81話 カイルの動向
―――10階層 1:15
「ふぅ、ふぅ、ふぅ……」
カイルは宿に帰ったが、どうしても破壊衝動が収まらず、ダンジョンへと足を進めていた。
あのまま宿で過ごしてしまうと気が狂いそうになってしまう事を理解し、アランの二の舞になってしまうなどという、バカな事をしないよう、深くフードを被り、誰とも視線を合わさないようにダンジョンに向かったのだ。
ゴブリン、コボルト、スライムといった雑魚モンスターがひしめく上層。深夜ということもあり、冒険者の姿はない。
やはり圧倒的に多い魔物の数に苛立ち、それをそのまま魔物にぶつける。カイルは初心者の最初の壁となるはずのゴブリンの群れやコボルトの群れをただただ斬り刻んだ。
(クソザコが……)
心の中で吐き捨て、自分の強さを見るなり、逃げ出してしまう雑魚モンスターの背を追い、一瞬で首を斬り飛ばす。
カイルの進む道には小さな魔石が列を作っているが、そんな物には目もくれず、ただ目の前の「破壊していい物」を破壊し尽くす。
いくらかマシになってきた気分に、明日、いや、今日の予定を思い浮かべる。
とりあえず、一眠りする。キラの実力がどうだか知らんが、用心して損はないだろう。ルークにしても帰って来たのなら、絶対にダンジョンに潜るはずだ。
カイルはルークの忌々しい、キラキラと輝く瞳を思い出す。
(アイツが『夢』を捨てるはずがねぇ……。アランのバカがどうしたのかは知らねぇが、ルークが帰って来たのなら話しは別だ。おそらく、俺も憲兵のリストに載っているだろう)
街中でルークに会ってしまうと、自分は止まれない。大人しく夜まで宿で過ごすのが最善か……?
いや、あのルークの事だ。伝えていない可能性の方が高いか? それならば「知らない」で押し通せる。
どちらにせよ、街中で目立つのは得策ではない。今日中にアンを確保しておきたかったが、キラを奴隷にしてから探させれば、なんの問題もない。
合流次第、ダンジョンに潜りジッとルークを待つか? いや、明日になれば自分とキラの対戦の噂がノアの街にも駆け巡るだろう。
(さすがに、俺の前に姿を現すほどバカじゃねぇか……? いや……アイツなら……来るか……?)
カイルの脳にはルークしかいない。
ルークの考えなど手に取るようにわかるのだ。いや、わかるはずだった。それだけに、ロウと争ったという部分が気になった。
本来のルークならあり得ない行為だ。
ロウは何かとルークを気にかけていたし、ルークも懐いていたはずだ。ルークを怒らせる事なんて、ロウができるはずはない。
そこまで思考したところで、カイルは一つの結論を導き出す。
(『連れ』がいるのか……?)
「ククククッ。ハハハハッ!!」
ダンジョン内にカイルの笑い声が響き渡る。
ルークが怒るツボは自分じゃない。きっと「誰か」がいる。それもそれなりに強者だろう。あの『無能』が無事に帰って来た事を考えれば、自ずとその考えに行き着く。
だが、46階層まで潜れるヤツなんていまの冒険者ではあり得ない。最近勢いのある『クラップ』か?
いや、それは早すぎる。確か、サイモンのスキルはあくまで補助。残りの剣士とエルフの女は『中の上』、あの戦力だけで、そこまで行き着けるはずがない。
(知性を持った『魔物』か……?)
にわかには信じられないが、可能性はなくはない。予測できない事の一つや二つ存在していても、全く不思議ではない。
むしろそれ以外に説明がつかない。ロアナも「カタル」にいたし、ローラ、ロウ、ロイもノアに居たはずだ。
「ククククッ」
カイルはニヤァと笑みを浮かべる。それは、1番ルークを苦しめる事ができる方法を『また』見つけたからだ。
(『誰か?』なんて関係ねぇ。『ソイツ』をぶっ殺せば、あの『追放』よりもいい顔をしてくれるはずだ……。俺に寄生していたように、次は『ソイツ』に寄生して、ダンジョンを進めようとしているんだろうが、ルークの希望は全て絶ってやる……)
絶望に滲むルークの顔が安易に想像できるのは、それを見たことがあるからだ。そしてその顔に剣を突き立てる自分の顔も容易に想像できた。
「クククッ……。楽しませてくれる。『魔物』なんだから、街中で殺しても問題ねぇよな? むしろ、俺は英雄になれるんじゃないか……?」
カイルは独り言を言い、ノアへと歩みを進める。自分が狩り尽くしてしまったので、魔物の姿が全くない。自分の道を塞ぐものが一つもない事に気分を良くしながらカイルはダンジョン内を闊歩する。
(まだ我慢だ……。大丈夫。『追放』するのも待てたんだ。追放の時よりもいい顔が待ってるんだ。……我慢できるはずだ。今日はゆっくり休み、万全の状態でキラを屈服させ、ルークの『連れ』がどんな生物なのか確認する……)
カイルは自分の仮説が正しい事を確かめる決意をする。それまでは焦らず、じっくり、最善を選択する。
(宿に帰るのはキラを潰した後にするか……。その頃には、俺への賞賛と権威が復活しているはず。憲兵もあやふやな情報で無理矢理、俺を捕らえるような事も出来ねぇだろ……)
読めない憲兵の動きに警戒し、カイルはそのまま闘技場へ向かうことにした。
ダンジョンに潜る前の心境とはまるで違う。まるで希望を見つけたようにすら感じた。
ルークを追放したとき、あの苦痛の表情を見た時、初めて満たされる感覚があったのだ。
カイルはそれをまた味わいたいのだ。決して満たされることのなかった心を満たしてくれるのはルークだけだ。
ダンジョンとは思えない静けさの中、カイルの足音だけがダンジョンには響いていた。
(ククッ。ローラの苦悶の表情も『満たされる』かもしれねぇな……)
カイルは口角を吊り上げながら、ローラを凌辱する姿とルークが絶望する姿を交互に思い浮かべた。
とても気分がよかった。
次話「ルーク一行、闘技場へ」です。
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