68話 盾役 アラン・ドーソン ④〜『気づき』と末路〜
―――ノア 「冒険者ギルド 訓練場」
アランは強制的に目を覚まされ、ボコボコの顔で手に紐を結ばれている。もう視界に入れたくもないし、関わりたくない。
それが本音だが、アランから「恩恵」を奪ってしまったことに少なからず罪悪感を抱いた。これは今後、俺が背負って行かなければならない事だ。
自業自得だと思うし、これを機に弱者の気持ちに寄り添って生きて行ってくれれば……と思う。少しでも自分を見つめ直せればいいと心から思った。
俺は斧を受けてくれたエルフの女性に声をかけようとしていると、そばにいたロウが口を開いた。
「ルーク。ルシファーちゃん。アシュリーちゃん。本当に悪かった。2人への暴言は心から謝罪する。2人の『過去』についても、勝手ながら、さっき『見せて』貰った。……本当に悪かったな……。2人がルークを大切に想ってるのも、この街に『害』なす者でもない事もわかった。本当にすまなかった」
ロウはそう言って頭を下げた。俺は2人の様子を伺う。
「目が覚めてすぐにもう謝罪は受けとりましたよ? ルーク様と一緒に居られるのであれば、私は何でも構いません!」
「そうだよ。それに、僕が『魔物』であるのは確かだし、君の言う通りだよ。でも、僕はここに居る事で迷惑にならないように精一杯頑張るよ!? 僕はマスターと居れるなら何だって頑張れるんだ!」
2人の反応に深く安堵しながら俺も口を開く。
「ロウさん。俺、ごめんなさい……。2人の事になると、いや、それは言い訳だよね……。俺は『力』を得た事で、もうこれ以上虐げられないように、俺達を認めてくれる人達以外、全てを『敵』であるように振舞っちゃってた。ロウさんは俺のためを想って、」
「ルーク。仲間を大切に思うのは当然だぜ? でも、自分を忘れていい理由にはならねぇ。2人には本当に悪かったと思ってる。事情を知らなかったとはいえ、これほどまでに『孤独』を抱えているとは思わなかった。完全に俺の落ち度だ」
「ロウさん。俺……」
「ルーク、見失うなよ? お前の『夢』を……お前が思い描く『英雄』ってやつを!」
ロウのその言葉は、すんなりと俺の心に染み込んでいく。知らず知らずのうちに『力』に溺れていたんだ。
自分や仲間に対する言動に、過剰なほど反応し、もう二度と虐げられないように『力』をひけらかしてしまった。
つい先程、我を忘れてしまっただけに、もう二度とこんな事にならないよう、『英雄』……、『父さん』の姿を思い返す。
―――
いつだったか、父さんの肩に乗せられ、故郷の村に来たばかりの頃、村長に挨拶に行った時の記憶が蘇る。
「何が冒険者じゃ!! おめぇはすげぇヤツなんじゃろうが、この村では何の関係もねぇでな! 特別扱いはせんぞ!!」
「ハッハッハッ!! そりゃそうだ!! 村長が、しっかりと『自分』を持ってる村はいい村だ! 俺はたった今、この村に決めてよかったって心底思ったぜ! よろしくな! 村長!」
「ば、バカ者!! 村長『さん』じゃろうが!!」
「おぉ! すまねぇ! 村長さん! 何かあればいつでも言ってくれ。体力と腕っぷししか取り柄はねぇが、頑張るからよ!」
「な、何じゃ……冒険者ってのは偉そうなヤツじゃねかったのか?」
「ハハッ! マイン・ボナパルトだ! 敬語はからっきし使えねぇが、俺はこの村で俺の家族、村の住人、子供からじぃちゃん、ばぁちゃんまで、みんなが笑っていられるように頑張るぜ? ついでに綺麗な川から、緑豊かな山まで、全部を守れるような男を目指す! 俺の新しい『夢』だ!! 色々、教えてくれると助かる。俺達家族を頼むぜ! 村長さん!!」
「……ガッハッハッハ!! 小童が! そんな大層な夢を語りおって! 冒険者に村の事を任せられるか!! 10年早いわ! ハハハッ!」
「あら? 10年ならあっという間だな! ハハハハッ」
幼い俺には怒っているように見えた村長も、最後には大声で笑っていた。母さんはそんな父さんに呆れながらも、心から信頼しているように、愛おしそうに父さんを見つめていた。
両親の周りにはいつも笑顔が溢れてた。
俺はそれが嬉しくて、いつも笑ってたのを思い返したのだ。
畑仕事にも手を抜かない人だった。盗賊騒ぎの時には1人で壊滅させたかと思ったら、その盗賊に仕事を与えて改心させていた。
「ルーク。本当に強い男ってのは、どんな時でも笑ってられるヤツさ! ルーク! お前は『強いヤツ』だな?」
嬉しそうにニカッと笑いながら俺の頭をガシガシと撫でる父さんの姿を思い出す。
―――
(何だ……。俺はすっかり『弱く』なってたんだね……)
俺は心の中で呟きながら、唇を噛み締める。
「ルーク様……?」
「マスター……?」
心配そうな2人の顔に少し泣きそうになりながらも、俺は頭を下げ、ロウに声をかけた。
