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⑪甘い幸せな味


 午前が終わる世界、令嬢の優雅な午後の始まりを刻、一刻と迫る中で。リディアとナナリは引戸を開けて待つ。


「この王立第二学園は王立第一学園よりも素晴らしい所が実はありますわ」


「ああ、俺もそれに関しては知らなかったな」


「そうですわ。ここのカフェテリアではスイーツが買えるのですけど。そのスイーツを卸している店が問題なんですよ」


「一見さん、王家はお断り。王家御用達の看板を捨てた店だよな。婚約者から聞いた……」


「そうですわ。王家に出すような物を皆にも楽しんで貰うためや、新、王家向けの料理人の成長を願うために勇退したのです。わたくしは王家ですが……店に入り、買える唯一無二の場所でした。全く盲点でしたわ」


「ああ、婚約者でも手に入れるには難しいと言うケーキだ。味の保証のため、弟子に厳しいが弟子のでもうまい」


「そうです。なら……師匠は一回食べてみたいと思いませんか? 弟子と同じ美味しさなら、それを一回味わい……その心意気に敬意を払うべきです」


 師匠は今やほとんど王立第二学園に卸していた。学園の広報や学園ないの子供にという事でだ。そして弟子が外で頑張っている。師匠が宣伝すると弟子が潤うと言う循環だ。だが、この師匠……跡継ぎが弟子内で戦わせており。弟子たち全員の投票でその年の若頭が決まるぐらいに厳しい世界だった。なお、それでも王家や名家はお断りである。裏切り者の弟子たちもいるが。スイーツの世界では神である人だ。


「そうでしょう? トル」


「トル、そうだよなぁ」


「えっと……そんなに? リディアはそれ『カッコいい』と言うよりかわいいよね?」


 私はチャイムを待つ彼女達にそれを問う。と言うか弟子の腕もいいので師匠ケーキそのまま食べられる時代だ。


「わかりませんのそれは『格』ですわ」


「強奪戦争なんだ。俺はそれに勝つ。カッコいいだろ」


「トル、不戦勝ですの?」


「えっと……『そこまでしなくても』と思うのです」


「そりゃ全員に言いなよ」


 そう、学園では取り合いがある。そして私たち低学年は遠い場所故に取り合い参加率が低い。しかし、低学年でも手に入れた場合。それは学園内ではステータスになる。あわよくば仲良くなるために……用意すればイチコロである。しかし、この両名は他の事も狙っている。


「6勝3敗を広げてやりますわ」


「5勝だ!!」


「今日で6勝ですわ」


 そう戦いの目的としている。チャイムが鳴り出し勢いよく二人は教室から飛び出る。「廊下を走るな危ない」は関係ない。勢いよく出た。


「さぁさぁ!! どっちが勝つか賭け事だよ!! オッズは集計後発表だ!! トル姉さん。前評判お願いします!!」


 そしてそれを賭け事にする阿呆な、同級生に私は伝える。


「ポテンシャルはリディアの方が高いね。昔ながらの体力で到着も速いでしょう。それに対し、コース研究で勝ちを狙うナナリはちょっと不利かしら」


「おおおっと!! オッズがナナリの方が大きいぞ!! 結果は!! 帰って来てから発表だぁああ!!」


 私は……個人的にリディアに賭けた。1.1倍なのであんまりだが。流石にと思う。


「さぁ、皆で状況見ましょうか」


 私は黒板に魔法で実況を写し、クラスの中心で娯楽を提供するのだった。





 ガセボが占拠出来た私たちの目の前にケーキは3つある。箱に入ったケーキは3つ。イチゴのショートケーキはお一人様、おひとつ……そう私も買ったのだ。


「トル、あなたがこっそり居てびっくりしましたわ」


「そうそう、先について買い終わってるのを見て流石な俺もチビったぜ」


「ばっちぃ言い方をやめなさい。それにしてもよく追い抜けたわね? トル」


「分身体ですよ。あれは私の木で出来たゴーレムです。前もって用意しといたのです。認識阻害を埋め込み……色々苦労しました」


「ふん、これは私たちが見破れなかったから負けね」


「ああ、畜生。ゴーレムかぁ……なら処理は簡単だったな」


「そうですね。文字を一文字消せば燃えましたね」


「それはそれで迷惑ね」


「そうですね迷惑ですが有能です。なお、本来は綺麗な容姿で毒や疫病を両方染み込ませて用意しておき。戦場で捕虜となって、抱かれれば上官を毒殺。兵士には疫病を撒き。バレればそこで抱き付いて燃えて撒き散らす……と。最悪な品物です。以降の戦場では捕虜に手を出さない理由になりましたね」


