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⑬暇をもてあました令嬢たちの遊び


 私たちのクラスは熱気がある。だが、それは冷える事がないと言う意味ではない。人間誰しも火を持ち、体温を持つ。この私、ドリアードさえ持ち得る物で燃費の悪い理由だ。


 そう、言い換えよう。このクラスには体温がある。それも高い温度で維持をしなければいけないような……そう。クラスが生きるためには冷えて低体温症になることを恐れる。


 寒くなれば服を着るように、ご飯を食べて燃やすように。私たちは生きるためには『何か』しなければいけない体なのだ。


「暇ですわぁ」


「シーズンオフですものね。ナナリの好きな拳闘」


「そうですわ。夏に修行は鉄板ですわ。そして……冬にある全二重国英雄杯に参加できる名誉を勝ち取りに行きます。それまで暇ですわ」


「おれぇも。暑いけど……なんか違うんだよなぁ。熱がない……こう燃え上がるような」


「そうですか……あれ? ゼロ様が廊下で走ってます」


 私は根で拾ったその映像を見せる。巧みな走法で私はそれに心当たりがある。


「パルクールですわ。軍隊の訓練で行われる走る跳ぶ登るを鍛える。特攻でも撤退でも都市戦でも活躍する訓練から派生した技術郡です」


「へぇ、それ面白そうじゃん」


「お兄さんがねぇ。どうしてそんなものを?」


「いえ、たぶん追いかけられるうちに自然とパルクールのような訓練と考えに行きついたんだと思います。ようは撤退ですから、障害物を乗り越えて引き離す方法で一番いい技です。体の使い方がうまくなります」


「面白そう……ねぇ……クラスでこのお兄さん掴まえてみない? リリィも参加ね」


「え、え、え。私は……体が弱いので……」


「弱いなら弱いなりに考えるのよ。頭で」


「そうです。私なら予測し先回りします。よし、私が見てますよ。実行部隊を編成しましょう。ゼロ様を取り押さえるた者にはどうしましょう?」


「あなたなら……いいの出せるんじゃない?」


「俺がやる気になる奴ないの?」


「そうですねぇ。では必要そうな子にドリアード秘蔵っ子のオリーブオイルの髪手入れセット。ケーキが食べたいなら。今の師匠にお願いして、ショートケーキのホールを私が作ります。リリィには私、直筆の基本魔導書。リディアにはゼロ様を殴る権利をあげます」


「なんで俺が殴る権利なんだ?」


「ぼこぼこにしてほしいわ」


「なんで、お兄さんを敵視するかわかりませんが、逆恨みならお止めになって。今のお兄さんには可哀想よ」


「……仕方ないなぁ。リディアは何がいい?」


「そりゃ……一騎討ちでどうだ? あの腕相撲以外で戦った事がないからなぁ」


「いいでしょう。ですが手を抜きませんよ」


「望む所だ」


 クラスの令嬢の目が変わる。暇をもて余した令嬢がヨダレを垂らした狼のような獰猛な目となる。それに呼応して私はリングの鐘を鳴らし、クラスのドアを開ける。


「狩人の午後始まり始まり」


 牢屋から一斉に飛び出した猛獣たちに私は満足する。


「ゼロ様ありがとう。このクラスの餌になってくれて」


 私は「学園令嬢<楽しいなにか」と頭の構造が壊れる。そう、私はあきらめたのだった。




 その日はいつもの通りに玉の輿を狙う令嬢達を退けた。追いかける令嬢は諦めが悪いのも多い。毎日これでは何も変わらないと思いつつ。自分の理想の令嬢像が浮かび……ため息を吐く。


 卒業後に探す方がよさそうだと考える。そんな中で本来聞こえていい筈のない鐘の音と背筋が冷える感覚が同時に襲ってくる。胃袋の中身が裏返るようなプレッシャーに自分自身のお腹を触った。頭に涎を足らした獣が浮かぶ。


「何が?」


「見つけた!!」


「!?」


 令嬢に見つけられた。だが、おかしい所がある。そう、初顔なのだ。今まで出会った令嬢とは全く違う知らない令嬢が追いかけてくる。それを窓枠など、障害物を利用し撒こうとするが、追い縋ってくる。


「なんだ彼女は!?」


「見つけたよ。待ち伏せ成功!!」


 廊下の前方にまた知らない令嬢が立ち塞がる。手に穴空きの革手をはめて俺に飛びかかる。そして咄嗟に……俺は令嬢の腹を蹴った。蹴った後でゼロ・ガルガンチュアである自分の理想とはかけはなれた行為に驚き。そして、脳が理解する。危険だ。逃げようと。手を出すぐらいに余裕がない。


「な、なんだ。このジットリした雰囲気は」


 沼にはまったような感覚。そして階段を駆け上がり、2階、3階と知らない令嬢に出会い。攻撃をしながら4階へと上がって行く。手を出す事に対する違和感は全く生まれなくなる。気絶なんてしないし、すぐに立ち上がって誉めてくるのだ。『いい攻撃ですね』と。


 違う顔、違う体型なのに同じ言葉を発する。それが集団で追いかけ、気付けば屋上に逃げ道を見いだす。完全に追い込まれている事を感じながら個の限界を感じながら……汗だけが流れ続ける。


