誕生日
黒龍討伐と瘴気溜まりの浄化が無事終わり、父さまと母さまと一緒にお店へと帰った。
「……山に行ってきてもいいか?」
「うふふ、ダメよ。明日には北に向かうんだから、今日一日くらいはおとなしくしていてね。せっかく被害なく討伐できたんだもの。ラドに迷惑かけちゃダメよ」
「……わかった」
父さまは討伐が呆気なく終わり物足りないようだ。ふらりと山へ行こうとしたが、すぐに母さまに引き留められた。
父さまは手持ち無沙汰に部屋の中をうろうろとし、母さまはリーンちゃんが淹れた紅茶を飲んで、居間でくつろいでいる。
「エルがたまに転移してくる時に、いろいろ話を聞いているわ。頑張っているみたいね。私達も復興資金を稼ごうとは思ってるのだけどね。父さんたら、全部灰にしちゃうんだもの。討伐完了の証は残らないし素材も集められないし、周りへの被害を出して弁償しなくちゃいけないし、なかなか貯まらないのよね。むしろ減っていっているわ」
母さまはもう慣れたものなので、穏やかに話し、ふふふと笑っている。
「父さまだし、仕方がないですね」
「おじさんだもんね」
「そうだねぇ、仕方がないよー。まぁ、俺達で何とか頑張るよー」
私もリーンちゃんもエル兄さまも、父さまのやらかしには慣れっこである。
『キュッキュキュー』
小福ちゃんは母さまの近くではしゃいで跳びはねている。母さまからは聖気が溢れ出ているので、心地良さそうだ。
* * * * * * *
「ねぇ、アリア。あなたアルトさんに恋してるわね」
夜、母さまと二人で部屋で過ごしていると、何の前触れも無く聞かれた。
「ほえっ? なっ、なななんで、そんな、ことっ」
いきなりの質問に動揺を隠せない。
「あなたを見ていて何となくね。で、どうなの?」
母さまにじりじりと詰め寄られる。笑顔なのに圧がすごい。
昔から母さまには何でも見破られ、隠しごとを隠し通せたためしがない。
「……好きです。すごく」
誤魔化しても更に詰め寄られるだけなので、恥ずかしいが素直に答えた。
「まぁ、やっぱりそうなのね。ふふ。ねぇ、いろいろ聞かせて。ここに来てからの話を沢山聞きたいわ」
その日は、夜まで母さまと沢山お話をした。
アルトさんへの気持ちを初めて口にして、なんだかこそばゆい。
母さまは『応援しているわ頑張ってね』と言ってくれたけれど、何を頑張ったら良いのだろうか。
恋をするのは初めてなのでわからない。
母さまに聞いてみても、ふふふ、としか返ってこなかった。
翌日には、父さまと母さまは、ライ兄さまの待つ北聖領に向かうため旅出っていった。
次はいつ会えるかな。
* * * * * * *
「え? 誕生日来週なんですか?」
父さま達が帰っていった一週間後、リーンちゃんと一緒にエル兄さまの誕生日を祝った。
リーンちゃんはエリアンナさんから教えてもらった料理を沢山作り、私はリーンちゃんの助手に徹した。
「うわぁい唐揚げだぁ! 筑前煮に茶碗蒸しまであるー! すごいすごーい! リーンすごいよー!」
エル兄さまは大興奮だ。リーンちゃんも満足げに微笑んでいる。
その翌日、アルトさんの誕生日はいつかと尋ねてみたところ、来週だと言った。
「それじゃ、来週にはS級の認定試験が受けられるんですね」
「うん。カイルさん、ルルさん、ダリウスさんと戦うんだ。叩きのめしてやろうと思ってる」
アルトさんは爽やかな笑顔で、力強くそう言った。
S級の認定試験では、S級冒険者三名と戦い、その戦いぶりを見てギルド長が認定を行う。
「そうですか。ふふっ、応援してますね」
S級相手と互角に戦えればそれで認定がもらえるが、アルトさんなら本当に負かせることができるかもしれない。
「誕生日と昇級のお祝いをさせてください。何か欲しいものは無いですか?」
いつもお世話になっているのでお礼がしたい。尋ねてみると、アルトさんは少しの間うーんと悩んだ。
「それじゃさ、一緒に町に出かけてもらえないかな? 普通にのんびりとお店みたり、食事したりして……」
「そんなことで良いんですか? ではその時に欲しいもの見つけたら言ってくださいね。プレゼントします」
「プレゼントは無くてもいいんだけど……うん、ありがとう。楽しみにしてるね」
「はい」
アルトさんと出掛けることになった。
お祝いをして喜んでもらいたかったのに、私の方が喜ぶことになった。
* * * * * * *
アルトさんの誕生日当日になった。
午後から、広い草原にて認定試験が行われたようだ。そして試験を終えたアルトさんが店に来た。
「叩きのめしてきたよ」
なんと、本当に三人とも負かせてきたらしい。
「わぁ、すごい、やりましたね! おめでとうございます」
「ありがとう。それじゃ、明日は一日よろしくね」
「はい、楽しみにしています」
明日はアルトさんと町へお出かけだ。どうしよう。本当にすっごく楽しみだ。