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解毒

 ヒノモト食堂という場所まで、ギルドで出会った男性、アルトさんに連れてきてもらった。


「マイク、マリアンナ、いるか?」


 扉を開けてアルトさんが呼びかけるとすぐに、ガランとした薄暗い食堂の奥からバタバタと足音が聞こえてきた。


「アルト兄ちゃん!」

「あるどにぃぢゃぁぁあ」


 幼い兄妹が走り寄ってきて、アルトさんに抱きついた。

 兄はグッとこらえているようだが、今にも泣きそうな顔だ。そして妹はすでに枯れそうなほど泣いていて、涙でぐちゃぐちゃになっている。


「さっき帰って来たところだ。エリアンナさんに何かあったのか?」

「こっち来て!」

「うわぁぁぁん」


 二人はアルトさんの手を引いて奥の部屋へと連れて行くので、私も後を付いていった。


 そこには、ベッドで眠っている若い女性がいた。

 兄妹達と同じ茶色の髪をしたその女性の肌には、紫色の斑点が浮かんでいる。


「これはベニヒュドラの毒か……君、解毒できそう?」

「はい、問題ありません。君たち、小瓶があったらもらえるかな? 無かったら小皿とかでもいいよ」


 兄妹に声をかけると、兄のマイクは急いで食堂へ行き、小瓶を持って戻ってきた。

 私は小瓶を受け取り、女性の横に移動する。


「少しだけ傷をつけるけど、後でちゃんと治すからね」


 兄妹に知らせてから女性の右腕にナイフで小さな傷を付け、そっと手のひらを乗せて集中する。

 血液中に魔力を巡らせ、少量の血液と共に毒を集めていく。強い毒は消滅させることができないので、異物として体から取り除くのだ。


 毒を全て集め終わると、瓶に入れて蓋をした。

 傷口にそっと手をかざし、聖魔法できれいに消す。

 私の聖魔法の力はあまり強くないが、小さな傷程度ならすぐに治せるのだ。


「毒は全て取り除きました。あとはしばらく休んだら元気になるでしょう」


 肌に浮かんでいた紫色の斑点は消え去った。眠っている女性の表情は少し穏やかになったように思う。


「母ちゃん!」

「うわーん!おがぁぢゃぁぁぁ」


 緊張の糸が切れたようでマイク君もこらえていた涙をあふれさせ、二人は母親に抱きついた。


「本当にありがとう。しかし見事だね。体内から毒物を取り出すほどの水魔法は初めて見たよ」

「どういたしまして。それにしても、ベニヒュドラの毒って稀少で高額な物ですよね。一般にはまず出回らない物だと思うのですが……」


 ベニヒュドラの毒は稀少で滅多に手に入らないもの。一滴でも五十万Gほどするはずだ。

 運悪くこの毒を受けるなんてことは考えられない。


 この毒を受けると、緩やかに体が蝕まれていき、数日経つと肌に紫色の斑点が浮かび上がる。

 徐々に斑点が増えていき、全身が紫色に染められると死に至る。解毒しなければ七日ほどで確実に死ぬ毒だ。


「マイク、何か心当たりはあるか?」

「ううっ、ひっく、えっと、母ちゃんが体調を崩し始めたのは、三日前くらいからなんだ。気づいたら斑点が出てて……町医者に見てもらったら上級解毒ポーションが必要だけど、在庫が無くなったばかりだって言われて……そのままあわててギルドに薬草の依頼しに行ったんだ。母ちゃんどんどん弱っていって、起き上がれなくなって……そしたら、今日の朝早くにアイツが来て『解毒薬を持ってるから治してあげる。その代わりお母さんと結婚させてもらうよ』って言ってきて……」


「アイツって、あの商会の息子か? いつもエリアンナさんに言い寄っていた」


「そうだよ。カッとなってすぐに追い返したんだけど、母ちゃん苦しそうだし……母ちゃんが死ぬくらいなら、アイツの言い分を聞いて解毒薬を貰って来ようかって悩んでて……そしたらアルト兄ちゃん達が来てくれたんだ」


「その男、怪しいですね。ギルドでも上級解毒ポーションが急に売り切れたって言ってましたし」


「そうだね。その件はギルドで調査してもらおう。一応もう大丈夫そうだし、ギルドに報告に行こうか。えっと、君はフィル君って言ったっけ?」


「そうです。私は先に体に優しいポーションを貰ってきて、エリアンナさんに飲ませてから行きますね」


 エリアンナさんの体はだいぶ弱っているはずだ。エル兄さまなら、今ある材料で、エリアンナさんに合ったポーションをすぐに作ってくれるだろう。


「分かった。それじゃ、先に報告して来るね」


 アルトさんはそう言い、ギルドへと向かった。


 私も食堂から出て、通信魔道具でエル兄さまに連絡をとった。

 店舗の場所を聞いて向かっていると、リーンちゃんが前から走ってきた。迎えに来てくれたようだ。


 店舗の場所は、ギルド前の大通りを五分ほど歩き、路地に入って少し歩いた所だった。


「ここかぁ。大通りの裏手で人通りは少ないけど、ギルドから近くていい場所だね」

「うん。大通り沿いなんてエルさん絶対無理だしね。売る商品はS級だから、すぐにお客さん沢山来てくれるようになるだろうし」


 店の中に入ると、エル兄さまは小福ちゃんとソファーでゴロゴロと転がっていた。


「あー、お帰りぃ。着いて早々お疲れさまー」

『キュー』


「ただいま。エル兄さま、くつろいでいる所悪いのですが、ポーションを作ってもらえませんか?」


 事情を説明すると、エル兄さまはすぐにポーションを作り始めてくれた。

 材料を手際よく調合しながら、眉をひそめて会話を続ける。


「うわぁ、ソレ絶対その男が犯人じゃん。サイテーだねぇ。結婚させられる前に間に合って良かったねー」

「ほんと、一発ぶん殴ってきてやろうかしら」

「リーンが殴ったら首が飛んじゃうでしょ。ダメだよー」


 リーンちゃんは手加減が苦手なので、確実に首が飛ぶだろう。男は許せないけれど、それだけは絶対に止めた方が良い。


 数分でポーションは完成し、エル兄さまは小瓶に詰めた。


「はーい、出来たよー」

「ありがとうございます」


 兄さまからポーションを受け取り、今度はリーンちゃんも一緒に食堂へと向かった。


 エリアンナさんはぐっすりと眠っていたので、兄のマイク君にポーションを渡し、起きたら飲ませるように言った。

 リーンちゃんは、お腹を空かせていた兄妹にご飯を作ってあげることになった。リーンちゃんは料理上手なのだ。


 私は一人でギルドに向かった。


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