73話 『2人の死』 ①
8年前
―――48階層 『獣ロ組』&『鬼姫』
「こんな『火の蛇』に苦戦してたのか? ロウ?」
マインはニヤけた顔でロウに問いかける。
「うるせぇ!! マイン! テメェの『刀』が異常なんだ!! 高熱を発する『フレイムサーペント』はかなりの強者だぞ!! 俺の『雷斬』じゃ、刃が通らなかったんだ!!」
「ロウもマインもうるさい。ルーナ、水をちょうだい。できれば口移しで……」
「おい! ロイ!! 俺の嫁に何てこと言ってやがる!! お前、相変わらず顔色一つ変わらんねぇな! ハハハハッ」
マインは豪快に笑っていると、ルーナは「ふふっ」と一つ笑って口を開いた。
「いいわよ? ロイ。おいで?」
ロイはちょこちょことルーナに歩いて行くと、マインは焦ったように声をあげる。
「ルーナ!! そんなのは許さねぇぞ!! ローラ!! 笑ってないで注意しろよ!!」
「ふふっ。ごめんなさい」
『鬼姫』と『獣ロ組』は和気あいあいとダンジョンを進む。『鬼姫』との合同攻略は順調そのもので、ロウは更なる未踏の地に興奮していた。
「ほら、マイン。また来たわよ? フレイムサーペント」
ロアナの言葉に、マインは、
「おい!! 俺があの『火の蛇』を退治してる間、誰かロイを見張ってろよ!?」
と大声を上げながら、紺碧の瞳を見開き、『時掛け』と呼ばれる、0.5秒という時間を操り、「村正宗」でフレイムサーペントを難なく攻略する。
「なんだよ。お前……。引退したんじゃなかったのかよ!! 腕上がってんじゃねぇか!」
ロウの言葉にマインは屈託のない笑みを浮かべる。
「ハハハハッ! 俺は常に進化してんだぜ? それに俺の息子は『目が良くて』なぁー! めちゃくちゃ面白いんだぞ? ……ロウ! 下手したらお前の『眼』よりいいかもしれんぞ?」
「冗談言うな。俺の眼は『神の眼』だぞ? 確か『洗濯』だったか? お前のガキなら、どうせ単細胞なんだろ? 大した事ねぇよ!」
「お、おい! バカ! お前……」
マインの焦った口調にロウは背筋がゾッとしながら振り向くと、ニッコリと笑顔を作ったルーナが口を開いた。
「ロウ? よく聞こえなかったわ。『私の』息子がなんだって……?」
「ぃ、いや、なんでもない……」
「いいえ。聞き捨てならない事を言ったわ。ロウ。あなた……。一回、殺してあげようか? 私の『聖域』に閉じ込めてここに置いて行ってあげてもいいのよ?」
「わ、悪かったよ!! お前の『聖域』は俺の天敵だ! 俺はお前とだけは争いたくねえよ!」
「ルークを『単細胞』なんて……。次は許さないわよ?」
「……あ、ああ」
「はい! じゃれるのは終わり!! とりあえず、もう少し潜るわよ!!」
ロアナの言葉で、しばしの休息を終え49階層に潜る。
マインの『時掛け』と万物を斬り裂く『村正宗』、ルーナの自分が思い描く結界を作り出す『聖域』、ローラの『シルフ』と『風魔術・聖』。
ロウの『鑑定』、ロアナの全てを超越するスピードを生み出す『瞬歩』、ロイの自身の戦闘能力をあげる『身体強化5倍』。
(これ以上のメンバーはいない……)
ロウは軽く微笑みながらも先を急いだ。
ここまで、衰えるどころか、力が増しているマインの活躍と、自分の眼に映し出されるマインの強さに、マインこそが冒険者の希望であると思いながら進んだのだ。
魔物を感知と、後方支援をローラとシルフ。状況の整理、地形の把握と、前衛のサポートがロアナ。魔物の鑑定と中距離からのサポートがロウ。最前衛がマインとロイ。あらゆる状況に応じて皆をサポートするルーナ。
何の問題もなく突き進む2つのパーティーは、この上なく順調で、ロウは「もう『夢の果て』にすら届くのではないか?」とすら思っていた。
