⑯思いをぶつけて
二人きりが私を惑わした。あの後、私自身では制御出来ないほどに急ぎすぎる答えを求めてしまった。
想いをぶつけてしまい、彼女を困惑させてしまったが……引っ込みがつかない所で彼女はそれを受け止めて精一杯。今、出来る答えを出してくれた。
それが恥ずかしくて離れた瞬間物陰で壁に頭を何回も打ち付けたのが昨日の事だ。そんな事で窓際で耽っていると声をかけてくれた。
「おうおう、義兄さまよ。なんだぁ湿気た面しやがって」
「ああ、君は確か……誰でしたっけ?」
「いや、毎日顔と名前を言ってるだろ」
「すまないね。好きなんだこのやり取り」
これを口癖にしないと私は全員を覚えていると勘違いされる。私は彼らは複数だが。私は一人だ。
「ああ、本当に変わってるよ。でっ、何一人で悶絶してるんだ?」
「ん、大一番の大博打を打ってしまってね。当てた事が信じられない状態なんだ」
「ほえぇ、景気がいいなぁ。奢ってよ」
「私より、金持ちの君がかい?」
「金持ちだからって浪費激しいとすぐに金持たなくなるぞ。まぁまぁ、それよりも女はまだか? 紹介しようか?」
「さぁ、どうだろうね。それよりも今日は君も一人かい?」
「クラスにまでは呼ばねぇよ。にしても、学園はいいなぁ。綺麗な子ばっかり。かわいい子ばっかりで」
「たまには妹にも顔を出してあげてくれよ」
「あっ、いや。ははは~すまないな。モテモテだから」
不誠実、不真面目。そんな妹の婚約者だが、逆にこれが商豪らしい息子だと私は考えている。多くの縁が大切であり、血筋を金で買えるほどに自由が効く。だからこそ、妹を婚約者に「出来た」と言える。それが商売のためだと言うのは明らかである。そう、嫁は飾りである。
そんな彼には批判もあるが、まぁわからないでもない。息子の素行が悪いために良血のお嬢様を婚約者にするのに嫌悪感を持つ人もいるのが普通だ。
では、私はどうかと言うと……昔なら同情した。しかし、今は全く同情なんて出来ない。
トルの元で牙を研いでいる潜む肉食獣。いや、蜘蛛の方が正しいかもしれない。油断をすればすぐに多くの手で私をも喰らうだろう。すでに……トルの件で弱味を握られている。
トルにあらぬ噂を耳打ちするだけでいいのだ。絶縁する気なら妹は行うだろう。そう、トルが気になれば彼女には協力してもらわないといけない。
「おいおい、何一人で考えてるんだ?」
「いや、君に少し同情を……妹を見ていないのだろう?」
「ああ、義兄さんの手前……あまり言いたくはないんだが……彼女とはビジネス。恋愛の間柄じゃない」
「分かってる。だけど、気をつけないと……気付いた時には手遅れになる」
「………義兄さんは妹がお好きっと」
「ふふふ、確かにああ見えて可愛い所があるからな。君には勿体ないぐらいに……」
私兵にするなら最高にいい子である。
「なら、義兄さんが貰いなよ。俺はいらないから」
妹をバカにされている。だが、私は話を合わせる。
「俺もいらない。苦労するからね」
本当に苦労する。家で母親に刃向かった瞬間に確信した。ぶたれた瞬間、ニヤリとして母親をボコボコにして鼻血で拳が汚れても気にせず殴り。制止するのを無視したのを何とか押さえ付けて説教した時は兄弟かと疑ってしまうぐらいに恐れた。殺す気だっただろうと思うほど怖かったのだ。
「すまない。妹は……もう」
「な、なんだよ。その含みは」
「………すまない一人にしてくれ」
そんな妹を俺は眩しく感じてもいる。あんな、激しい激情を吐露できるのだから。
*
「あなた、実母をボコボコにしたんですってね」
「俺も驚きだよ」
茶会のいつものメンバー、カフェテリアの一角が珍しく空いていたので私たちはそこを占拠した。そこでお家騒動を教えてくれるナナリに私たちは顎が外れる。リリィは恐る恐る私の変わりに質問してくれた。聞きにくいわ、普通に。
「……えっと……仲良くできなかったんですか?」
「出来ませんわ。昔から私のことを出来損ないの子供として扱い、男に生まれて来なかった事を妬み。散々苛めてたんですもの。育ては全部使用人に投げてるような人を母親と言えるでしょうか? まぁ昨日でスッキリしましたわ。安心して、骨は折れないぐらいには手加減したわ。鼻は折れたかも」
