88話 ルークとカイル ②〜激突〜
―――ノア 「闘技場」
脱力した腕からの初撃に全神経を集中させる。
(『双剣連撃』……。腕が回転し始めたら手がつけれない!!)
ルークは『二刀流』の恐ろしさをよく知っている。何度も、何度も後ろから眺めていたのだ。
自分の倍ほどある巨大な魔物を切り刻んできた技だ。
「ルーーークゥウウウウ!!!!」
カイルの上体が左に傾く。
(右か!!!!)
ルークは全身の筋力をフル稼働し、「村正宗」を右の剣に向かって振り落とす。
ガキンッ!!!!
「剣」と「刀」がぶつかり合う音が空気を劈き、歓声に湧いていた会場が一気に静まり返る。
カイルはルークの「重さ」にギリッと歯軋りをするが、すぐに左の2撃目はルークの首元に向かって繰り出されている。
(クソッ!!!!)
ルークは寸前で上体を逸らしそれを躱す。鼻先を掠める風圧にゴクリと息を飲むが、すぐさま右が動き始めている事を視界に捉える。
「ルーク様!!」
「マスター!!」
2人の声に冷静さを取り戻す。
いまは「神鎧」は装備していない。
両親の仇なのかはまだ確定していないが、どうしても装備する事が出来ず、カイルからの連撃を「村正宗」一本と、自分の身体の動きのみで対応しないといけないのだ。
(……なんで……?)
ルークはカイルの行動に疑問を抱いた。
「何か」しなければ確実に命がなくなっていたはずなのだ。自分が、傷を『洗濯』した事でいま立って剣を振るえているんだ……。
そこまで思考したところで、ルークはギリッと歯を食いしばる。
(『俺が』、救ったからか……?)
体勢を崩しているルークにカイルの瞳孔が開く。勝利を確信しているようにニヤァと笑みを浮かべている。
(『あの時』と同じだ……)
ルークの心拍数が跳ね上がり、苦い記憶が脳裏を駆ける。カイルの剣が自身に触れる瞬間、村正宗を添え、力に逆らわないように受け流しながら、反撃に出る。
受け流されたはずのその剣はすでに反転し、ルークに向かって来ているが、ルークも先程の受け流した反動でクルリと身を翻し、カイルの顔目掛けて蹴りを繰り出す。
ガッ!!
コンマ数秒の差で僅かにルークの踵がカイルの頬に触れると、その衝撃でよろけたカイルの剣は空を斬る。
「ルーーークゥウウ!!!!」
口元にじんわりと血を流しながらカイルは絶叫するが、会場からは盛大な歓声が沸き起こる。
「「「「「うぉおおおおお!!!!」」」」」
「なんて攻防だよ!!!! ほとんど見えなかったぞ!」
「なんだ!! あの『男』は!! あの『銀髪』は誰なんだよ!!!!」
「キラを一蹴した、カイル・アレンドロに競り勝っているぞ!!!!」
闘技者や住人達はキラを一蹴したカイルを賞賛し、観客席からの「矢」に慄き、ルークの登場に困惑し、『なぜか』始まってしまった2人の戦いに興奮した。
もう何がどうなっているのかは、まるで理解できていないが、2人の戦闘がこれまで見てきたどんな闘技者達よりも優れている事に、ただただ驚嘆し、そのあまりの強さに感動したのだ。
反して、冒険者達の中にはルークの実力を知っている者達で溢れている。
先日の「ギルドマスター『狼人のロウ』を一蹴した」という噂と、「『二刀流パーティー』の盾役である、現Sランク冒険者『だった』、アラン・ドーソンを叩きのめした」という噂は1日で広まっていたからだ。
カイルの実力も、ルークの実力も尋常でない事を知っている冒険者達はカイルの行動に憤慨したのだ。
「カイルーーー!! テメェ! ルークに助けて貰ったんだろうが!!」
「何やってんだよ!! 何でテメェが斬りかかるんだ!!」
「ふざけんじゃねぇ!! ルークに大恩があるのがわからねぇのか!!!!」
ハッとした様子でカイルへの罵倒を叫ぶ冒険者達。
