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S級冒険者

 今日は、東聖山の近くの湖に来ている。湖の中でしか採れない鉱石の採掘である。


 私が水中を探し回り、見つけた大きな石の塊をリーンちゃんに渡す。リーンちゃんは素手で石を砕き、中に埋まっている鉱石を取り出していく。


 二時間ほど経っただろうか。たくさん集まった緑色の石は、透き通っていてキラキラと輝いている。


「これくらいあったらいいかなー?」

「うん、いっぱい集まったね。兄さま喜んでくれるかな」


 リーンちゃんは石を一つ掴んで光にかざした。


「きれい……エルさんの瞳の色と同じだ」


 そう言って、キラキラと輝くリーンちゃんの紫色の瞳もすごく綺麗だ。

 


 店に戻り、エル兄さまに石の入った袋を渡した。


「わぁー沢山あるねぇ。二人ともありがとねー。これで何作ろっかなぁ」

『キュー』


 兄さまは嬉しそうに袋を抱きしめながら、工房へと籠っていった。



 昼食を食べて少し休憩すると、店のドアのプレートを閉店から開店へと変える。

 魔道具店『ルナンド』の営業時間は午後からだ。

 東聖領に来てから一ヶ月半が経ち、お店の評判を聞き付けた人達がたくさん来るようになっていた。


 今日も開店してすぐにお客さんが来た。


「いらっしゃいませ」


 リーンちゃんが対応をする。店の接客はリーンちゃんと交代でしていて、今日はリーンちゃんの番だ。


「それじゃ、私はギルドに行って来るね」

「はーい行ってらっしゃい」


 私は一人、ギルドへと向かった。




 

  * * * * * * *





 コンコンッ


 エルさんの工房の扉をノックし、中に入る。


「エルさん、大型の魔道保冷庫三台の注文が入りましたよ」

「はいよー、どんな人ー?」

「初老の執事の方です。ローウィス家からの注文です」

「初老の……領主家の執事……名前は?」

「セバスチャンという方です」

「セバスチャンきたー!!」


 エルさんは歓喜した。私はよく分かっていないが、いつものことなのでスルーする。

 彼が興奮するポイントは、いつになっても分からない。

 エルさんは扉の隙間からそーっと接客カウンターの方を覗いた。


「おや、あなたが魔道具士の方ですかな?」


 セバスチャンさんは片眼鏡を光らせ、エルさんに話しかけた。


「うわぁ、片眼鏡だぁ……」


 エルさんは小さく呟いた後、セバスチャンさんの方へ近づいた。


「魔道具士のエルと申します。あの……セバスチャンさんはもしかして、ものすごく強かったり、暗殺術を身につけていたりしませんか?」


 エルさんはよく分からない質問をした。


「おや、よくご存知ですね」


 セバスチャンさんがそう答えると、エルさんは膝から崩れ落ちた。なにやら喜んでいるように見える。


「彼はどうしたのですか?」

「あー……えっと、よくあることなので気にしないで下さい。高額な依頼の細かな打ち合わせはその人がするのですが、少しお待ちいただけますか?」

「かまいませんよ」


 セバスチャンさんはにっこりと笑った。

 




  * * * * * * *





 ギルドに着くと、入ってすぐにアルトさんに出会った。

 