それはロウに限らず、ほぼ全員が感じていたものだった。今まで偶発的に、共闘する場面には何度も出くわしたが、初めから2つのパーティーが共闘するのは初めてであったのだ。
それだけに互いの『力』がより確かなものである事を理解し、それに応じた連携も知らずのうちに深められていたのだ。
「ロアナ! 右前方30メートル!」
ローラがロアナに話しかけると、
「わかった。少し見てくるわ!」
とロアナは『瞬歩』を使用する。確認すると、大体の地形の状態、その魔物の特徴などを伝える。それを元にロウは『鑑定』し、弱点や魔物のスキルを探り、マインとロイがそれを元に戦闘する。
未知の魔物の、イレギュラーな部分はルーナがカバーする。
『鬼姫』が加わるだけで戦術の幅もパーティーの質も跳ね上がった。やはり、マインとルーナは冒険者でなければならない。
「マイン、ルーナ。ノアに帰ってこいよ。この街にはお前達が必要だぜ」
ロウの言葉にマインは大声で笑う。
「ルークにこんな汚ねぇ街を見せられるか! アイツが自分で決め、自分の意思で『ノアに行きたい!』って言うまで、俺はここに帰る気はねぇぞ!」
「マイン! それほどの『力』を持ってるのに……。お前は誰も見た事のない景色を見たくねぇのか!?」
「ロウ。良い事教えてやろうか? 子供ってのは、『未知』だぜ? 俺はルークの成長を見守るのが楽しくて仕方ねぇんだ。だから、共闘はこれっきりだ!」
「………」
ロウはマインの言葉に何も言えなかった。心から楽しそうに、少し照れたようなマインの顔にこれ以上何を言っても無駄である事を悟ったからだ。
「私も、帰る気はないわ。……大丈夫よ。『獣ロ』は強いわ。心配しなくても、進んでいける」
「ルーナ……」
「この間はあまり長く居れなかったでしょう? 今度ゆっくり遊びに来なさいよ。ロウ。ルークの可愛さに鼻血でるわよ? ふふっ」
「ハハッ。ソイツは楽しみだな……。ローラ! お前はどうだ? 『獣ロ』に入らないか? いま1人だろ? お前も『ロ』仲間だしな?」
「ふふっ。そうね。考えておくわ。久しぶりのダンジョン。この緊張感はやっぱりここでしか味わえないしね」
「ローラ! 『鬼姫』は解散してんだ! もう好きにしていいんだぞ?」
「そうよ。あなたの実力なら、どこででもやっていけるはずよ?」
「2人は私に甘すぎるんですよ。いつまでも子供扱いして……。私の方がずっと歳上なのに……」
ローラは頬を染めながら、拗ねたように呟きながらもどこか嬉しそうだ。
「あそこから50階層に降りれそうよ?」
49階層の毒を常に放っている屍食鬼の群れをルーナの『聖域』を頼りに、巧みな連携で駆逐しながら進んでいるとロアナが口を開いた。
とりあえずの目標にしていた50階層。今回の遠征はここまでという事になっている。ロウは下層の様子をローラとシルフに問いかける。
「ローラ! シルフ! どうだ?」
「それなりに強い魔物のようね。でもこのメンバーなら問題ない!!」
「よし。ロアナ、先行して様子を見てきてくれ」
「わかったわ」
「マインとロイは少しでも休息をとれ! ルーナも魔力回復薬を飲んで、休んでいてくれ。俺も先に『鑑定』してくる!」
「すっかりロウがリーダー面してやがる」
「あら、マイン。あなたに出来るの?」
「マインに出来るはずないだろ。ルーナ。膝枕して欲しい……」
「ふふっ。おいで? ロイ」
「ま、待て! そこは俺の場所だぞ!!」
順調な遠征。この後、悲劇が起こることなど、誰一人として思っていない6人は自分達の『力』を過信した。
いや、事実、強かった。ただ、『未踏の地』に踏み込む事は楽しいだけでなく、とても恐ろしい事であることを忘れてしまっていたのだ。
次話「『2人の死』 ②」です。
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