「怖い事を考えるわね」


「生存のために心を失うんです。私たちは」


「怖いぞ、まじでチビるぞ俺!?」


「ふふふ、怖いならそこに私のゴーレム倒れてますよ」


「いや、怖い!?」


 リディアの反応が面白くてついつい苛めてしまった。


「でも良かった。二人とも買えて……買えなくて悲しい想いをすると思って準備したんですけど。邪魔でしたね」


「あら、気をつかわせたかしら? そんなのわたくしには無用でしたわねぇほーほほ。でも、あなたが買ったケーキをいただきますわ。代わりに私のを交換です」


「おっ、なら俺も交換しようぜ……まぁ同じ奴だからな」


「ええ、同じですね」


 3人で交換し、笑い合う。そして……期待せずに一口含んだ瞬間に私は戦慄した。ショートケーキのクリームにイチゴの風味にコクがあり。こっそりとイチゴの汁を加えている事が伺えた。イチゴも薄切りにスポンジとクリームも共に食べられる工夫。そして、クリームに練り込んでいるイチゴのお陰で薄切りでも問題のない表現がされていた。スポンジはきめ細かい感触に甘さが控えめでイチゴクリームを立たせている。


 完全に計算された黄金比。完全に素晴らしい舌を持つものを唸らせる逸品。弟子が真似て完成させるのが難しいと言われる理由に私は納得する。


 何も加える必要がない。そう、ショートケーキを突き詰めたシンプルながらも深い深い味に震えだす。


 しかも、私はドリアード。イチゴたちが辿った歴史がクリームと混ざり。師匠の人生を垣間見る。それは感動する物語だった。


「うぅ、うぅ……あの人……初恋の人の……味なんですね……」


「トル!? うまいけど泣くほどうまい!?」


「えっ、えっ!? これうまいけど!? 俺も泣けるほどじゃぁ……」


「いえ、ごめんなさい。ドリアードの能力がね、強引に

覚醒して。イチゴの実と混ざったクリームに師匠の悲しい甘酸っぱい歴史が浮かんだんです。初恋の人は……病死してます。これ食べて……うぅうぅ」


 こんな物語のような恋愛人生。恵まれないからこそ悲しくも美しい世界があった。そして……今は……笑顔で作っている。


「うぐぅ……うぐううう」


 ボロボロと食べながら私はケーキを噛みしめたのだった。





 私は生涯忘れられないケーキを食べた次の日……居てもたってもいられないので……師匠の初恋と思われる人の墓まで来て私の頭の花を添える。朽ちるには数年もかかるだろう。勝手にそんなことをと間違っているだろうけど。人生を見てしまった私には他人事には思えなかった。これがドリアードの蓄積する記憶だ。故に私達はずっと覚えている。


「勝手にお供えする愚行。申し訳ないですが……いえ。もう墓には居ませんね。きっと……」


 成仏するには遅く、だけど速すぎるだろう。予想が正しいなら。きっと……彼女は居る。


「おや……珍しいですね。彼女の家はもう……」


「えっ……っと。こんにちは……ウィルさん」


「流石にわかりますかね」


 丁寧な紳士的な服装で彼も顔を出しに来たみたいだ。見た目から中年、ただ師匠と言われるには若い人だった。ここはなかなかの高級墓地、いい家の子が多い。


「はい、第二学園の学生です私は」


「そうですか。では、私の自伝本でも読んでここに来た感じですか? 若いのに……変わった心かけを……」


「……他人事のような気がしませんでした。それに残念ですね。彼女はここに居ませんでした」


「君は……見えるのかい?」


「その、少々……能力がございまして。深くそういう物に詳しいと言えばわかると思います」


「そうか……なら、月一でお見舞いは要らないのかな?」


「いえ……ここに居ないだけで……忘れていない人の元に風となっています。すべて忘れられたと思われた場合。成仏出来ます。忘れられてるので引き留める方々が居ませんもの」