「先程の失礼な態度、ごめんなさい!! お願いです。俺達をパーティーとして認めて下さい!! ギルドマスターのロウさんの言葉は至極、真っ当な物でした。でも、俺はどうしても2人じゃなきゃダメなんです!! ロウさん!! お願いします!」
俺はまず一番にすべき事を忘れていた。ロウは「ハハハハッ」と大きな声で笑い、
「そりゃ、お前、自分で勝ち取っただろ?」
と笑みを浮かべた。
「違います。ロウさんにちゃんと認めて欲しいんです……。ロウさん……俺は『強く』なりたい……!」
グッと目頭が熱くなる。ロウは物凄く穏やかな笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。
「頑張れよ! 応援してる!! お前たちなら、絶対、『夢の果て』に届くさ!! 俺の『この眼』がそう言ってる!」
「あ、ありがとうござい、ます……」
ロウの言葉と表情が父さんと重なった。姿形はまるで違うのに、鼻の奥がツーンと刺激されながらも、俺は笑顔を浮かべた。
話しが終わると同時に、こっそりと聞き耳を立てていたサイモンが大声をあげた。
「『追放組』の結成だぁーーーー!!!!」
その場に残っている冒険者はなんの事か、まるでわかっていないようだったが、
「「「「「うぉおおおおお!!」」」」」
と大きな歓声をあげた。
その歓声を背に去っていく憲兵達とアラン。正直なところ、まだ複雑な心境であるのは確かだが、俺は声をかけずにはいられなかった。
「アラン!!」
俺が声をかけるとアランは首だけでこちらに視線を向ける。
「……俺は、俺は、……アランに謝れない! でも、アランから『恩恵』を消してしまった事は、一生背負って行くつもりだから!!」
アランは「ふっ」と鼻で笑い、そのまま去って行った。きっとこれは俺の自己満足だ。でも言えてよかった。
ここで声をかけられない俺は、きっと俺じゃない。
俺が黙ってアランを見送っていると、大きな手が頭に乗せられた。俺は相手を確認すると、ロウはニカッと笑顔を浮かべて俺を見つめていた。
「ロウさん。2人にキツイことを言ったのは、『俺のため』でしょ?」
「ん? 何のことだ?」
ロウはそう言って笑いながら、俺の頭をガシガシと撫で、
「テメぇら!! いつまで騒いでる! さっさと酒を飲みに行くか、ダンジョンに潜るかして来い!」
と未だに騒いでいる冒険者達に向かって叫び、憲兵団長、「豹人のロイ」の元に向かい、何やら話し込み始めたようだ。
俺は「ふふっ」と笑ったが、頭に残る感触が懐かしくて、また一つ涙腺を刺激されてしまった。
――― その後の、アラン・ドーソン
アランはその後、王都の地下牢に移送された。ノアの街中での殺人に加え、訓練場での殺人未遂等もプラスされての結果だ。ダンジョン内での罪は加算されなかったが、ノアの街で、「それは事実であった」とされ、重罪人として世間から忌み嫌われた。
アランは自分が生きている事に感謝し、犯してしまった数々の罪を自覚し、改心するまで、2年の月日を要した。
「死」を目の当たりにし、スキルを洗い流されてしまった事や自分がこんな仕打ちを受けている事などを、初めの頃はルークを恨んだりもしたが、初めての「弱者」としての経験に、自分のこれまでを振り返ることが出来たのだ。
罪人がひしめく、地下牢で虐げられる日々に、過去の自分の姿を客観的に知ったのだ。
長い人生を牢の中で過ごす事となったが、その日々は確実にアランの人間性の改善へと繋がった。自分を生かしてくれたルークに感謝し、奪ってしまった数々の命に対して懺悔する事が出来たのだ。
5年で地下牢から、罪人の一般収容所へと移送され、憲兵の監視の元、辺境の開拓や、街道の整備などの刑務作業をこなしながら、その生涯を終えるが、時折り飛び込んでくるルークの活躍を楽しみに、毎日の作業を真面目に取り組んだ。
普通の生活を送る事にアランのスキルは必要なく、恵まれた巨躯と体力は辺境開拓の作業にむいていた。
アランは炎天下の荒地にて、今日も街道整備に精を出す。
束の間の休息時に、からっからの身体に染み渡る、何の変哲もない普通の水に、
「美味ぇ!! 最高だ!」
と小さな幸せを見つけれる事を喜び、自分がそれを奪ってしまった事を懺悔し、自分がまだ生きていられる事に感謝した。
「アラン・ドーソン! 休息終わりだ!」
「はい! すぐに行きます!」
アランは今日も街道を整備している。
次話「その頃、カイルは……」です。
【作者からのお願いと感謝】
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アラン! おつかれ! 刑務作業がんばれ!
昨日、ここまで上げるつもりでしたが、すみません! 「アランざまぁ」これにて終了です!