彼女は実母の戦いを誇らしげに語る。道徳感を疑うような話だが。実母も実母で、ナイフを取り出して向けて来たそうだ。なお、蹴り飛ばされて正当防衛として証拠があり、使用人の目の前でボコったらしい。止めたのはゼロ様で……ゼロ様、御愁傷様である。
「あなたのお父さんはなんて?」
「さぁ、無視でしょ。別宅に押し込んでお母様の事を無視してたんですから。愛想つかされてるんです」
「晩年拗らせた感じかぁ……」
「まぁ、まだ若いのでこれからですわ。私がきっちりとお母様を鍛え直すつもりです。それが終わったらお父様に投げます」
ナナリは歳が若いのに、しっかりしてる子だと思える。貪欲に前に進もうとする力は尊敬に値した。
「それよりもお兄さんの話が聞きたいわ」
「この前のすぐに何かがあるわけではない!!」
「お兄さんの事になると荒げるわね? そうじゃないわ……どっちが遊びを誘うのかって話」
「誘うのですかぁ……」
私は嫌がる。素直に誘うのはハードルが高い。
「別に婚約者でもないし、友達でしょ。誘いなさい。ついでに私も……婚約者を誘うわ」
「ほえ?」
私は彼女の最初に紹介してもらった婚約者を思い出す。あの時のナナリは「仕方ない」て表情だったのだが。
「私もお兄さまのように自由に選びたいけど。残念ながら相手が相手で無理よ。なら、色々とね~」
「何を考えてるの?」
「なーに、ちょっかいかけに行くのよ」
私は嫌な予感がする。しかし、悪い笑みで答える。
「面白そう」
「ええ、面白いわ。きっとね」
「……リリィ、俺らはお留守番しようか」
「あ、姉貴さん……」
「「親友でしょ?」」
「俺、もう嫌だ。他人でもいい!! それ俺も後で家族に叱られるよなぁ!!」
「…………私、もしかして。友達になった人は……おそろしい人だったんですか?」
私はリリィの頭を撫でて「変わらないでね」と念じ、立ち上がった。察した彼女は震える。
「出陣です。敵将を討ち取って来ましょう」
「俺らで戦争始まるの? リリィ、短い生だったなぁ……」
「姉貴……」
魔法を唱える。場所を特定、多くの人に囲まれてるモテモテな男性。そろそろお灸を添える日が来たのだろう。彼女の手で。
*
私たちは隠れて様子を見る。ナナリ一人が彼に近付いた。キラキラした宝石をつけている令嬢たちに私は「金持ちだなぁ」と思う。名前はたしか……
「オズヴォルド・ヴェルサス。豪商ですね。金で婚約者を買ったと噂が出るぐらい」
「実際そうなんだろうなぁ。俺んちも金で婚約者にしたって言ってたもんな」
「あなたの場合は幼馴染みで昔からの商売からでしょうが。買ったと言うより投資に近いわ」
「お姉さん、姉貴。近づきますよ」
ナナリが彼に近付いていく。そして挨拶をした。
「こんにちはオズヴォルドさん」
「これは、これはナナリ姫。どうしましたか?」
「少し近くを通ったので声をかけるぐらいは必要と思いましたわ。せっかくで手を握ってくださりませんか?」
「はは、喜んで」
ナナリが握手をせがむ可愛い子を演じるが。リディアが悲鳴をあげる。
「ひいいいい。あいつバカか……あんなことしたら」
「姉貴さん? あんなことしたらどうなるの?」
「猛獣の口に手は差し出さねぇ。手が喰われる」
「あっ……」
二人は察したようだ。そして、オズヴォルドは握手をした瞬間。ナナリががっちりと掴む。そのまま数分たち、オズヴォルドが怪しいと疑い出した時に彼は気付いた。周りの令嬢もオドオドとして様子を伺う。
「は、離れねぇ!!」
「あら? なんで離れようとするの?」
「ちょっとまて!! イデテテ!!」
ゆっくりゆっくり力を入れて握り潰そうとする。
「あなたの薬指は誰のですか? 私のですよね? なら、腕ごと……貰ってもいいでしょう?」
「あああああいでぇ!! くそ離せ!!」
オズヴォルドは空いた拳で顔面を殴ろうとするがその拳が止められて拳ごと握られて潰される。
「両手くださるんですね。ありがとう」
「がぁああああ!! やめろ!! ふざけるなぁああああ!! あだだだ」
「ふざけてませんわ。浮気性の手を罰しているだけですわ~オズヴォルドは名家でそんな浮気をするなんて事はしません。なのできっとこの手が悪いのです」
「や、やめてくれ!! ひぃ」
痛みや、怒りを怖がり。リディアとリリィは抱き合って震える。私はと言うと……ゼロ様に声をかけて来てもらっていた。私だけで抑えられる気がしないからだ。