「………その話しは本当かい?」


「本当と思います。不思議な事がありませんか? 何か心当たりとか……ここまで強い想いであれば……表に出やすいです」


「霊感は全くない方なんだが……でも心当たりがある。こんな中年ですが。少しお茶でもどうですか?」


「はい、喜んで」


 私はホイホイとついていき。そして指にはめられた指輪を見る。結婚はしているのだろう、そう思いながら彼についていった。




 彼のお店に案内され、お茶とお茶菓子が用意してくださる。それを堪能し、落ち着いた所で話を聞く。


「そろそろ、不思議な体験をお話しください」


 道中では私のクラスの話をする。非常に興味深い話だったのか笑いながらも聞いてくれた。そんな中で彼は時に寂しい顔をする。青春を思い出すのだろう。その甘い青い春は少しビターで、そして少し塩っ気が強いだろう。


「わかりました、お嬢様。そうですね、不思議と言えばショートケーキのお話しです。私は同じ方法、同じ分量、同じ時間で作ったショートケーキの味に違和感を覚えるのです。弟子の試験では全く同じ物をと作らせていますが……」


「自分の作った物と味が違うと言うんですね」


「ああ、それが……弟子たちもわかっており。神聖視してます。不思議ですよね。全く同じ物を作っているのに……私のケーキばかり褒められるんです」


「それは不思議ですね。弟子も真似て作っても真似られない。それは変です。でも、本当に同じ物何ですか?」


「……同じ物じゃないのかい?」


「そのケーキは誰のために作り続けてますか?」


「それは自伝で書かれてる通りだよ」


「エリフィルさんですね」


「君どうしてその名前を!?」


「墓に書いてますよ」


「い、いや。待ってほしい。そういえば自伝書に墓の場所と名前は書いていないと思う。そうか、君は本当にそういう能力があるのかい?」


「あります。生で見てきました。あなたの人生を私は知ってます。そして……残り続ける後悔を。あのショートケーキは間に合わなかったんですね。自伝書では『その時のショートケーキ』ですが。本当は……」


「……ああ、そうだ。私は未熟だった。腕が上がれば上がるほど……昔に作ったケーキを思い出す。彼女が『美味しい』と言ってくれたケーキが」


「本当に美味しかったと思います。それは間違いじゃないでしょう。でも……完璧ではなかった」


「ああ……その通りだ。だから……後悔がある。今ならもっと良いものをと……思えてならない」


「気持ちわかります。だけど、仕方ないじゃないですか……涙交じりで作ったら手元が狂ってしまいます。塩気なんて入ってないのにそう思わされるような物……ふふ。彼女は冗談でそんなことを言ったんですよね」


「ああ、泣き虫だからね。私は」


「それでいいんです。作ってあげたいと想える事が一番大切と私は思いますし、彼女もそう想っていたと自信もって言えます。では、不思議のお答えをいいます。それは……隠し味です」


「隠し味? 何も不思議になるものは入れてないよ?」


「いいえ、確かにそこに思い出と想い出が入っています。一種の魔法です。『美味しくなってほしい』と願う魔法です」


「魔法……確かに火の魔法は使いますが……」


「いいえ、入れている方はウィルさんではないのです。だから気が付かないんです」


「えっ……他に誰か?」


「エリフィルさんです。これが不思議の答えであり、誰にも作れない。魂に甘さを感じさせる隠し味です」


「それは……嘘だろう?」


「実際、不思議な影響出ているじゃないですか。精霊術や聖霊など。この世で論文が書かれるほどに身近ですよね? だから私は『墓には居ません』と言いました」


「じゃ、じゃぁ……」


 私は頷き。顛末を語る。


「こんなに愛される。思い出して貰える存在は稀です。霊とはそんなにも不安定です。悪霊も聖霊も全て等しく認識して貰えないと存在出来ません。ですので……きっと……お礼のため、魔法をかけてるのです。ずっとずっと……それぐらいに嬉しかったんです。失敗作なんて物は本人にはどうでもいいんですよ……ですが」