ただ、2人の攻防に目を奪われてしまったのも事実。ほんの数秒の間にカイルの剣が何度ルークを襲ったのかはまるで分からなかったが、それを退けたのがルークの蹴りであったのはわかった。
冒険者達の頭には一つの疑問が……、抑えられない好奇心が湧き上がっている。
『果たしてどちらが冒険者『最強』なのか……?』
「カイル・アレンドロ!!!! 双剣を離し、手を上にあげ、その場から動くな!!!!」
闘技場に凛とした声が響き渡る。
皆が一斉にそちらに視線を向けると、そこには憲兵団、団長「豹人のロイ」が女性を捕らえている姿があった。
「うるせええええええええ!!!!」
カイルの怒号にロイは捕らえた女性の確認をする。
「しね。しね。しね……」
放心状態でただうわ言のように呟く女性に小さく息を吐き、闘技場の係員に拘束するよう伝え、すぐにスキルを発動させる。
「『5倍』……」
一瞬でカイルへと距離を詰め、冷静にカイルの挙動を注視する。ルークへと殺人未遂。ルークの反撃は充分正当なものだ。
ロイはこのタイミングでカイルを捕らえようと、駆け出したのだ。
カイルに動きはない。
(初見で私のスキルに対応できるのは『マイン』くらいだ……)
僅かな慢心が命取りになる。
ロイはその事を充分に理解していたが、「時掛け」でもない限り自分の動きに反応することなどできないとタカを括ってしまったのだ。
「ダメだ!! ロイ先生!!!!」
ルークの叫びはロイの耳に届くが……。
ザンッ!!!!
肉を割く音と共に、ロイの白藍の瞳が大きく揺れる。
鮮血が視界を染め、ロイは自分が斬られた事を理解する。
ロイがルークの格闘術の師である事が、カイルにとって優位に働いた。カイルは知っていたのだ。超スピードを有するロイが、まず利き手である右腕を「壊しに来る」事を。
無駄な足掻きなりに、魔物相手にでも忠実にそれを再現していたルークを知っていたのだ。
後は待っているだけ。タイミングを合わせて左の剣を振るうだけ。
「クククッ。動きが単調だぞ? 『ルークの師匠』……」
「ロイ先生ぇええええ!!!! カイル!! テメェ!!!!」
「クククッ。何だよ? 安心しろよ。テメェもすぐにぶっ殺してやる!!」
「ルシファー!! ロイ先生を頼む!! アシュリーはそれを守れ!!」
「「はい!!」」
「いい女を連れてるな? ルーク……。お前をぶっ殺したら、後で可愛がってやるよ」
ルシファーとアシュリーはピクッとその言葉に反応したが、すぐにロイの元に歩み寄る。
(お前ごときが、ルーク様にかなうはずはない!!)
(マスターに勝てる『生物』なんていない!!)
((いま自分がすべき事を!!))
ルークは2人がロイに向かった事を確認し、村正宗を鞘に収め、大きく深呼吸をした。
慣れない剣術ではカイルに勝ち目がない事を察し、刀は足枷にしかならない事を理解したのだ。
あの高速の連撃に鎧も何も装備せず、一撃でもカイルの攻撃が当たれば、待っているのは「死」だと覚悟を決める。
この緊張感はダンジョンの下層以来だ。
(一撃で即アウトか……。何だかひどく昔の事のように感じるな……。冷静に……。集中しろ……)
ゆっくりと村正宗を地面に置き、カイルを見据える。
「……『その瞳』が濁りきった所でくり抜いてやるよ!!」
「……もう許さねぇぞ? カイル」
「お前が俺に勝てるわけねぇだろうが!!!!」
「うるさい。少し黙れよ……」
カイルは極限まで高まった「破壊衝動」に笑みを浮かべ、ルークは冷めた瞳で、その気持ち悪い笑みを見つめた。
次話「ルークとカイル ③〜激闘〜」です。
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