「両手くださらない?」
「ごめんなさい!! ゆるしてくれ!!」
懺悔する声に導かれたかのように近くにいたゼロ様が駆け込んで登場し、怒鳴る。
「何してる!! やめないかナナリ!!」
「あら、お兄さま?」
「ナナリ、俺からも言っておくから。ここは怒りを治めてくれ」
「仕方ないですわ。親愛なるお兄さまの願いですものね。今日はこの辺にしときます。オズヴォルド……よかったですわぁね。『命拾い』して、流石は商家。豪運ですわ」
手を離し、赤くなった手のまま腰を抜かす彼を高笑いしたナナリに私は恐怖支配の才を見る。狂った感じが凄いする。劇場の悪役を見てるようだ。
「ナナリ姉様が来ます……」
「逃げるぜ、リリィ」
「待ちなさい二人とも、怖がりすぎよ」
私はナナリと合流し、空き部屋に入る。そして感想会が始めた。怖いままではいけないのです。
「私的には普通に面白かった。ゼロ様呼んだの正解でしょう?」
「ああ、やはり呼んだのあなただったのね。いい判断よ……結構引っ込みが下手くそなのよ。リリィちゃんはどうだった?」
「た、食べないでください」
「ふふ、いいわ。でも、味見だけ」
「ひぃいいい」
「おい、怖がってるじゃんやめな」
「実はリディアも怖がったんですよねぇ。リリィを担いで逃げようとしました」
「あら、パンツは大丈夫?」
「あほか!! 俺はそんなにビビってねぇ」
「……握手しましょう」
「おう!!」
二人は仲良く握り合い。二人とも表情が固くなる。
「油断したわ……」
「へへ、驚いた。ナナリ、おめぇそうでもねぇなぁ」
ギリギリと唐突にやり合う二人を眺めていると一人の男性が顔を出す。もちろんゼロ様である。
「なんとか、落ち着いたかな。妹は……いや、落ち着いてないか」
「お兄さま。黙ってて……集中しないと手がなくなる」
二人にため息を吐きながら私はリリィちゃんを呼び寄せる。彼と二人っきりはきつい。
「ゼロ様、ありがとうございます。やはり、誰かがまとめさせるのは大切ですね」
「いや、こちらこそ。妹が流血事件の加害者にならなくて良かったよ。ついでに釘は刺しておいた。目に余る行為が多かったからね。彼は」
「ごめんなさいね。親友が友達を苛めて」
「友達……と言われるような仲ではなかった気がするが、友達は少なくてね。君しかいないんだ……」
私は唾を飲み込み。落ち着き、笑みを向けた。
「寂しい、お人」
「すごくショックだ。許して欲しければ休日に何処か遊びに行きたい」
「使用人と一緒でしょ? 嫌ですわ」
「使用人よりも魔法の才はある。『隠蔽』の文字を刻んだ服で行くよ。認識阻害で、分かりにくい筈だ」
「リリィ、そんな便利な魔法あるの?」
「一般の魔法ではないです。秘匿された禁術です。王家とか名家、お金持ちの家では一般的ですね」
「元々、遊びに出掛けたい王家のワガママから始まった魔法だからね。隠密のような消えるように隠すんじゃ意味がないんだよ。マナーのない大衆伝達員も多い」
「マスメディアゴミニケーション……あらぬ噂は極上の味ってね」
「それを分かってる人じゃないと……少し遊びに行くのも友達になるのも難しい」
「学園ってそういうところ楽よね。全部犯罪者に出来るから」
年に数回は逮捕者がいる。厳罰化されてもいまだに多いのはその情報が金に直結しているからだ。
学園内の密封された情報は金を生む。ただ、第二より第一のが多い。そして、揉み消しも多い。
「王家とか名門って本当に嫌だわ」
「逆に利用してファンを増やせる手段でもあるけどね……ナナリのように。だけど……情けないかな。自分はちょっとあそこまで図太くは生きれないとわかったよ」
私とゼロ様、リリィは決着の行く末を待つ。ギリギリとまだ相手の手を潰そうと握りあってる二人に汗が浮かんでいた。辛いのだろう、きっと拮抗しているから長引く。油断したら一瞬で潰される戦いとなっていた。
「そういえばナナリ、実母を……」
「ああ、もう。誰かが首輪をはめてくれないと増長するだろうね。例えば友達からとか」
「任されました」
「頼みましたよ」
私はそのまま二人に近付き、根で首を掴み、そのまま持ち上げて締め上げて私が勝利を治めた。
「リリィちゃんはいい子のままでいてね? 根で吊るしたくないの。この二人のように」
「………ひぁい」
本当に元気なんですから。




