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93話 帰ってきた日常



―――ノア 「ルークの家」



side ルシファー



 カイル・アレンドロがこの世を去ってから一週間経った。冒険者の妻に刺され、絶命したようだ。


 闘技場の矢を放った女性は「ロアの宿」でカイル・アレンドロに陵辱されていた事が原因だったらしく、絶命に追いやった女性も憲兵に捕らえられたらしいが、どうやら、あの『噂』が原因である事は周知の事実のようだ。


 ルーク様は、


「自業自得だよね……? 仕方ないよ!」


 などと、私やアシュリーに気を遣わせないよう、懸命に笑顔を作っているように見えたが、毎日、朝から晩まで一心不乱に『刀』を振るいながらも、試行錯誤している姿はとてもカッコ良かった。


 みるみる剣を振るう姿が様になっていく姿に、感嘆しながらも、(身体は大丈夫なのだろうか?)と心配してしまう。



 7日目の夕食の時、ルーク様はかしこまった雰囲気で口を開いた。


「ダンジョンに行こう!!」


 ルーク様は綺麗な瞳に決意を滲ませ、力強く声をあげた。私とアシュリーは目を見合わせ、微笑み合い、力強いルーク様の瞳に胸を高鳴らせた。


 芯のある真っ直ぐな瞳には一切の濁りはない。


 私は堪らずルーク様に抱きつき、全身でルーク様の体温を堪能する。


 ここ数日、自分がルーク様にできる事を懸命に模索したが、何をどうすれば良いのか分からず、自分の「無力さ」を痛感していたのだ。


 結局、私に出来たのは、ルーク様を信じる事だけだった。目の前のルーク様の姿に、心から安堵し、それは涙となり、頬を駆けた。



「ルシファー。アシュリー。俺を信じてくれてありがとう。ちゃんと伝わってたよ? 2人に救われてた。ごめんね?」


 ルーク様は困ったように笑い、屈託のない笑みを浮かべた。屈託のない笑顔が随分と久しぶりな気がして、ドクンッと心臓が脈打つ。


 実際には一週間も経っていないが、きっと私の長い人生において、1番長い一週間であった。


 深い深い安堵と愛情がどうする事も出来ず、一向に口を開かない私とアシュリーの顔を交互に伺うルーク様の頬に、自分の唇を押し当てた。


 すべすべの肌に自分の体温を、安堵を、愛情を注ぎ込む。


「ル、ルシファー?!」


 真っ赤に染まったルーク様が可愛らしく、思わずルーク様の唇に顔を寄せると、目の前に小さな手が現れる。


「……ルシファー。僕の前でいい度胸してるね……? そんな事、僕が許すはずないでしょ?」


「う、うるさいです! 子供は早く寝なさい!!」


「ハハッ!! 何の冗談? 僕は君と変わらないくらい生きてるよ!! あまりふざけないでくれる?!」


「……今日こそははっきりさせましょう!! 私こそがルーク様に相応しいと!!」


 私がアシュリーとケンカを始めると、ルーク様が私の胸の中で震え出す。ハッとして、手を離すと、


「ふふふっ。アハハハッ!!」


 と声を出して笑うルーク様の姿があった。




―――


 


 いつも通りの2人の掛け合いがひどく懐かしく感じた。ルシファーからの口付けに盛大に照れながらも、俺は堪えられず、笑い声をあげてしまう。




 この一週間、2人の心配は痛いほど伝わってきた。


 カイルの「死」に戸惑いを隠せなかった事は自覚しているが、それに至った理由や、続々と明らかになるカイルの悪行を考えれば、至極当然のもののようにも感じた。


 復讐に囚われる気持ちがわからないわけでもない。俺だってルシファーやアシュリー、支えてくれた沢山の人が居なければ、また違った行動をとっていたと思う。



 おそらく、刑罰は『死罪』であっただろう。俺を追放してからの短い期間に、これほどまで罪を犯しているとは思いもしなかった。


 結局、ダンジョン内の『噂』はあやふやな物になったが、それは「事実であった」と知れ渡り、冒険者の在り方が見直される事となった。


 ロウとロイが前々から領主に進言していた、『28階層カタルに、憲兵団の屯所を建設』が実行される事になったと、2人に教えて貰った時には、少し複雑な表情で笑みを浮かべていた。


 これには大賛成だ。ダンジョンに秩序を作らなければ、次の「カイル」が生まれるかもしれないのだ。



 カイルの「死」が意味のある物になってよかった。


 もっと何か出来たか?

