならないか? 成長と共に……過去の人になりそうだ」


 いい着眼である。


「そうです。だから、ゆっくりと成長と共に継いで行きます。それと『昔の人は』と文言を入れると不思議とそれは夢のような感じになるんです。しっかり対策してます。そこを怠って狂ったドリアードも居るらしいですよ。国立博物館の賢者の杖がその成りのはてらしいです」


「あ、あれはドリアードだったのか。怖くなったよ」


「ああ、怖い話なら。ドリアードで作られた家具が夜な夜な泣いたり呻いたり、家に悪さをする悪霊のような事をしたりするらしいです。ほんの少し使われてるだけでも危ないので燃やしたり。供養したりするといいです」


「いや、本当に怖い話だよ。君もそういう事が出来ると思うと恐ろしくなってきた」


「まぁ、人間じゃないので家畜みたいな物と割り切られると……なかなか残酷ですよ。人間って、搾乳装置として用意された子もいるとかいないとか」


 食べ歩きながら気味の悪い話をする。それと共に、ゼロは悩む。


「一緒になる場合。あまり驚いてばかりではダメだね」


「一緒になるつもりですか?」


「そのつもりで告白した」


「お断りします」


「あーあ振られた。なら、今度また試すよ」


「……」


「雨垂れ、石を穿つ。いや、木を穿つか?」


「穿たれたら死にます」


 頭に手を当てて熱を測る。熱い。困った。


「熱いです。夏ですね」


「今年は冷夏だが? 暑いの苦手かな?」


「……そうですね。熱いのは慣れてないです。手加減してほしいです」


「俺はそれをかわいい弱味に見えるけどなぁ」


「……」


 この人はこんな事を言ってて恥ずかしくないのだろうか。


「今日は敗けを認めますから、許してください」


「……ごめん。いいよ」


「ありがとうございます」


 本当に心臓が過剰に動くからしんどいよぉ……


「本当に……今日は楽しい」


 私はその顔も声もわざと聞かなかったことにする。もうだめになりそうだ。








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