 打開策は……一か八かの方法だけである。屋上の両扉を開くと。一人の少女が立っていた。小さい体に不釣り合いなリボンが特徴なそれでいて儚げな少女だった。震える姿に申し訳なく感じる。怖がらせたようだ。


「ひ、ひぃ。だ、だれですか?」


「すまない。今、追いかけられてて……その屋上で隠れるからお願いがある。黙っていてくれないか?」


「わ、わかりました」


 怯える少女にお願いする。そして、慌てて逃げ隠れる。彼女を信用してしまうほどに今は絶対絶命なのだと頭が理解する。他の屋上に来ていた令嬢たちは奇異な目を向けていたが……どうみても異常なのだ。それが伝わらないほどに巧みな包囲網だった。落ち着いて息をととのえる。


「……ああ、彼女の顔が思い浮かぶ。トルさん……だろう。ここまで統制するのは……」


 そして違和感もある。妹をみないのだ。妹は前線に出てくる筈だと思われるのだが。


ガチャガチャ!!


 屋上に大人数が現れる。用意している手鏡で様子を伺う。そして……私は裏切られる。


「皆さん……あそこです」


 それはまるで……狼だ。横に広がりジリジリと迫る。アリ一匹も逃さないような。真面目な表情で……そして、私は苦しむ。無垢そうな彼女が最初から用意された罠だったことを。無垢そうで大人しい雰囲気だが。それを置いたトルに恐怖する。


「……はぁこれは切り札ですね」


 屋上、壁はない。だから、2m以上のフェンスをよじ登りそのまま飛び出す。飛び出す瞬間にねじり、魔法で足の靴に摩擦力を強くする。出っぱりに手をつけて一階一階と手を離して降り、手をつけて降りを繰り返す。レンガの出っぱり。レンガの隙間に靴がピタッとくっつくように張り付く。そのまま、石畳の通路の地面に降りて顔をあげた。


「流石についてくる奴はいないか……」


パチパチパチパチ


「!?」


 拍手、乾いた拍手の先を見ると……通路先から妹が手を叩いて登場する。わかっていたような表情で満面の笑みを向けて。


「素晴らしいですわ!! パルクールと言うのはこうも素晴らしいスポーツですのね!! 激しくも脈動感があり、そして大胆なコース取り……お兄さん。見直しましたわ」


「俺っちも追いかける側が良かったんだけどさ。まぁ、あれだよな。エースってやっぱ最後に来るもんじゃん? かっこよく」


 コース取りをトルにバレていたようだ。


「途中、気付きましたよ。あまりにも、統制と動きの良さに。1日でできる運動量じゃないです。そんなクラス。珍しいですから」


「お兄さん。チェックメイトです。敗けを認めてください。するとトルは皆に報酬を用意しますわ」


「そそ、俺っち。そっちに興味あってさ。ゼロの兄貴には興味ねえぇんだ。でも、クラスメイトとの戦闘で気が変わっちまったよ。トルと戦う前にウォーミングアップに付き合ってくれねぇ?」


「女性を殴る趣味は……ないんですが……」


「おっ手加減してくれるのやっさしぃ~」


 「散々今さっき殴っておいて私は何を言ってるんだ」と思ったが。考えを改める。


「クラスを私物の私兵化するなんて、驚きですよ。切り込みが得意な令嬢。参謀、そして……リーダーとしてのナナリ。恐ろしい」


「そうですわねぇ。私兵ぽいんですけど。みーんな個人の意思で『遊んで』いるだけですわ。もう、私も満足です。必死に逃げ回り疲れきったその表情で……ごはん美味しいです。今は鬼を決めて学園内で鬼ごっこに興じてますわ」


「どいてぇ!!」


 上から、くだんの令嬢の一人が降りてくる。屋上から降りたのだろうか。着地を悠々とし、そのまま走り去る。それに追いかける令嬢も降りて罵詈雑言を吐きながら走り出した。ここだけ、世界が違うような……狂気な夢を見ているようだった。


「ああ、俺っちもそっちに……えっトル。あいつが鬼に!? へへ、そうか決闘か。わかった……まってろ!!」


 妹を残し、誰かと会話後にリディアお嬢が走り出した。妹はそのまま近付いてくる。


「呆気に取られてるけど。私のクラスはこんなお馬鹿なんです。子供だからですわね」


「……」


「トルから、いい意見を。『婚約者は捕まえた人とするばいいのでは?』ですって」


「それはずっと追いかけられるじゃないか?」


「時間を設ける。場所を設ける。条件がないから追いかけてくるんですわ。早く決めるがいいでしょうけど。お兄さんの理想……高いですものね」


「理想を下げるのは容易い……しかし、家の事がある」


「そうですわね。お父様が放任主義ですから。あっお兄さん。3勝1敗ですわね」


「……はぁ、本当。破天荒な妹だ」


「自分の胸に手をあててくださいまし」


 本当、彼女の周りは何故こうなるのだろうか。






「ゼロ様、条件つけたんですね」


「ええ、あなたの言うとおり。条件をつけて秋にやるらしいわ。テストを」


「ふーん」


「参加しないの?」


「婚約者になるためにそこまでしますかねぇ……」


「王家じゃなかったら?」


「やる」


 私も同じだと察し、考える。狩った方がいいのか私も。





 




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