 俺がもっと、早く動いていれば……。


 そんな事を言い出してもキリがない。数々の後悔は次に繋げる事を再確認するだけだ。それ以上『終わった』事を嘆いても仕方ない。


 これは両親の「死」の時に学んだ事だ。


 俺は俺のすべき事をする。


 俺には果たすべき『夢』がある。


 毎日のように「村正宗」を振った。朝から晩まで、手の皮が破れる事も気にする事なく……。


 格闘術を振り返りながら、活かせる物は剣術にも応用し、試行錯誤する中で自分の『夢』を再確認する。


 幸いな事に俺には、カイルが残してくれた『双剣乱舞』の『型』もある。


 あの『型』はやはり双剣での連撃を前提としていたが、あのスピードに追いつけるように無我夢中で刀を振るう中で、適切な身体の使い方を理解していく。


 連撃のスピードは『二刀流』に遠く及ばないが、寝る間も惜しみながら取り組む中で、一撃の剣速自体は、遜色ない物になってきたと思う。


(カイル……。いつかお前の『二刀流』も超えてみせる!! 俺は、『夢の果て』を目指すぞ!?)


 これが、本当の意味での決別だ。

 

 『二刀流』を昇華する。

 剣術も極め、『あの高み』を超えていく。


 新たな決意を固めるまでに3日かかった。心配していた2人には悪いが、俺はそこから剣術に夢中になっていただけだ。


 特にカイルの事を掘り返す事もせず、俺を信じてくれているのが、嬉しかった。気にはしていたようだけど、それを表立って行動に移す事なく、見守ってくれていた事には、随分救われた。


 一週間もすれば、試してみたいことが無数にできた。剣術と格闘術の融合。そして『洗濯』や魔法との相性。


 俺は、またダンジョンに潜る決意を決める。


(……一つ目の『夢』は『次』で叶えるぞ!!)


 


 気負っていた事が、2人を更に心配させてしまっていたらしい。ルシファーの涙と、アシュリーの笑顔に、


(俺はもう1人じゃないのに……)


 と2人への気遣いが足りていなかった事に反省したが、目の前で繰り広げられる『いつもの光景』に俺は何だか安心して笑い声をあげてしまったのだ。



「ル、ルーク様?」

「マスター? どうしたのさ?」


「ごめんね? 2人とも。いつも通りの2人を見たら何だか安心しちゃって! じ、実は少し前からは剣術に夢中になってただけだったんだけど……。ま、まぁダンジョンでは色々試してみたいことあるし、た、楽しみだね!!」


 2人は小さく首を傾げ、固まってしまう。


(ポカーンとした顔でも2人は可愛い!)


 笑っちゃダメなのはわかってるけど、可愛い2人に自然と頬は緩む。


 そんな俺に2人も笑顔を見せてくれる。

 アシュリーは、未だ俺に腕を回したままのルシファーと俺の間に滑り込み、


「さすが、マスター!! マインの『刀』を自在に操るマスターを早くダンジョンで見たいな!!」


 と可愛く呟く。


「さすがです! ルーク様。もう既に先の事を考えておられたとは……。改めて感服しました!!」


 ルシファーは紅潮した顔で笑顔を作り、アシュリーは俺をギュッと抱きしめた。


 俺はふぅ〜っと息を吐き、アシュリーの頭に手を置き、ルシファーの手を握り、口を開く。


「……次で『S』まで駆け抜ける。明日からダンジョンに潜るよ!!」


 俺の言葉にルシファーは綺麗に、アシュリーは可愛く微笑んだ。


「ふふっ。ルーク様ならもっと深くまで行けますよ!!」


「マスターと僕達なら、もっと潜っても大丈夫だよ!!」


「そうかもしれないけど、次は46階層までだ。『夢』を叶えた事を、両親や村のみんなにも直接伝えたい。それに……伝えたいヤツは1人増えたしね!」


 俺の言葉に2人は力強く頷いた。


 俺達は夕食を済ませ、2人がお風呂に向かった事を確認し、「村正宗」を手に取り、すっかり日課になってしまった素振りを開始した。


 無我夢中で剣を振るい、滴る汗にハッとする。


(疲れを残すのはよくない!!)


 明日の朝は早い。ダンジョンに油断は禁物。準備はしっかり整えておかないといけない。


(カタルには『あのひと』もいるかもしれない。ロアナさんにも顔を出さないとね?)


 俺はふぅ〜っと息を吐き、星が瞬く夜空を見つめた。


 



次話「『アデウス』」です。


【作者からのお願いと感謝】


ほんの少しでも、「面白い!」もくしは「次、どうなんの?」はたまた「更新、頑張れよ!!」という優しい読者様。


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