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ふわふわで もふもふな白い獣

 国の最北部に位置し、聖獣の棲む山、北聖山と、魔獣の巣窟である地下ダンジョンが存在する地。ここは北聖領。


 自然豊かなこの地で住まう人々の生活は様々だ。

 北聖山にしか存在しない山の恵みを採取することを生業にする人。

 採取された薬草からポーションを作成する薬士として働く人。


 ギルドに所属し、地下ダンジョンで魔獣を討伐したり鉱石を採取する冒険者。

 討伐された魔獣の素材などを加工し、魔道具を作り出すことのできる魔道具士。


 冒険者相手に宿屋や酒場、料理店、服飾雑貨の店などを営む人。

 武器や防具を作り出す鍜治職人。


 他にも挙げればきりがないが、この地で生活していくにあたって、北聖山と地下ダンジョンの存在は必要不可欠なのである。


 地下ダンジョンは、その名の通り地下に存在している。無数の入り口から中に入ることができ、毎日大勢の冒険者がここを訪れている。


 そしてその地下ダンジョンの真上に存在するのが北聖山である。

 その山の頂では、真っ白な獣がちょうちょを追いかけ回している最中だった。




『まてまて~、まつのじゃ~』


 真っ白ふわふわの毛並みを持つ、大きな犬のような狼のような風貌の獣。

 この御方の名は白狼(はくろう)。この山の主、聖獣である。


 白狼こと(しろ)さまは、稀少な薬草の群生地で陽気にちょうちょを追いかけ回す。踏みつけられた薬草たちは潰れてペタンとなるけれど、すぐに元気を取り戻し上を向く。

 聖なる気に満ち溢れている山の頂で、聖なる気の権化である獣に踏みつけられても、薬草たちには痛くも痒くもないようだ。


 白さまは思う存分ちょうちょを追いかけ回し、満足したようだ。その場にごろんと寝転がった。

仰向けで口を半開きにしながら日向ぼっこをする姿からは、威厳も何も感じられない。


「白さま、それでは私は戻りますね」


 兄から頼まれていた薬草を摘み終わったので、家に戻ることにする。

 かごを持って立ち上がり、すぐ近くで寝転がっている白さまに声をかけた。


『アリアちゃーん、帰る前にワシを愛でていってもよいぞ~』


 眠そうに金色の瞳を細めながらそう仰るので、もちろんお言葉に甘えることにしよう。


 白さまはお腹の上まで満遍なくふわふわ、もふもふだ。

 思う存分撫でて抱きついていると、私も眠くなってきてしまい、お腹の上で昼寝をしてしまった。


 目が覚めるともう夕暮れ時になったいた。

 むくりと起き上がると、白さまも起きたようで、もぞもぞと動き出す。

 私たちの周りでは、ぴょんぴょんと小さな白い生き物が飛び跳ねていた。

 山の頂に棲んでいる小聖獣である。


『キュー』 『キュキュ』


 こちらは手足はなく、まん丸ふわふわの体だ。

 いつの間にか寄ってきていた五匹の小聖獣が私と白さまの周りをぴょんぴょんと跳ね回る。つぶらな金色の瞳でじぃっと見つめてくるので、こちらも満遍なく撫でてぎゅっと抱きしめる。たまらなく幸せだ。


 再びふわふわもふもふを思う存分堪能し、ようやく家に帰ることにした。


「では、今度こそ帰りますね」

『あーい。またの~』 『キュー』


 挨拶を終えると、身に纏っていた黒いローブのフードを被り、歩きだす。手に持ったかごの中の薬草は、まだ摘みたてのように瑞々しさを保っている。

 家に帰って兄に薬草を渡したら、少しだけ地下ダンジョンに行こうかと思っていたけれど、山頂で思った以上の時間を過ごしてしまった。


「ダンジョンに行くのは明日でいっか……」


 兄に頼まれていたものを調達するのは明日にしよう。まだ在庫があるから急ぎではないと言っていたし。


「お腹すいたなぁ」


 今日の夕食は何だろう。ぼんやりと考えながら山を下りていく。


 自然豊かなこの場所は、翌日、やらかしてしまった白さまによって大惨事になる。



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