「フィル君、今から六合目まで行くところだけど一緒にどう?」

「はい、ご一緒させてください」


 アルトさんとは、あれ以来たまに一緒に依頼を受ける仲になっていた。


「あーっ良いなー! 俺達も連れてってよー」


 アルトさんの後ろからS級冒険者のカイルさんがやってきた。

 背中にはいつものように大剣を背負っている。


「昨日またフラれちゃったんだよー! だから強い魔獣と思いっきり戦ってスッキリしたいんだよねー」


 ふわふわの金髪に焦げ茶色の瞳のカイルさんは、黙っていれば男前だが、言動が軽く適当な性格をしている。

 女の子と付き合ってもすぐに振られてしまうようで、いつも嘆いている。嘆いていない日の方が少ないように思う。


「今回は半日で振られたみたいよ。最短記録ね、ざまぁみろだわ」


 カイルさんのすぐ後にやってきたのは、S級冒険者のルルさんだ。黒い瞳を細めてニヤリとしている。

 長身でスレンダー、腰まである長い赤髪が綺麗な美人さんだ。ハスキーな声も色っぽい。


「なんだよ、自分はモテないからってひがむなよなー」

「うるさいわよ、このたれ目」

「ひどっ」


 この二人はよく一緒にいるが、いつも喧嘩をしている。


 四人で山に向かうことになった。

 アルトさんは四人ほどならスピードは落ちるが一緒に飛べるそうだ。


「急いでいますか? 店に寄って小福ちゃんを連れていきたいのですが」

「良いよ、じゃあ寄ってから行こうか」



 四人で店へと向かうと、リーンちゃんは大勢の冒険者達に魔道具の説明をしていた。

 兄さまは応接室で打ち合わせをしているようだ。


 応接室のドアをノックし、中に入った。


「お話中に失礼します。兄さま、小福ちゃんを連れて行っていいですか?」

「山に行くのー? いいよー連れて行ってあげてぇ」

『キュー』


 兄さまの頭の上にいた小福ちゃんは、ピョンと私の胸に飛び込んできた。


「お友達に会いに行こうね」

『キュキュー!』


 私の後ろから、カイルさんとルルさんがひょっこりと顔を出した。


「あれー? セバスさんじゃん、おひさー!」

「あらほんと、お久し振りです」


「うわぁ、キラキラした人達……」


 兄さまは小さく呟き、部屋の隅に行ってしまった。


「お知り合いですか?」

「うん、領主家の執事さんだよ。俺達ね、昔は騎士団にいたから知り合いなんだー」

「そうでしたか」


 久しぶりに会ったという三人は、しばらく話をしていたが、エル兄さまがつらそうなので、早々に話を切り上げてもらった。

 アルトさんは後ろの方にいて一言も話さなかったが、帰るときに兄さまと執事さんに会釈をしていた。



 

