山に向かいます
フィル君はエリアンナさんのためにポーションを持ってくると言うので、俺は一人でギルドに戻ってきた。
受付のサラさんに報告を済ませる。
「そう! 解毒できたのね。良かったわ」
サラさんは両手をパチンと合わせて瞳を輝かせる。そしてホッとしたように微笑んだ。
「はい。大した水魔法でしたよ。それでは俺は今から薬草採取に行ってきますね」
山の六合目までファルファナ草を取りに行くことにする。
エリアンナさんの解毒は済んだけど、上級解毒ポーション不足を早く解消しなければいけない。
「それがね、さっき山の三合目でイビルスネーク一体の目撃情報が上がったのよ」
「A級の魔獣ですね。六合目の巣穴から下に掘り進んできたんでしょうか。それでは、そいつもついでに討伐して来ます」
「何匹いるか分からないから、無理はしないでね。何匹もいそうならすぐに逃げるのよ」
「分かりました。十匹程度なら一人でもいけますし、中級解毒ポーションも多めに持って行きます。無理だと思ったら上空に逃げるので大丈夫です」
ギルド内の売り場で中級解毒ポーションを買い足すと、山に向かって飛び立つ。
三合目上空まで到着し、辺りを見回すと、黄色い巨体がうごめいているのが確認できた。
「あいつか……」
周辺を注意深く見るが、確認できるのは一体だけ。どこかに仲間が隠れているかもしれないので、気を引き締める。
イビルスネークの表皮は硬く、至近距離からの強い攻撃でしか首が落とせない。
巨体なのに素早く、岩をも砕くほどの力で体当たりしてくる。その上、毒の息も吐いてくるというなかなか厄介な相手だ。
体の周りに風のバリアを張り巡らせる。
急降下し一瞬で距離を詰め、風の刃で首を落とす。
その瞬間を狙ったかのように、三方向から同時に三体のイビルスネークが襲ってきた。隠れて機会を伺っていたようだ。
「──っっ!」
避けきれず三体の体当たりをまともにくらい、風のバリアが相殺され解けてしまう。イビルスネークはバリアに弾き飛ばされながらも口を大きく開け、毒の息を吐き出した。
毒をまともにくらいながらも、風の刃をそれぞれに飛ばし、三体の首を落とした。
仕留め終わるとすぐ手足が痺れてきたので、急いで解毒ポーションを飲む。
状況を再確認するため、上空に飛び立とうとした瞬間、四方向から同時に蛇が飛び出してきた。
これは……ちょっとまずいかもしれない。
* * * * * * * *
「イビルスネークですか?」
ギルドに戻った私は、受付の女性から話を聞いた。
「そうなんです。アルト君は飛べるから大丈夫だとは思うのですが、心配で」
「それでは私も向かいますね。私に毒は効かないので、力になれると思います」
「お願いします!」
目撃情報のあった場所を確認し、急いで山へと向かう。山の三合目までは、走って四十分程の距離らしい。
とにかく走り続けて山を登っていく。
「何これ……」
目撃情報のあった場所に到着すると、そこには異様な光景が広がっていた。
そこかしこに散らばる無数のイビルスネークの残骸。一体どれだけの数がいたのだろうか。
とにかくアルトさんを探そう。
そう思い、イビルスネークの残骸の付近を探すと、仰向けに倒れている人物を発見した。
「アルトさん!」
私は、ボロボロの灰色のローブを身につけた、アルトさんらしき人物に駆け寄った。