66話 盾役 アラン・ドーソン ②
―――ノア 「冒険者ギルド 訓練場」
side アラン
「アラン……お前、一回死んじまえよ」
俺は目の前のルークの姿に全身が身震いする。
先程のロウの旦那との戦闘は俺を萎縮させるには充分だった。それだけに、
(こ、殺しておかないと!!)
という気持ちが増大し、明確な殺意を持って斧を投げた。直撃する寸前、もう何がどうなっているのか、俺はパニックになり、自分が何をしているのか分からなかった。
『対人戦最強』の呼び声高い、元Sランク冒険者を短時間で仕留めたルークの力は、それほどまでに俺に衝撃を与えた。
(次は俺の番だ……)
直感的に「死」を理解し、半ば自暴自棄になり斧を投げたのだ。ルークの名前を呼ぶ大合唱に、
(もう、ルークを殺す事でしか自分は助からない……)
と決意し、だらだらと冷や汗を流しながらも、ルークがロウを抱き上げ、両手が塞がった瞬間に、力一杯に斧を投げつけたのだ。
結果はどっかのバカがルークを守るように立ち塞がり、今、目の前には激怒しているルークがいる。
(だ、大丈夫だ。ルークが人を殺せるわけがねぇ!)
昔からバカ真面目で、カイルとは対極にいたルーク。いつも俺達がやろうとする事に「否!」を突き立て、いくら殴られても、一線は越えなかった「甘い男」のはずだ。
「殺人」という行為はルークにとっての「否!」であり、それを自分で犯すような事は絶対にしない。
ルークに殴られ、口内に血が溢れている状況で、俺はいま、やっと冷静に考える事ができた。
「ルーク。落ち着けよ! 大丈夫だよ! あの女だって、お前のすげぇ『力』で治ったんじゃ、」
俺が口を開くと、頬に衝撃が襲ってくる。
地面を転がりながら、自分が顔を蹴られた事を自覚し、意識が朦朧とする。
(ヤバい。ヤバい! ……『殺される』……)
俺は亀のように固まり、自衛のためにスキルを発動させる。
「『絶対硬化』!!!!」
サイクロプスの攻撃ですら凌いだ、俺の絶対防御。人間の腕力なんて、俺には効かない。
(こ、これで、泣き落とせば、絶対にルークは許してくれる……)
頭をフル回転して、何をどう謝ればルークが許してくれるのか? を懸命に考え始めると、ルークの青い瞳と目が合った。
氷のように冷たい瞳に、中性的な顔立ち。背筋に虫が這っているかのような寒気に俺は心の中で絶叫する。
(嫌だ、嫌だ、嫌だ!! 俺は死にたくない!!)
自分の荒い呼吸がやけに大きく聞こえる。
「『絶対硬化』!! 『絶対硬化』!! 『絶対硬化』!!」
俺は何度も何度も叫び、亀のように丸まった。あの冷たい瞳に絶望を突きつけられてしまった。
―――
アランがスキルを発動させるための叫びだけが、訓練場には響き渡っている。周囲の冒険者達はただ、ことの成り行きを静観している。
「『絶対硬化』!! 『絶対硬化』!!」
何度も何度も叫んでいるが、何度叫んだところで、俺の前では無意味だ。
本来、こんな事は許されないのだろう。『恩恵』はその人の全てだ。死ぬまで付き合って行く、『人生』そのものであり、大事で大切な物だ。
(コイツの『人生』を終わらせてやる……)
俺は巨体を小さく丸まらせているアランの肩に触れると、アランはハッとしたように、顔を上げ、瞳に「希望」を滲ませた。
吐き気がする濁りきった瞳に嫌悪感が湧き上がるが、俺はその「希望」を根本から絶つともう決めている。
「『恩恵洗濯』……」
アランは俺の言葉と自分を包み込む虹色の粒子に、慌てて声をあげる。
「何した!! ルーク!! テメェ!! やめろ!! 何だ? 何したんだよーーー!! ハァッ、ハァッ、ハァッ。やめろ!! やめてくれー!! 殺さないでくれーーー!!」
アランは粒子が全て溶け込むと同時に涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔をキョトンとさせ、心底、安心したように笑みを浮かべ、口を開いた。
「ハッ、ハハッ。ありがとう!! ルーク!! よかった。生きてる……。ハハッ。そりゃそうだよな? お前が『仲間』を殺せるはずねぇよな?」
「ふざけんじゃねぇーーー!!」
俺はアランの言葉にまた拳を振るった。またも遠くまで転がって行くアラン。口からはダラダラと血を流しており、訓練場に血溜まりを作っている。
「な、なんで……? 痛ぇ……。何でだよ? 俺の『絶対硬化』は……? 『絶対硬化』!!」
アランは叫ぶが、もちろんスキルは発動しない。アランは血走った瞳を俺に向け、また声を張り上げた。
「ルーーク!!!! テメェ。何しやがった!! 俺がこんなに謝ってるのに、何してくれてんだよ!!??」
「お前、何言ってんだ? ヘラヘラと笑ってるだけで、お前は一回も謝ってねぇだろ?」
「テメェ、下手に出てりゃいい気になりやがって!! 舐めてんじゃねぇぞ!!」
「うるせぇ……大馬鹿やろうが」
アランは俺の言葉に鼻息を荒くする。グッと何かを決意したかのように俺を睨み、声をあげた。
「チィッ!! おい! テメェら!! 俺に加勢したやつにはかなりの褒賞を出してやる!! いい女も、美味い飯も好きなだけ、用意してやるぞ!! 誰でもいい!! 俺に力を貸せ!!」
アランは周囲の冒険者達に向かって叫ぶが、皆はずっと黙りこくったまま、誰一人として口を開かない。
「何してる!! 早くしねぇか!! なんでも好きなものを与えてやるって言ってんだよ!! 誰か、ルークに突っ込め!!」
冒険者達の反応は一切ない。俺はアランに向かって歩みを進めると、アランは、
「『絶対硬化』!! うぉぉおおおお!!」
と大きな叫び声を上げながら俺に拳を向けてきた。
(まだスキルが使えない事に気づいてねぇのか、この『無能』は……)
俺はアランの馬鹿さ加減に心底呆れながら、その拳に集中する。巨体のアランの握り拳の「指」に目掛けて俺は自分の拳を振り抜く。
バキッ!!
破裂音は骨が砕ける音。
「ガァアアアアア!!!!」
叫び声はアランの物。アランの人差し指と中指は、反対側に曲がっており、骨が砕けている事は一目瞭然だ。
「何で、何でだよ!!?? 俺の『硬化』は? クソッ、クソッ!! ルークゥウウウウ!!!! テメェエエ!!」
「もうお前のスキル『洗濯』しちまったよ……」
「このクソヤロウがぁあああ!!」
アランは反対の拳を振り上げ、俺に向かって突進してくる。俺はアランの拳より早く、アランの顔に拳を叩き込む。
吹っ飛ぶアラン。転がったままのアランはピクリとも動かない。恐らく、意識を失っているのだろう。
(どっちがクソ野郎なんだよ……?)
俺はそう呟きながらアランへと歩みを進めると、1人の冒険者の男が俺の前に立ち塞がった。
次話「盾役 アラン・ドーソン ③ 冒険者達」です。
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今日で、アランざまぁ終わらせる予定です!
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