 四人でひとっ飛びし、六合目に着いた。


『キュー! キュキュキュー!』


 小福ちゃんは興奮している。三匹の毛玉達と共にぴょんぴょん跳びはねる。

 一ヶ月前に連れて来てあげたときにできたお友達だ。嬉しそうに皆でぴょんぴょんしている。


 カイルさんは着いて早々、火魔法を纏った大剣を振り回している。暴れたくてうずうずしているようだ。

 ルルさんと二人で魔獣の巣を探しに行った。

 私とアルトさんは薬草を採取しつつ、たまに襲ってくる魔獣を倒していった。


 一時間ほどして、皆で休憩をとることになった。

 魔道鞄から敷物を取り出して皆で座り、持ってきたクッキーを食べる。

 アルトさんはこのメンバーといるときはフードを外す。


「ねぇ、さっきの人あなたのお兄さん? すっごく男前じゃない。魔道具を買いにお店に行ったことは何回かあるけど、会ったことはなかったわ」


 ルルさんが言った。


「そうですね、兄は人嫌いなので工房からは滅多に出てきません」

「なるほど。だから俺達の姿見て、部屋の隅に行っちゃったんだねー」


 カイルさんはけらけらと笑った。


「カイルさん達は騎士団に所属していたんですね。どうして冒険者になったんですか?」

「いやー騎士団ってさー、時間に厳しいし、団長は口うるさいし、むさ苦しいし。自由になりたーい! ってなって辞めちゃったー」

「ワタシはね、もっとお洒落したかったからよ。騎士団の服って可愛くないんだもの。団長は『髪を短くしろ』ばかり言ってきてうるさかったし」

「なるほど。お二人らしい理由ですね」


 カイルさんの理由には納得しかない。むしろ、一時でも規律正しい騎士団にいたことの方が驚きである。


 ルルさんの理由にも納得だ。彼女はいつもお洒落だから。

今日はスリットの入った黒いロングドレスを着ていて、赤髪が映えて格好良い。下には動きやすいようにスパッツをはいている。


「冒険者は自分の好きな格好ができるでしょ。まぁアタシの赤髪って派手だから、似合わないものも多いのだけどね。アルトもそんなもっさいローブ被ってないで、お洒落したらいいのに。せっかく綺麗な顔してるんだから」


「……」


「でもしょうがないよねー。アルトが素顔で歩いてたら、女の子が群がっちゃって大変だもん。もちろん俺は群がられるの大歓迎だけどねー!」

「アンタに群がるのなんてアリぐらいよ」

「なんだとー! このっギルベふごっっ」


 カイルさんは話している途中でルルさんに口にクッキーを突っ込まれた。モゴモゴとしている。


「デリカシーのない男ってサイテー」


 ルルさんはそう言い放つと、ツンとそっぽを向いた。

 どうやらカイルさんは何か失礼なことを言いかけたようだ。


「アルトさんはいつからローブ姿をしているんですか?」

「ギルドに登録した15歳からずっとだよ。自分で言うのもなんだけど、歩いているだけで次々と女性が来てさ……ギラギラとした女性に囲まれるのは本当に怖くて苦手なんだ。だからさ、これからもずっとできるだけ目立たず過ごしたいんだよね」


 アルトさんは遠い目をした。沢山苦労したのだろう。


 女性が苦手ということは、私が女だと知ったら、もうこうやって仲良くしてもらえなくなるということだ。

 せっかく知り合えて、こうやって一緒に過ごせる日々を楽しく思っていたから、少し悲しい気持ちになった。




「小福ちゃーん、帰るよー」

『キュー』


 二時間ほど過ごして山を下りた。


 ギルドへ戻ると、サラさんは身分の高そうな男の人と話していた。

 焦げ茶色の髪をしたその男性と、とても楽しそうに話している。


「偉い人でしょうか?」

「そっか、フィル君は知らないのね。あの人はここの次期領主様よ。もうすぐサラさんと結婚して、領主を引き継ぐそうよ」


 ルルさんが教えてくれた。

 サラさんの言っていた婚約者というのは、次期領主様のことだったようだ。


「良いよなぁー。俺も結婚したーい!」

「ふっ、あんたには一生無理よ」


 ルルさんは鼻で笑った。


「なんだとー!」


「カイルさんは23歳でしたよね。早く結婚したいのですか?」

「もちろんそうだよー。家でかわいい奥さんがご飯作って待ってるとか最高じゃん」


 カイルさんはライ兄さまと同じ歳だ。

 ライ兄さまも全く結婚する気配はないし、そもそも今はそれどころではないので当分しないだろうな。

 ルルさんは24歳。こちらは結婚には全く興味がないようだ。

 

 ふと横を向くと、ギルド内の離れたところにナルジャスさんの姿を見つけた。

 ナルジャスさんはギルド内ではサラさんに言い寄ることは無くなったらしいが、外では相変わらずしつこくしているらしい。


 しばらく話をしていたサラさんと次期領主様だが、ナルジャスさんの姿を確認すると、次期領主様はナルジャスさんの元へと近づいた。


「君がナルジャス君だね。サラにしつこく付きまとうのは止めてもらえるかな?」

「……あなたには関係ないですよね」

「関係あるさ。サラは私の婚約者だからね。私達はもうすぐ結婚するんだよ」


 

「……婚約者って、そんなの嘘だ……だって、それは僕の気を引くための嘘だったはず……」


 ナルジャスさんはぶつぶつと呟き、ふらりとよろめきながらギルドから出ていった。


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