 私は目を閉じて首を振る。


「逆に生きているのを縛るのも心苦しい物です。だから魔法を変えました。霊には舌がございません……伝える方法も少ないし無いに等しい。それほど死は近く遠いんです。遠い伝え方で……いつか私の代弁者をと願い。想い出も混ぜたのでしょう。そして、私がその代弁者です」


「あ、ああ……そうか……そうだったのか」


 男の瞳に輝くものが流れる。嗚咽が店に響き、白いもやが彼に触れる。彼女が触れていた。


「代弁します。『ありがとう。美味しかった』たった。これだけです。彼女が伝え続けているのは」


「うぐぅ……ううううううう」


 聞いているだろう。生前と全く同じ言葉だ。彼の耳には確かに私の声ではない彼女の声が響いただろう。


「死は近く遠いです。ですが……ずっと歩いてる私たちを後ろから止まって見続けてます。では、私は失礼します。ごちそうさまでした」


「うぅ、うぅううう」


 言葉にならない嗚咽が続く。悲しくも嬉しくもあるだろうその涙の色を私は予測しか出来ない。何故ならそれは彼だけの物語なのだから。私は立ち上がり、全て聖霊の導きがあったのだろうと納得しながら家に帰るのだった。


 さぁ、何事もない。明日がやってくる。私たちは『生きて』歩いているのだから。





「あなた、大丈夫? カビ菌性病って聞いてたけど……」


「ナナリが、そわそわしててくっそ面白かったぜ、昨日」


「はぁ!? 死んじゃうかも言って号泣してた人よりマシよ」


「おま!! そんなことしてねぇ!!」


 私は休むために言った嘘はどうやら結構、迷惑をかけたようだ。満面の笑みで……「大丈夫」といいながら。説明する。


「部位を焼けばいいんです。焼いた痛みはそれは我慢できず泣き上げて眠れないぐらいです。痛みをごまかすために暴れるんです。これでは学園には来れませんよ」


 嘘を言う。内申点のために。ずる休みはしてはいけない。


「ふん、なるほどね。あなたのお見舞いが断られた理由はそう言うことね。危ないから」


「はい」


「元気ならいいな!! そうそう、今日からケーキ屋休むらしいぜ。弟子に伝えたい事があるんだって……」


「そうらしいですわね。びっくりですわ~」


「あら、たまたま食べれて良かったですわ」


「そして……早朝に彼が来てこのクラスの子にこんなの置いたらしい」


 ケーキ試食会への招待。それも弟子含めた会食。ゴールドチケットだ。


「あら、素晴らしいですわね?」


「……ケーキ屋さんがわざわざこのクラスによ? 噂はないけど変じゃない?」


「そうですね。適当に選んだんでしょう。抽選です」


「昨日休んで、今日のこの事に心当たりないですか?」


「さ、さぁ」


「では……参加したら『誰』が声をかけられるかわかりますね?」


「お、お腹いたいかなぁ~。断ろうかなぁ」


「クラスに説明義務があるようね。リディアの直感は正しいわ。顔でわかる。嘘を隠してる。ええ、ええ、私は実は嘘を見抜くのが得意なのよ? あなた、おでこを触る癖があるわ」


「えっ」


 私はおでこを撫でてしまう。そして察した。


「有罪、確保よ!!」


 今日も私のクラスは令嬢に似つかわしくない。退路封鎖と集団的拘束方法を実戦する。私は本気を出せない。故に詰みである。クラスの魔方陣が発動し魔法を禁止する。対抗手段は力である。


「抵抗しないの?」


「逃がしてください」


「い~や」


 私は革靴が焦げるほど高速に移動を初めて戦闘が始まる。弱味を握らせないために令嬢と戦う。






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