プレゼント
「……え? アリア、今なんて?」
エル兄さまの待つ店に帰り、今日の出来事を報告した。
「スクリーンに素顔が映ってしまいました。兄さま達の気遣いを無駄にしてしまいました。ごめんなさい」
そう言うと、エル兄さまは大きくため息をついた。
「あー、なるほど。だから店の周りにやたらと人が来てたんだ……まぁ、バレちゃったものは仕方がないしねぇ。参加するの我慢できないほど面白いイベントだったのー? アリアが出たならオレも見たかったよー。ここにも一台小型スクリーンつけときゃよかったぁ」
エル兄さまは残念そうに笑った。
「えっと、実はですね、イベントの優勝賞品がどうしても欲しかったんです。エル兄さま、まだ早いけどこれお誕生日プレゼントです」
そっと小箱を手渡す。
「えっ? オレのため??」
エル兄さまは参加理由に驚きながら、受け取った小箱を開けた。
中の物を見た瞬間、大きく目を見開いた。
「うそ……これって…………」
小箱を持つ手が震えている。
エル兄さまはしばらく無言で眺めた後、顔を上げて涙目で笑った。
「すごいよアリア、ほんとに嬉しい。ありがとねぇ」
「えへへ。どういたしまして」
出場して良かった。心からそう思えた。
リーンちゃんは、私達を静かに微笑みながら見守っていた。
* * * * * * *
祭りの翌日。
朝食を済ませると、いつものようにリーンちゃんと一緒にギルドに向かうことにした。
今日からは髪の色を変える魔道具だけを身に付けて、上からローブのフードを被ることにした。
「「行ってきます」」
「はーい。行ってらっしゃーい」
店の裏口を開けると、そこにはアルトさんとカイルさん、ルルさんがいた。
「あれ? おはようございます。皆さん朝からどうしたんですか?」
「おっはよー! 昨日リーンちゃんと話し合ってさ、皆で迎えに来ることにしたんだー」
「そうでしたか……」
そういえば、昨日の帰り際に私以外の皆でこそこそと何か話をしていたっけ。
入り口の前で話していると、エル兄さまが扉の隙間から顔を半分出した。
「皆さん、妹のことよろしく頼みますねぇ」
兄さまは、カイルさん達に向けて言った。
「おっけー! 任せといてー!」
「わかりました」
「指一本触れさせないわよ」
どうやら、私の知らない間にカイルさんたちは兄さまの過保護に巻き込まれていたようだ。
なんて迷惑な。兄さまは人嫌いなはずなのに、こういう時だけ積極的になるようだ。さすがに恥ずかしいからやめてほしい。
だけど正直、今日は嬉しい気持ちの方が大きかったりする。
大勢から注目されたり質問責めにあったりするだろうなと憂鬱だったから、皆さんがいてくれると心強い。
五人でギルドへと向かった。
「見て、フードで顔見えないけど、あの子じゃない?」
「あのメンバーと一緒だから、きっとそうだぞ!」
「ねぇ、ちょっとでいいからさ、二人きりでお話しない?」
「君さ、本当の名前なんていうの? 今日一緒にご飯行こうよ」
「今から僕と一緒に依頼受けない?」
ギルドに着くと早々に大人数に囲まれてしまったけど、思っていた反応となんか違う。
「はいはーい、どいてどいてー。触ろうとしたら燃やすよー」
「近づくんじゃないわよ、ケダモノどもが」
「しつこいと首の骨折りますからね」
「空気無くして息できなくしますよ」
リーンちゃん達がそれぞれ追い払おうとしてくれるが、全く怯むことなく近づこうとしてくる。
エル兄さまが、『ギルドの男は飢えている』って言っていたけど本当なんだな。町に行けば女性なんて山ほどいるはずなのに。
こんな経験は初めてだけど、とにかく自分で何とかしないと。皆に迷惑をかけてはいけない。
「あの、申し訳ありませんがお誘いはお断りします。私達は依頼を受けに来たのでどけてもらえますか? 邪魔をするのでしたら氷漬けにします」
手から氷の塊を出して言った。この人たちは昨日の私の戦いを見ていたはずだから、氷漬けにされる前に逃げてくれるだろう。
「いいよ! 君とお話できるなら!」
「むしろ氷漬けにして踏みつけて欲しい」
「ずるいぞ、俺が先だ!」
「俺!俺は水攻めの方で!」
「俺は両方でもっ!」
「え?」
なぜだか興奮した様子で鼻息あらく近づこうとしてくる。
何で? 怖い 怖い 怖い。
ギルド内で本当に氷漬けにするわけにはいかず、どうしようもなくなってきたので一旦ギルドから出た。
そしてアルトさんに湖の畔まで飛んで連れて行ってもらうことになった。
「アリアちゃん大丈夫?」
リーンちゃんが心配してくれた。
「うん……いや、ちょっと大丈夫じゃないかな。すごく怖かった。というか気持ち悪かった……」
初めての経験に戸惑う。さっきの人たちは、どう考えても私に好意を向けていた。
「あの、自分で言うのはどうかと思うのですが、私さっきモテていましたか?」
恥ずかしい。すごく恥ずかしいが聞くしかない。
「えっ、何いまさら? だから俺たちが迎えにいったんでしょ。モテすぎて困るから男装してたんじゃないのー?」
「あなた今までどうやって過ごしてきたの?」
カイルさんとルルさんが言った。
「実は、7歳頃からずっと家族や親しい人の前以外ではローブを被って過ごしていました。過保護な兄さま達に頼まれまして。子供の頃は同年代の男の子達から容姿をけなされたり嫌がらせされたりしていたので、一度もモテたことなんてないんです」
「あー……なるほどねー。好きな子をいじめちゃうアレねー」
「それは、君の気を引きたくてちょっかいを出していたんだと思うよ」
「それ、兄さま達もよく言っていましたが、家族の贔屓目ですよね」
「贔屓目とか関係ないわ。何回でも言うけど、アナタすっごくきれいなのよ」
「アリアちゃん、何回言っても信じてくれないんだもん」
なんということだ。子供の頃、私はモテていたようだ。
髪の毛をひっぱられ、スカートをめくられ、大事にしていた物を奪われ、泥だんごをぶつけられ、蛇や虫を持って追いかけまわされ、罵詈雑言をあびせられ……その他にも数えきれないほどの嫌な記憶が甦る。
ちやほやされたことなんて一度もないのに。
「そっか、あれモテてたんだ……え、嬉しくない」
全然嬉しくない。
子供の頃といい今回といい、怖い思いしかしていないのに。モテるってなんだろうな。もっと嬉しくなるものだと思っていたのに、なんか違う。
「今日も沢山依頼を受けたかったのに、どうしよう。ギルドに行くの怖いな……」
ギルドから正式な依頼の出ている魔獣討伐や素材採集は、報酬が沢山貰えるのに。
またさっきみたいに来られたらどうしよう。
「大丈夫だよ。一緒に依頼を受けよう。手続きは俺が全部するから」
アルトさんがそう言ってくれた。
面倒をかけるのは申し訳ないが、沢山稼ぎたい。
少し悩んだけれど、今は素直に甘えることにした。




